ヒントたくさん
両手に戦利品を抱えほっくほく。異空間に入れずに、敢えて手で持つスタイルです。
大量に何着も買おうとするレヴィを押しとどめ、わたしの気に入ったものを一式と、彼の気に入ったものを一式購入するにとどめた。
今日で全部揃えるより、何度もデートして少しずつ揃えたいという提案を受け入れてもらえてよかった。
すっかりお昼も過ぎて人も減ってきた屋台でご飯を食べて、片付けたところで、レヴィが爆弾を落としてきた。
「さてと、それじゃぁ、アキの部屋に行こうか」
「え? えっ?」
戸惑っているうちに手を引かれて、『我が家』に着いていた。
これはもう、おっさんがわたしだとバレたと思っていいのだろうか?
「ここだろ? まずは、なかに入れてくれねぇか?」
「はい……」
なんでもないことのように言う彼に急かされて、腹をくくって鍵を開けた。
ダイニングテーブルに向かい合って座って、気分は事情聴取です。
「ええと――どのようにして、(わたしがおっさんだと)気づいたのでしょうか……」
やや背を丸めて、彼にお伺いする。
彼は悠々と足を組み、テーブルに肘をついてわたしの方へ手を伸ばしてきた。
「手」
手……を出せばいいのかな?
おずおずと手をテーブルの上に出せば、その手を取られて指を絡めて繋がれる。
「に、逃げませんよ?」
「逃げるなんて、思ってねぇよ。俺が、手を繋ぎたかっただけだ」
微笑んで言われて、テーブルに突っ伏しそうになった。
わたしの心臓を止めたいのかな。
「それで、どうしてアキが、あの冒険者だとわかったか、だったな」
・口調が同じ
・さらっと出したハンドサインを理解した
・冒険者アキに頼んだことをわたしが引き継いでいた
・わたしがニホン人だとすれば、冒険者アキである可能性がゼロではなくなる
・名前がこの世界では珍しい
「なにより、どっちのアキも、俺は一目で気に入ったからな」
そう言って、繋いだわたしの手の甲をすりすりと指で撫でた。
そんな言動の直撃を食らったわたしが、テーブルに突っ伏してしまったのは仕方のないことだと思う。
「レヴィは口がお上手なので、わたしの胸がすぐにパンパンになってしまいます……もう少し、手加減していただけませんか」
突っ伏したままもごもごと申し立てると、笑われてしまった。
「でも、レヴィにバレてよかったです。明日からまた一ヶ月弱の期間、あの姿になりますので」
顔を上げてそう伝えると、彼が愕然とした。
「一ヶ月? 夜はアキに戻れるんだろう?」
「いいえ。アレは魔法で肉体を変化をさせて、その上で三日間かけて食事をしっかり摂って血肉を増やさなくてはならないので、簡単に体を戻すことはできません」
「……それは、もうやめることはできないのか?」
やめてくれと、強要しない彼の優しさに救われる。
「レヴィにも言ったことはありませんが。わたし、本当は男の人がとても苦手なんです、怖いんです」
そう告白した途端、わたしの手を離そうとした優しい彼の手を握り返す。
「レヴィだけ。レヴィだけ怖くなかった。だから、こうして普通にお話しできているんです」
わたしの言葉に、彼はホッとして手を握り返してくれた。
「ただ、他の男性は怖いままなんです。でも、あのおっさんの姿だったら、平気でいられる。誰にも恐れずにいられるんです」
今日はレヴィがいてくれたから平気でした、と打ち明ける。
「そうか……。やっぱ、監禁か」
彼の呟きを拾って、少し悲しくなる。
「監禁しますか?」
「しない」
間髪を入れず否定した彼の真剣な表情にホッとする。
「よかったです」
わたしが笑顔になると、彼もホッとした表情になった。
「冗談でも、すこし怖いので……」
「もう言わねぇよ。冗談だけど、もう絶対に言わねぇから」
そう約束してくれて、心底安心した。
もし本当に監禁なんかされたら、全力で脱出するし、レヴィに裏切られたのが悲しすぎて二度と会うことができなくなるから。
「よかったです」
そう言ったわたしに、彼も強く頷いた。
「本当に、よかったよ」
妙に実感のこもった彼の言葉に首を傾げたものの、今後のことについて話が変わったので、その話はそこで終わった。
「本当に、(監禁を実行する前に知ることができて)よかったよ」