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過保護

 わたしがレヴィの再会の抱擁で気を失い、目覚めたのは撤収まですべて終わってからだった。


 彼の泊まっている部屋のベッドを占領した状態で彼の顔をみた瞬間、反射的にシーツを頭まで被ってしまった。

 わたしのプチ籠城そのままで、気を失ってからの説明をレヴィがしてくれたんだけど。

 ベッドの端に腰掛けた彼にずっとシーツ越しに頭を撫でられていて、いたたまれない。


 再会の抱擁の時分、わたしの肋骨は圧力に耐えられずぱっきりと折れてしまい、慌てたレヴィが急いで治癒薬を飲ませてくれて一命を取り留めたものの、体へのダメージは大きく、中々目を覚まさなかったという。


 ああああ、なぜあのとき防御の魔法を解いてしまったのか!

 自分の馬鹿ぁぁぁ。


「本当に、お手数をおかけいたしました」

 シーツ越しにもごもごとお詫びする。


「手数じゃねぇよ。俺の方こそ、すまなかった」

 もう何度目かわからない謝罪をされるが、それもまたいたたまれない。

「さぁ、もうそろそろ、ちゃんと顔を見せてくれよ、アキ」

 彼の言葉に触発されて、意を決してベッドから起き上がり、ちゃんと彼に向き合――った途端に、彼の広い胸に抱き込まれた。


 今度はちゃんと力加減してくれてる。


「アキ――生きててよかった」

 彼の低く擦れた声が耳元で囁く。

 わたしも彼の大きな背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめ返す。

「突然居なくなって、ごめんなさい。心配かけて、ごめんなさい」

「いいんだ、生きていてくれたら、それで」

 わたしが生きていることを確かめるように、頭を、肩を背中を撫でる。


 ひとしきり抱きしめ合い、ホッとしたところで彼のお腹が鳴った。


「悪ぃ、飯を食ってなくてな。アキもなにか食べるだろ? ちょっと買ってくるから、もう少し寝て休んでな」

「はい、待ってます」


 最後にもう一度わたしを抱きしめてから部屋を出る彼を「いってらっしゃい」と声を掛けて見送ると、彼は嬉しそうに笑う。

 第三層でも、こうやって彼を見送ったっけ。


 ちょっとベッドを下りようと思ったところで、自分の服装が下着姿であることに気づいた。

 きっと装備が汚れていたから、寝かせる前に脱がせてくれたんだと思う。


 異空間から、先日買ったワンピースを取り出して着て、お手洗いに行こうと足を下ろそうとして、靴が無いことに気がついた。


「靴も、片付けてくれたのかな?」

 防具屋で一式購入したときに、異空間に入れてあった靴を履いてお手洗いに行く。


 何足かスペアの靴を買って、異空間に入れておいたほうがいいかな? 女物の服もちゃんと何枚か用意しておこう。


 靴を脱いでいそいそとベッドに戻り、ベッドに横になる。


 そっか、これって、レヴィがいつも使っているベッドだ。

 気づいて思わず硬直してしまった。だって、枕やシーツからレヴィの匂いがする……っ!


「――っ」


 ドキドキして顔が熱くなる。

 は、鼻血出そうだけど、深呼吸してしまう。

 レヴィは頻繁に清浄の魔法を使うから、あんまり匂いはしないんだけど、ほんのりと残り香があるの。

 胸がドキドキする匂い。


 そんな不埒な思いでシーツに潜っていると、あっという間にレヴィが買い物から戻ってきてしまった。

 彼のベッドで寝られるなんて、これから先あるかもわからないから、もっと堪能していたかった。


「ただいま、アキ。待ったか?」


 テーブルに荷物を置いた彼が、すぐにわたしの潜るベッドに来る。


「おかえりなさい、レヴィ。早かったですね」

 スーハーしていたのがバレていないことを祈りながら起き上がり、彼を迎えたんだけど、彼の視線がわたしの服に固定されていた。


「し、下着では、恥ずかしかったので、着替えました。……似合いませんか?」


 レヴィに会うために急遽買った服だったけれど、似合わないって言われたらちょっとショックだな。

 さっきまでのテンションは一気に下がり、彼の視線から逃げたくなる。


「に――似合ってる」

 絞り出すように言った言葉なので、額面通りに受け取れない。

 きっと気を遣って言ってるだけだろうな。

 彼に言わせる形になってしまったのが、申し訳なさ過ぎる。

「ありがとう、ございます……」

「いや、本当に似合ってるぞ! アキの肌の色や、黒髪がよく映えて、凄くいい」

 そう言いながら、抱きしめて、髪にキスしてくる。

「あ、ありがとうございます。実はワンピース、これしか持っていなくて。今回レヴィに会うために、買ったんですけど……」

「俺のために? そうか。そうだ、他に持ってないなら、明日一緒に買いに行こう。まずは、腹ごしらえをしような」


 嬉しそうに頭を撫でてくる彼に頷くと、彼はわたしを横抱きにして、テーブルまで運んだ。

 どうやら、過保護が発症してしまったらしく、わたしを歩かせたくないと言ってきかない彼に驚く。

「歩けなかったら、明日一緒に服を買いに行くっていうのも……駄目ということですか?」

 がっかりして聞く私に、彼は慌てる。

「いや、そんなことはねぇ! 買い物に行こう! デートだ、デート、な? 一式買おうな」


 デートという言葉に、胸をときめかせてしまったのがバレたのか、彼が楽しそうに笑った。

軟禁する気満々でした。

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前回連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が、一迅社文庫アイリス様より書籍化されました! よろしくお願いいたします! 文庫なので携帯性に優れておりますよー
中ボス令嬢
― 新着の感想 ―
[良い点] 靴、服・・目を覚ました時に逃げられないように隠されましたかね?プクク [気になる点] 今まで隠されているレヴィ視点が読みたいです。 監禁する気まんまんなレヴィの思いがどのように育ったのか、…
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