告白
「あんた、俺が女嫌いだってのは知ってんだよな?」
レヴィに聞かれて、素直に頷いた。
あの女性記者との会話を聞いていたんだろうと予想できる。
「俺だって、まるっきり女が駄目だってわけじゃねぇんだ。ひとり……たったひとりだけ、愛せた女がいた」
彼の言葉に、今度はわたしが動揺する番だった。
彼は前を向いて歩いていたから、わたしの動揺は気づかなかったと思うけれど。
「――あんたと同じ名前だったんだよ」
突然の告白に、胸の内が荒れ狂い、叫びたくなる。
同一人物ですよぉぉぉぉっ!!!!!
かろうじて叫ぶのは堪え、膝から崩れ落ちるだけで我慢した。
「お、おい、どうした? 大丈夫か?」
両手両膝を地面について項垂れたわたしの横に膝をついた彼が、本当に心配そうに肩を抱えてくれる。
「だ、い、じょうぶです。ちょっと、あの、はい大丈夫です」
「全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか。おい、ビレッド、荷物を持ってくれ」
ビレッドの名前は普通に呼ぶんですね、なんていう憎まれ口を飲み込む。
自分の分の荷物をビレッドに持たせたレヴィは、空いた背にわたしの荷物を背負い、わたしに肩まで貸してくれた。
やっぱりレヴィは親切だなぁ……。
ほろりとしてしまう。
肩を貸してくれるといって引かないレヴィの肩を借りて歩きながら、彼の優しさを再確認して胸がいっぱいになる。
そうだよね、見ず知らずで、目もよく見えない、足手まといにしかならない女を保護してくれるような人なんだし。肩なんかいくらでも貸してくれるよね。
「……その女性に、操を立ててるんですね」
なぜかいらつく思いが、すこしだけ言葉にトゲを立てる。
「いや、まぁ、そういうわけでもねぇんだがな。生き別れちまって、今も探してんだけどよ」
近距離にもかかわらず、思わず彼の顔を凝視してしまった。
「――いまも、探して……?」
まさか、だって、第三層だよ?
生きてる可能性なんて、ないのに。
目もろくに見えなくて、体力もない人間だったんだよ?
「ああ、きっと、生きてる」
真っ直ぐに前を見て言い切る彼に、彼の強さに気圧された。
どうして、そんな風に信じられるんだろう。
生きていることが絶望的なのに、それでも生きていると信じるほどの人間じゃないのに。だって、迷惑しか掛けてなかった、足手まといでしかなかった……っ。
駄目だ、泣きそうだ。
うつむいて唇を噛んで耐える。
「馬鹿だと思うだろ? 周りからも散々言われたよ。だけどな、理屈じゃねぇんだ……」
自嘲気味の彼の声が胸を刺す。
その言葉を最後に、黙々と足を動かした。
わたしは、どうすればいいんだろう。
このまま正体を明かさずにおいても、彼はきっと諦めないのだと思う。
元の姿に戻って、再会すればいいのだろうか。
わたしだって、唯一彼が信じられるのだから。
再会して――感謝を伝えて――それから――?
どんな顔をして会えるだろう。
彼に元の姿で会うならば、冒険者としてのアキの存在を消さなきゃならないだろうか。
彼は……再会して、どうしたいのだろう。
愛を、伝えるんだろうか。
いや、でも、わたしはもう目も見えるようになったし、第三層に居たときとは違うから、庇護する必要もないんだから、興味を失うこともあり得るかもしれない。
そもそも、なぜ彼は女嫌いなんだろう。
モテすぎたから? 女性に騙された経験から?
グルグルと悩みすぎて具合が悪くなってきた。
「ちょっ……と、吐いてきます」
「お、おいっ」
驚いた声のレヴィから急いで体を離し、ある程度離れた場所で思いっきり吐いた。
最悪だ、メンタルにキて吐くなんて、この世界に来てからなかったのに。
やっぱり生理前だから、だろうか。
この体調のときは判断をしないほうがいい、ろくな事にならないことは経験則でわかってるし。
悩むのは、調子がよくなってからにしよう。
そう決めたら、すーっと具合の悪さも引いてきた。
水で口をすすいでスッキリして、わたしを待ってくれている二人のところへと戻った。
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