再開
たくさん食べて、寝るを繰り返し、いつもよりもずっと早く万全の状態になった。
やっぱり気の持ちようが違うと、回復力とかも違ってくるのかもしれない。
「今日から、もう大丈夫か?」
「はい、お待たせいたしました」
宿を引き上げてわたしの部屋に転がり込んできたレヴィと一緒に、部屋を出る。
なんていうか……大柄な男二人の共同生活だったわけだが、思ったよりも快適だった。
わたしは食事と睡眠で体を作り、レヴィはやることがあるからと町に出るなど、日中はお互い自由に過ごし、ご飯はレヴィが買ってきてくれたものを一緒に食べ、夜は穏やかに時間を共有する。
そして、体調が万全となった今日からは、本気でBランクを取りに行く。
朝早くに二人で家を出て冒険者ギルドに顔を出し、あらかじめ目星をつけていた依頼を三つ手にして、受け付けカウンターに提出する。
「――大丈夫ですか? こんなに、一度に」
「問題ありません。手続きをお願いします」
笑顔で押し切り、依頼をもぎ取った。
「レヴィオスさん、では参りましょうか」
「ああ」
ギルドの入り口で待っていてくれた彼と合流して歩く。
冒険者の中でも大柄な男が二人なので、自然と人が割れて道ができるのが面白い。
「おっさん、腹壊したの治ったのか? Aランクの冒険者に飯を買いに行かせるなんて、あんたくらいだと思うぜ」
ビレッドに声を掛けられて、なんのことだと思ったが、レヴィがわたしの家に住む理由付けとして、看病をでっち上げたらしい。
事前に一言欲しかった。
「レヴィオスさんのお陰で、お腹の調子はすっかりよくなりました」
「こんな稼業だ、なにかあれば助け合うのは当然だろうが。特に今は、俺たちは二人でパーティを組んでるわけだしな」
などと、もっともらしいことを言って煙に巻き、パーティに入れて欲しそうな顔をしているビレッドを置いて、依頼へと向かった。
夜まで掛かったものの、当日中に三件の依頼を終えて、受け付けの職員を驚かせてから、二人で夕飯を食べに屋台の通りへと足を向ける。
「そういえば、レヴィオスさん。荒れ地で回収した魔獣って、どうしたんですか?」
「あ……! そういや、アレもあったな! ビレッドにも分け前やらねぇとな」
あの後すぐに、迷いの森でも魔獣の件があったので忘れていたと朗らかに笑った。
「アレがあれば、まぁ間違いなく、昇格はできるだろう。……横やりが入らなきゃな」
「横やりがありそうですか?」
わたしの質問に渋い顔をした彼は、少し考えてから、わからねぇと呟いた。
「釘を刺しておこうと思って、ここ二日探したんだが、どうやらこの町から移動したらしいんだよな」
あの記者の女性の姿はこの町になく、情報を求めてまわったところ、どうやら王都に戻ったらしいということだった。
「先手を打つ気なのかもしれねぇ」
「集魔香の件のですか?」
「それもそうだし、アキのことを探りに戻ったのかもしれねぇし、どっちもかもな」
「どっちにしても、レヴィオスさんのことを諦めていないということですね」
そう言うと、彼はうんざりした顔で肩を竦めた。
「あっ! おっさんに、レヴィオスさん! 一緒に飯食いませんか!」
めざとくわたしたちを見つけたビレッドが、三人で囲んでいるテーブルに呼んでくれた。
混み合う時間帯なので、相席できるのはありがたい。
ビレッドのパーティーメンバーも快く受け入れてくれた、間違いなくレヴィ目当てなのがわかる目の輝きで彼を見ている。
迷いの森での彼の活躍を知れば、まだ若い冒険者は憧れを抱くだろうから、その視線は仕方がないことだ。
うん、レヴィはカッコイイしな。
「そういや、迷いの森の魔獣の暴走っすけど、一人だけ犠牲者が出たって、聞きましたか?」
「いや、初耳だ。だが、あの日は、誰も死ななかったはずだが……?」
声を潜めたビレッドの言葉に、レヴィが怪訝な顔をする。
確かに、わたしが魔法で参戦したし、薬も大盤振る舞いしたので被害はなかったと思っていた。
「回収した魔獣の腹から、タグが出てきたらしいっす」
「それが、どうやら冒険者じゃなくて、騎士タグだったらしくて。大騒ぎですよ」
「ギルドマスターが箝口令を敷いたので、すぐに収まったけど、影ではみんな噂してますね」
「地元の騎士じゃなかったらしいっす」
「該当の貴族に確認を出しても、そんな騎士はいないの一点張りだって」
「あからさまに怪しいけど、貴族だからそれ以上突っ込めないらしいです」
口々に情報を教えてくれるお陰で、どこの貴族に仕えていた騎士かもわかった。
レヴィの人徳は素晴らしいな。
有意義な情報をくれた三人に礼として酒を一杯ずつ奢って、二人して口数も少なく帰路についた。