表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/59

薬草

 とはいえ、薬草が生えているのは外。


 この視界でいきなり外を歩くのは怖い。

 だから、まずは家の中の物をすべて把握することからはじめた。ほら、折角便利な魔法を使えるんだからさ。


 『調べる』魔法でこの家自体を調べると、「破魔の木で作られた建物。現在二名居住。地上二メートルの位置に建設されている」ということがわかった。破魔の木というのは魔獣が嫌う木だというのは、知っている。


 『調べる』魔法で部屋の物を調べるのも、元々極端に物が少ないから、すぐに終わってしまう。


 そうなると、やっぱり外が気になる。

 でも、ここは魔獣が跋扈ばっこする第三層。集落の周囲は、破魔の木で作られた柵で守られているそうだけれど、正直怖い。


 でも、そんなことを言っていたら、一生この部屋暮らしのおんぶに抱っこだわ。


 だから、今日は意を決して家をすこしだけ出てみようと思う。


 勿論ただの無謀ではない、身を守る手段は考えた。


 なにせこの世界の真理を知っているので、この世界の真理の一部である魔力と魔法についてもしっかりと理解している。魔力を魔法へと変換する理屈さえわかれば、魔力が満ちていればどんな魔法だって行使することができるのだ。


 木製のドアに手を掛けて、自分に防御の魔法をかける。イメージとしては、わたしの皮膚を覆う強固な膜が、どんな凶悪な刃や牙なんかも通さないという感じ。

 試行錯誤した結果、この膜を広くすることはできるけれど、そうすると物に触れることができなくなるので、肌にくっつくように魔法を展開している。こうすれば、手で物を掴むことも可能だから。


 恐る恐るドア開けてみる。


 ぼんやりとした視界だけど、清々しい空気と広い外の世界に頬が緩む。

 やっぱり、狭い世界にずっといるのはよくないわ、外の空気を吸わないとね。


 ドアを開けたまま、しばらくそうして外を堪能してから、一歩を踏み出した。


 玄関前には広めのフロントポーチがあり、地面まで結構な高さがある。地面に向かって階段はあるけれど、手すりはない。

 知識としては知っていたけれど、本当に床が高いのね。


 地面に下りるのはまだ怖いから、ドアを出たところに座って外を眺めた。

 朝出て行ったレヴィが戻るのは夕方になるので、それまでに部屋に入れば大丈夫だろう。


 だけど、ぼんやりした視界で外を見ていても……すぐに飽きてしまう。視界が悪いせいか、すぐに眠たくなってしまうのよね。


「折角だから、外の物でも調べてみようかしら。遠距離でも、いけるかしらね」


 ぐっと目に力を入れて、視界いっぱいに『調べる』魔法を使う。

 ブワーッと一気に情報が流れ込んで、一気に魔力が底を突いた。


 魔力切れで強制的に情報がストップして本当によかった!

 処理が追いつかない情報っていうのは、脳に負担がかかるのね。ズキズキと痛むこめかみを揉んでから、体育座りの膝に頭を預けて溜め息を吐き出す。


「うまくいかないなぁ……」


 異世界に来たら、魔法で色々やろうと思っていたのに。それ以前に、目がちゃんと見えないなんて思いもしなかった。

 魔獣という驚異が身近にあるこの世界で、わたしはちゃんと生きていけるのだろうか。


 いつまでもレヴィのお世話になるわけにはいかない。

 今は子供だと思って保護してくれているんだとしても、これから先わたしが大人であることが知られてしまえばどうなるかわからない。

 この世界の文明とか、福祉レベルとか、そういった生活に重要な部分は、世界の真理という枠から外れているらしく、常識と呼ばれる知識がまるでないというこのていたらく。


「泣いてもいいかしら?」


 なんて呟いてみたけど、泣くわけはない。だって、わたしは大人だから。


「さてと、魔力が少しは回復したから、もう一回挑戦してみようかな」


 気を取り直すために、声に出して自分を鼓舞する。


 今度は地面に下りて、対象物の近くでやってみよう。下りるのは怖いけれど、防御の魔法をちゃんと効かせておけば大丈夫に違いない。


 手探りで階段まで近づき、座ったまま足先から一段ずつ慎重に階段を下りる。


 案外、大丈夫だった。

 一段の高さもそんなに高くないし、上がる時はもっと楽に行けそうだ。


 じゃりっと地面を足が踏み、恐る恐る立ち上がる。

 家の前の地面は茶色で、草の類いは生えていないのがわかった。除草剤とか撒いて草が生えないようにしてあるんだろうか? それとも魔法で?

 そんな疑問を考えながら、ゆっくりと足を踏み出して緑のある場所を目指した。

 とはいえ、ほんの数メートル先にあるんだけどね。


 草の側にしゃがみ、その葉に触れてみる。……そっか、防御の魔法を使っているから、触れた感触がないんだ。


 これだけ近ければ、『調べる』魔法もこの草にしか効かないでしょう。


「『調べる』魔法。ええと、微量の毒を持つ草? え、毒草がこんなに身近にあるの? 薬草じゃなくて?」


 焦りながら、他の草に触れて調べてみる。


「こっちは、ちゃんと薬になる草ですね。止血の効果があって、他の薬草と合わせることで、効果が上がるのですね」


 薬を作るのに必要な上から三枚の葉っぱのところまでを指で確認してむしり、魔法で作った異空間に入れておく。


 この異空間はそんなに難しい魔法ではなくて、ちょっと次元を変えて時間を排除した場所に干渉して使うので、品質の劣化はない。生き物を入れても大丈夫だし、わたしが入ることも可能なはずだけど、時間を排除してあるので出られなくなる可能性が高いので、絶対に入らない。

 入ったが最後、朽ちることもなく、その空間に居続けることになったらツライもんね。


 まぁそんな、ちょっと危険な空間なんだけど、物の保存には適しているわけだ。

 今日のお昼ご飯のパンも入れてある、ここに入れておけば固くならないからね。


 薬草だと判明した草をむしり尽くしていく。

 万が一を考えて、ひとつづつ調べながらなので時間はかかるけれど、なんせ薬なので迂闊なことはできない。視界がぼやけているのも、慎重になる一因だけどね。

 何本か毎に毒入りの草も混じってるから、安全を取ってしかるべきだし。


 そうやって、集中して草を摘んでいたら、気づけば日が傾いていた。

 いけない、いけない。レヴィが来るまでに家に戻らなきゃ。


 家から出るなと言われているわけじゃないけれど、なんとなくマズイ気がするし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

前回連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が、一迅社文庫アイリス様より書籍化されました! よろしくお願いいたします! 文庫なので携帯性に優れておりますよー
中ボス令嬢
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ