記者
レヴィを見送り、いま貼り出されているギルドの依頼を一通り確認してから、今日余分に採取した薬草を持って借りている共同住宅の部屋に帰ることにする。
途中、屋台で夕飯を済ませようと、町中へと足を向けた。
こちらの世界は、本当に外食文化が充実していてありがたい。
その代わり、家には簡易キッチンしかない。買ってきた物を、温め直すくらいなら十分にできるから問題はないんだろう。
よく行く屋台でガッツリとした肉料理とパンを買い、店の前にいくつも並んでいるテーブルのひとつに陣取った。
中々賑わっているので、席は大半埋まっている。
なんていうか、体格に見合った食事が必要なので、面白いほどしっかり食べられるのが楽しかったりもする。
大きめのスープ皿に、ごろんとした肉の塊が二つ入り、野菜もゴロゴロしている。
「相席、よろしいかしら?」
肉を一つ食べたところで、目の前にすらりとした女性が立った。ふわりと巻いた肩までの金髪が縁取る小作りの顔、真っ赤な紅を引いた唇に、キリッとした眉に長い睫毛の気の強そうな青い目がわたしを見下ろしていた。
……相席は珍しくないけれど、女性で、更には手ぶらというのはレアケース。
きっちりとしたパンツスーツが、雑然とした町に浮いている。
男性的な三つ揃いのスーツを着た女性は、わたしが許可を出すのを待たずに向かいの席に座り、揃いの布で作った帽子を膝に置くと、内ポケットから出した名刺をテーブルに置いた。
全世界新聞社 記者カルーダ・アングストン
全世界新聞社といえば、その名の通り全世界を股に掛けて報道する、大手の新聞社だ。
超一流企業であり、かの新聞社には色々と特権が与えられているとか。そこで記者をしているならば、かなりデキる人なんだろう。
「ここは、食事をするところですよ」
食事もせずに席を取ろうという彼女に、それとなく注意すれば。軽く鼻で笑ってスルーされる。
「あなたは、Cランクの冒険者のアキですね? 今度、レヴィオスと組むことになった」
わたしのみならずレヴィまで呼び捨てにされて、一気に警戒心が増す。
「それを、どちらでお聞きに?」
ギルドには守秘義務があるので、そこから漏れたわけではないと思うが。ギルドで手続きをしたときに周囲に他の冒険者もいたから、そこら辺から漏れたんだろうか。
「あら、ご存じありませんか」
小馬鹿にした感じでそう言った彼女は、全世界新聞社ではAランクの冒険者には記者が付いているのだとわざわざ教えてくださった。
「ご存じのように、我が社の記者証があれば、ギルドに担当冒険者の情報を、開示請求することもできますから」
存じませんけれどもね。
ドヤ顔の彼女に水を差すのも面倒で、無言で頷いておいた。
「それで、わたしにどのようなご用件でしょうか」
十中八九レヴィのことだろうけれどと思いながら聞けば、案の定そうだった。
「あなたは、レヴィオスのことをどれだけご存じ?」
足をゆったり組み、細い顎を軽く上げて聞いてきた。
素晴らしく高飛車な感じだが、似合っているのが腹立たしい。
「そうですね……Bランクから最短でAランクへ昇格したこと、女性が苦手なことなどは存じております。失礼、食事が冷めてしまうので、お話しを聞きながら食べてもよろしいですか?」
そして、食べ終わったらさっさと帰ろう。
「もちろん構いませんわ。こんな屋台の食事など、冷めてしまえば、食べれたものでは――あら失礼、つい口が滑ってしまいました。どうぞ、お召し上がりください」
たおやかな微笑みで、わたしだけに聞こえる声で言うあたりが、とてもいやらしい。
それに、周囲のテーブルから、彼女への視線がひっきりなしで、彼女もそのことを当然のように受け入れている。
わたしは彼女を一瞥してから、食事を再開した。
「そう、それで、彼のことですけれど。思いのほかご存じで、驚きましたわ。全世界新聞は高級誌なので、一般人が目にする機会が少ないでしょう? 上流階級の人間や、大手の商会などが主な購買層ですから」
「そうですね、わたしのような一般人では、おいそれと読むことはできませんね」
わたしの言葉に、彼女は「ふふふっ」と声に出して楽しそうに笑う。
折角の美味しい食事なのに、おいしさが半減している。面倒だから、今後相づちはもっと適当にしておこう、図に乗りそうだ。
「あなたに、お小遣い稼ぎのご相談ですわ」
すこし体をわたしの方へ傾け、内緒話をするようにそう言った。
この流れだと、レヴィの情報を横流ししろってことだろう。
「記事の情報は、ご自分で調査されてはいかがですか?」
「あら、あなたもご存じでしょう? 彼は女性嫌いなのよ、わたくしではお話しも聞けやしないわ。ねぇ、あなたが頼りなの、引き受けてくださるわよね?」
流し目でわたしを見て綺麗な顔で微笑んだ彼女だけど、さっきまでの態度で手伝ってもらえると、本当に思ってるんだろうか?
「では、男性の記者を寄越せばよろしいでしょう」
にべもなく言い切ったわたしに、彼女は一瞬で表情を変える。
「さっき申し上げましたでしょ? レヴィオスの担当は、わたくしなの。他の記者を寄越すなんて、できるわけないわ」
「そうですか? 女嫌いの冒険者に、女性記者をつけるなんて、理にかなわぬことをしているのがおかしいと思いますが」
思わず言ってしまったわたしに、彼女は顔を歪ませて口の端を上げる。
「下々の者では理解できぬことが、ありますのよ」
ひねり出したような言葉には、説得力がなかった。
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今後、間に合わなくて、朝6時以外にUPするかもしれません
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