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月見窓

お待ちいただき本当にありがとうございます!

まだまだオッサン2人の絵面です。

 檜風呂っぽいお風呂でゆっくりお湯につかったあとは、体格のいいレヴィやおっさん姿のわたしでも足りる特大サイズの浴衣を着る。


「今日は月が綺麗だな」


 彼の視線は窓の外に向かっていて、『愛している』という意味ではないとわかっているので、ときめきそうになる心を押しとどめる。


 ああそれにしても、先に風呂に入り丸窓の障子を開けて畳の上でくつろいでいたレヴィと、小さな行灯(あんどん)のほのかな灯りがとても嵌まっている。

 カメラが無いのが無茶苦茶残念だわ。この画を写真に撮って額に入れて飾っておきたい、破壊的なかっこよさにクラクラする。


 すこし離れて正座で座り、彼の姿を脳裏に焼き付けているわたしに、月に向かっていた彼の視線が移動して誘うように右手を伸ばしてくる。


「こっちに来いよ」


 囁くような低い声。

 写真じゃなくて、動画を撮りたかった……っ!

 胸をずきゅんと撃ち抜かれた音が聞こえた気がする、わたし、もう瀕死ですよっ。


 大いに悶えている内心を押し殺して、じりじりと彼の側に寄り、窓から月を見上げる。


「本当に、月が綺麗ですね」

「月をよ……この窓から、アキと見上げるのを楽しみにしてたんだ」


 そう言ってわたしを見る。


「まぁ、今のわたしはこの通り、おっさんですけれどね」

「そこはちょっと惜しいよな。だけど、アキはアキだからよ」


 肩に腕を回して引き寄せられる。

 ドキッとしてしまうが、いまはオッサンなのだ。おっさんが二人で肩を組んでいる絵面になるわけでっ!

 シュールな第三者視点を意識しながら、なんとかドキドキする鼓動を落ち着かせる。


「まだ旅の途中なのに、元の姿に戻りたくなってしまうじゃないですか」


 女の姿での旅は色々と面倒が多くて、この規格外に大柄のおっさん姿での楽さを知ってしまえば、あちらの姿での旅はしたくなかったのだけど……。


「戻ってくれていいぞ、俺が守るから」


 わたしを見る彼の目の真剣さに、胸が張り裂けそうになる。

 戻ってしまいたいという気持ちが大きくなってしまう。


「だけど、まぁ、元の姿のアキは可愛過ぎるからなぁ。そこが悩みどころだ」


 わたしの肩を放した彼が、腕を組んで口をへの字に曲げる。


「わたしなんかを可愛いなんて言うのは、レヴィくらいですよ」


 離れた彼の温もりを惜しく思いながら、すこしだけ憎まれ口を叩く。


「そんなことはねぇ、自覚が足りねぇんだよ。アキは可愛いし、イイ女だ。それにあんな薬も作れるからなぁ……正直、付加価値が高すぎて心配が止まらねぇんだよ。いつ誘拐されてもおかしくねぇ」


 彼が本当に困り果てたように言うから、思わず笑ってしまった。


「安心してください、元の姿に戻れば魔法がバンバン使えますから。わたしを利用しようとするヤツらなんか、一撃ですよ」


「ははっ、確かに一撃で屠れるな! いいかアキ、少しでも疚しい動きをする男には遠慮も容赦もいらねぇからな?」


 小さい子に言い聞かせるようにわたしに言う彼に、笑いながら頷く。


「わかりました、全力で対処しますね」


「だけどよ、四六時中一緒に居るようにはするつもりだけどよ、万が一が無いとはいえねぇからなぁ」


 苦い顔なのは、第三層でわたしを失った時のことを思い出しているんだろうか?

 あれは……わたしが悪かった。

 目もろくに見えないのに、家の外に出たりして。あまつさえは、男に襲われ、巨大鳥にテイクアウトされてしまう始末……。


「レヴィ……あの時は、勝手に家を出てごめんなさい……」


 口を突いて出た謝罪に、彼は一瞬きょとんとしてから、わたしが何に謝罪しているのか察したらしく緩く首を横に振った。


「もう終わったことだ。こうして、生きて再会できたんだから、もういい」


 そう言いながらわたしを抱きしめ、頭を撫でてくれる。

 彼の強い力が、彼の後悔やここに至るまでの苦労を感じさせて、わたしの胸は押しつぶされるように痛んだ。


 ドンドンドンドン!


 突然鳴ったドアを叩く音に、心臓が飛び出るほど驚いた。


「なっ? なに!?」


 動揺するわたしの肩を、厳しい表情をした彼が宥めるように軽く叩いてから立ち上がり、立てかけてあった剣を手に、玄関へと向かった。


「誰だ」


「昼間ご来店いただいた、ヒラガ魔道具専門店でございます。至急のお知らせをお持ち致しました。どうぞこのままお聞きください」


 ドアの外からだが、はっきりした声が聞こえる。これもこの家の機能だろうか? 家主の意思に応じて、外の音をよく拾うようになる、とか?

 この家のお値段って、恐ろしい金額なのでは……。


「つい先程、闇ギルドへレヴィオス様とアキ様の手配書が出されました」


「闇ギルドに手配書? 手配内容はわかるか」


 レヴィの固い声に、緊張が高まる。

 闇ギルドというのははじめて聞くけれども、どうにもいい語感じゃない。手配書というのも不穏さしかない。


「闇ギルドへの依頼なので、手配という一点のみでございます。とにかく、どうぞご用心ください」


「ご忠告、痛み入る」


 レヴィが礼を言うと、すぐにドアの外の人物は去って行ったようだ。


 剣を下ろしたレヴィは、畳の上にどっかりと座ると苛立つように頭をガシガシとかきむしった。


「十中八九、あの馬鹿女だろうよ。手段を選ばなくなったってことは、あっちも追い詰められてるってことだろうな」


「わたしたちが王都へ行くことが、やはり問題なのでしょうか」


「俺が新聞社に今までのことを言えば、間違いなくあいつは新聞社に居られなくなる。それだけじゃねぇ、集魔香なんて使ったのが明るみになれば、身の破滅だろうさ」


「自業自得ではありませんか?」


「自業自得だよなぁ。でも向こうはそうは思わねぇんだろう」


 傲慢そうな女性だったもんなぁ。


「理由はどうあれ、闇ギルドに手配書か……マズイな」


「マズイんですか?」


「あそこは金次第で、なんでもやるところだ。悪人の護衛や、要人の暗殺もな。そんな場所に手配書が出たってことは、俺たちの命が狙われるってことだ」


「……手配書って、殺しの依頼ってことだったんですね」


「本来は生死を問わず、依頼主に引き渡すってもんだが。殺した方が面倒がねぇんじゃねぇのか? 大抵は殺されて依頼達成らしい」


 ひぇ……。


「俺たちみたいな大男二人組なんて、見つけてくれといってるようなもんだしなぁ」


 体格のいいこの世界でも、一層体格が良いレヴィとわたしのペアなら、すぐに見つかってしまうっていうのはわかる。

 ということは――


「アキは元の姿に戻れ。そして、ヒラガに庇護してもらうんだ。俺は当初の予定通り、王都に行く」


 わたしを真っ直ぐに見て言う彼に、わたしはグッと奥歯を噛みしめた。

なるべく早く、次の更新ができるように頑張ります!

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前回連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が、一迅社文庫アイリス様より書籍化されました! よろしくお願いいたします! 文庫なので携帯性に優れておりますよー
中ボス令嬢
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