痛快アクション映画
私はうれしい。
カフェで千里と向かい合っている。
「かなめさん、東大理学部合格おめでとう」と彼女が言ってくれる。
「ありがとう」と私は答える。
私は両親の説得に成功し、東大の法学部でなく、理学部を受験した。猛勉強の成果があって、受かることができた。
ビルの中の倉庫に閉じ込められて生死を共にした千里に真っ先に報告した。親よりも先に。
彼女は我が事のように喜んでくれた。
都合を確認し合って、合格発表の翌日、私たちはこうしてデートしているというわけだ。
去年の10月、千里は先輩から強要されて万引きをしたあげくの果てに誘拐された。
その事件はいじめをしていた先輩たちにも重く受け止められたらしい。
脱出後、彼女をいじめる者はいなくなった。
「春からかなめさんは東大生かあ。あたしも成績を上げなくちゃ釣り合いが取れないなあ」
「千里はインターハイをめざしてバレーボールをがんばればいいんじゃない? 悔いのないように高校生活を送った方がいいよ」
「そう? じゃあかなめさんを最優先にするよ。バレーは次で、勉強はその次かな」
私たちが監禁されたのは、犯人たちの父親が所有するビルだった。
父親は重度の認知症で施設に入居しており、中央3丁目にあるそのビルは息子たちが実質的に管理していた。
兄はコンビニのオーナー店長で、犯罪を計画した。
実行犯の弟は建築会社で技師を務めていたが、昨年仕事を辞めている。ビルの倉庫の監禁部屋への改造は彼が行った。
私と千里の誘拐は昨年10月17日の夜に相次いで実行され、見事に成功した。目撃者はいなかったようだ。
最初に千里が部活を終えて帰宅中に誘拐された。午後6時頃のことだ。犯人たちはリップを万引きした彼女を狙っていた。
次にその日ゼリー飲料を万引きした私が捕まった。私はついでとばかりに犯人たちのノリで誘拐されたようなのだ。
たまたまふたりの女子高生を捕まえて、「ひとりしか生きられない部屋にふたりの女の子を監禁していたぶる遊び」が行われることとなった。
警察は捜査していたが、犯人に辿り着く前に私たちは自力で脱出した。犯人はふたりとも逮捕された。
それが私の知り得た事の顛末だ。
兄弟がいかにして歪んだ心を持つようになり、誘拐監禁を行うに至ったのか、その闇までは知らない。
私はコーヒーを飲み、チョコレートケーキを食べている。
千里の前には紅茶といちごタルトがある。
監禁はろくでもない出来事だったが、おかげで私はパートナーを得ることができた。
同性の恋人がいることを私は隠していない。
この後ふたりで痛快アクション映画を見にいく。
ひとりしか生きられない部屋に美少女ふたり 完