焼き餅
印刷した書類を、ギルドにある書類廃棄用の焼却炉に突っ込んで燃やす。
シュレッダーだと復元する魔法で元に戻せてしまうらしいが、灰にしてから混ぜて固めてしまえばそれもできないとのこと。厳重に処理しないと復元できてしまうというのが凄い。
「とりあえず、今日、パーティ申請しておくか」
「そうですね」
ハンドサインの打合せのお陰で、レヴィに対してあった緊張感も和らいでいた。
二人でギルドのカウンターに並び、パーティを組むことを伝える。
「承知しました。では、それぞれタグを出してください」
首に掛けているチェーンを引いて、服の中からタグを取り出す。
先にレヴィが、首にチェーンを掛けたままでタグを職員に向けると、職員はバーコードを読み取るような魔道具をそれにかざした。
次に、わたしのタグにも同じように魔道具をかざす。
それから、机の上の端末を操作して、もう一度タグに魔道具の端末をかざす。
確認を促されて、タグの裏側を見れば、パーティメンバーとしてレヴィオスと刻印されていた。
彼の方にはわたしの名が入ったのだろう。
なにせパーティ登録するのもはじめてなので、感慨深い。
登録料の支払いを終えてカウンターを離れると、後ろで同期のビレッドが腕を組んで仁王立ちしていた。
明らかに怒っている。
レヴィも気づいたのか、早速ハンドサインで『あれは、敵か?』と聞いてくるので、素早く『違う』とハンドサインで返しておいた。
ハンドサインを使えて楽しそうな表情が、また可愛い。
「おい、おっさん。なんでパーティ組んでんだよ」
腕組みをして、軽く顎を上げてこっちを睨んでくる。まるでヤンキーのようだ。
敵認定でもよかったかもしれない、殺気が酷いもの。
「ちょっと事情がありまして」
「事情ってなんだよ。オレが何度誘ってやっても断るくせに」
何度って、二回くらいだったはずだけど。
なんてことは野暮なので言いませんが、でも誘ってほしいわけじゃないのに、押しつけがましく言われるのはちょっと腹が立つ。
あれだ、OL時代の同僚を思い出すからだ。飲みに行くのを断れば、誘ってやってるのに失礼な奴だとか、枯れ木も山の賑わいで声を掛けてやっただけだのと言いがかりを付けられたことは数知れず。
ちょっと深呼吸しておこう。
「なに無視してんだよ、おっさん」
そう、わたしはおっさんだ。
広い心で、やり過ごせばいい。
わたしは、おっさんなのだから。
「おい、若いの。俺の相棒に、なんか用か」
ずしっと右肩に重みが乗り、耳元で低音のいい声が聞こえた。
少し声を低くしているからか、ドスが利いていて素晴らしい。
わたしの肩に肘を掛けて見下ろすレヴィに、ビレッドは口元をひくつかせた。
わたしとビレッドの身長差もかなりあるが、そのわたしよりも体格のいいレヴィなので、かなりの威圧感だろう。
「オレが話してるのは、おっさんだ。あんたは、関係ないだろ」
威勢のよさが、すこし萎えてきている。
「関係あるだろ。俺は相棒なんだから」
「だから、なんでだよ。あんたここの人間じゃないだろ、はじめて見る顔だ」
多分、新参者がでかい顔をするなと言いたいのだろうな。
「冒険者なんだ、どこで仕事をしても、なんの問題もないだろう? パーティを組んでもらえないからって、焼き餅焼くなよ」
にんまり笑うレヴィの意地悪な顔なんて、はじめて見た。こういう顔もする人なんだな。
「だっ! 誰が、おっさん相手に焼き餅なんか焼くかっ! 気持ち悪いこと言うなよなっ!」
ぷんすか怒って去って行くビレッドを見送ると、わたしに寄りかかったままのレヴィが肩を震わせて笑う。
「どう見ても、ガキが焼き餅を焼いてるようにしか見えねぇっつーの。あんた、随分懐かれてんだな」
「懐かれてなんかいませんよ」
しれっと答えたわたしの肩を叩いて、彼は体を離す。
「つれないねぇ。さて、じゃぁ、明日の朝、ここに集合して依頼を決めよう」
「わかりました」
去り際、彼は「ああ、そうだ」と振り向くと、左胸を拳で二回叩いて、親指と人差し指の先を交差させると、いい笑顔を残してギルドを出て行った。
「ハンドサイン、本当に気に入ったんですね……」
呆気に取られてしまって、返しができなかったのが悔しい。
いきなり『愛してる』なんて、心臓に悪いったらないわ。
『さようなら』とか『またな』とか、当たり障りのないハンドサインを決めておこうと心に誓った。
お読みいただきありがとうございます!
ストックが切れました!\(^O^)/
これからは背水の陣で頑張ろうと思います(計画性が裸足で逃げるやつ)。
下にある☆☆☆☆☆から評価をいただけると大変うれしいです
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ
正直な気持ち大歓迎!
ブックマークもいただけると一層うれしいです
よろしくお願いいたします!