変混
全てフィクションです。実際の団体・名前とは一切関係ありません。
晴天の中、傘を持ち、走る。
くすんだ薄青の傘はその影で地面を覆う。
視界の隅に写る“奴”を薄目で見ながら、翅の欠けた蜻蛉のように舞う。
自分が何をしたのかも分からない。でも心当たりがない訳では無い。だが、追いかけ消してしまわねばならない程であろうか
彼女は知らなかった
──自分が「ラストアンブレラ」だということに。
︎ ✦︎
生ぬるい水滴が頬を撫でる。
知らないわけがない感覚を認めると次第に現実が入り込んでくる。
音のしない部屋の中で起き上がる。窓をぼんやり眺めていると緑に覆われた建物だって昔は輝いていたのでは無いかと思い始める。
────バチッ
自分の頬を叩く。そんな訳がない。昼も夜も光り輝く建物なんて。道端のおじいにでもなってしまったのだろうか。
着替えると深くつばの着いている帽子をかぶり家を出る。改めて自分の住処を見る。蔦が蔓延っているが、なかなか状態はいいのでは無いのだろうか。それにこのマンションの住人だって良い人だ。
自慢する相手なんて居ないのだが。
この土地で最も有名な赤と白の塔、旧東京タワーに向かう。昔は電波塔としての役割だったらしいが今はただの目印でしかない。
こんな話は全て作り物だと言う人も居る。
だって今の東京タワーなんて草をまとったただの塔なのだから。
それでも私のおじいさんは言っていた。
おじいさんは2010年生まれだという。
おじいさんの子供の頃は今とは比べ物にならないくらい発展していて電車は動くしスマホという光る板のような機械があったのだ。スマホというものは嘘だと思うけれどそんな嘘を信じて作る輩もいる。
おじいさんの生まれた頃は今に比べれば暑かった。死ぬまでそんなことを言っていた。地球温暖化が進んでいた地球は進みすぎた技術により化学製品から出てきている熱や有害物質が地球温暖化を進めていることを知った。熱や有害物質を取り除くために“化学製品のみを破壊する放射線”を放った。その瞬間日本中の機械製品や化学製品が無くなった。一瞬にして消えたのだ。しかも人々は体内に化学製品を埋め込んでいた。人々は消えた。化学製品と共に。残ったのは体内に埋め込んでいなかった当時58歳だったおじいちゃんのようなお年寄りや年齢の足りない子供だけだったという。自身の研究により自滅してしまった日本の化学に呆れたと言っていた。
しかし、亡き研究者のおかげで地球温暖化は止まり、気温は下がった。
残された者たちは何とかして子供を育て未来を担って貰おうと必死だった。その甲斐会って日本は今農業を行い食べ物を売るということのみできるようになった。人々は幸せだ。何故なら過去を知る者なんて少なすぎるからだ。昔と比較なんてできないから。
『──い、おい!』
はっとして耳を澄ます。指示のためのワイヤレスイヤホンが喋る。残されたイヤホンをかき集めて話が出来るように改造した、最先端の道具だ。我々が作り上げた訳では無いが。
『右手が膨らんでいる奴だ。』
辺りを見回すと若干だが右手の肘から手首にかけて膨らんでいるように見える奴がいる。
近ずき声をかける。
「君、日本保護軍だよね?」
声をかけられた彼は私を上から下まで舐めるように見る。
私達は歩き出す。皆昔の人はこの国が変わったという。“私も”そう思う。道端のおじいのような考え方ではなく。周りを取り巻く靄のようなものだ。
何が変わったのかはっきりとわかる訳ではないけれど変わってしまった。
この国は変わってしまった。