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審査

 なにを言ったんだこの人?

 一緒に行動しないか?


「わたしはパナの実の採取ですので。一緒には、行動できないです。パナの実に、森狼の糞の匂いがついたら、価値が下がるので」


 思いも寄らない申し出に、狼狽えながら説明すると、レヴィは目を瞬かせてから首を傾げた。


「聞いたことねぇぞ、そんなこと」

「知り合いの調薬師から教えていただいたので、間違いではありません。実際に、匂いが付いた薬草で作った上級回復薬と、そうでないものを比べてみましたが、一割程効果に差が出ました」


 きっぱりとそう伝えると、彼はガシガシと頭を掻いて引き下がってくれた。


「そういう理由なら仕方ないな。あんた、強そうだけど、気をつけていけよ」

「ありがとうございます。レヴィ、オスさんも、お気を付けて」


 手を振って別れてホッとしたものの、途端に不安が湧いてくる。


 名前を呼ぶ時にすこし突っかかってしまったけれど、バレないだろうか。

 言い訳に使ったあの知識は、まだメジャーな知識ではないけれど、大丈夫だろうか。


 不安の次には、希望が生まれた。

 もしかすると、また会えるかも知れない。


 同じ冒険者であっても、どこにいま居るのか、ランクはいくつなのかということを、ギルドから教えてもらうことはできない。

 ギルドの職員内では、冒険者の情報を共有されているのに……。


 本当はギルドに就職できればよかったんだけど、ギルド職員は身元がはっきりしていないとなれないので、他の世界出身のわたしにはムリだった。


 レヴィの消息を捜すことは諦めたけれど冒険者となることで、風の噂が入ってくるようになった。

 三年前にはBランクだった彼だけど、二年と経たずにAランクに昇格したこと、魔獣が跋扈する第三層を中心に活動していること、そして無類の女嫌いであることを知った。

 それにまつわる真偽のわからない噂……男好きであるとか、実は王族に懸想をしていて操を立てているだとか、血を見ずにはいられない戦闘狂だとか。


 今なら、どうして彼がこんなにやっかまれているか理解できる。


 BランクからAランクへ上がるスピードが早すぎたからだ。

 CからBに上がるのは、実績を積んでいけばいいので、難しくはないけれど、BからAに上がるのには高い壁がある。

 実力もさることながら、教養もなければならず、更には貴族などの後見人も必要だと聞いた。二年足らずで昇格するなんて、歴代の冒険者にも滅多にいない。


 だから彼は、Cランクのわたしにとっては雲の上の存在ということだ。


「……そっか……。自分の感傷なんか抜きにして、もっと話しておけばよかった……」


 気持ちが落ち着いたところで出た結論に、がっくりと肩を落とす。


 きっとこんな時でもなければ、話なんてできないだろう。Aランクの冒険者なんて、良くも悪くも憧れの的で、Cランクのわたしが気安く話し掛けられる相手じゃない。


 せめて、本当に女嫌いなのか、探りを入れればよかった。

 噂通りなら、魔法を解いて女に戻っても、彼に会いに行くわけにはいかないし。


 迷わないように木に印を付けながら、思わず溜め息が出てしまう。


 不意打ち過ぎる、まさかこんな場所で会うとは思わないじゃない。なにかの用事でこっちに来たのかもしれないけれど。

 一番最近聞いた噂では、隣国との国境近くのダンジョンの攻略隊に参加しているって話だったのに。

 未踏破ダンジョンの攻略なんて、最低数ヶ月かかるものだから、もしかすると、情報自体が古いものだったのかもしれないけど。


「それにしても――あんな、顔だったんだ……」


 思い出した彼の容貌に、歩いていた足が止まる。


 この体格のわたしよりも大きな体に、記憶にあるよりも赤味の強い固そうな髪の毛。愛想がよさそうに見えるのは、明るい笑顔があるからかな。

 声は、記憶にあるよりも少し高めだった。


 どこにも傷はなくて、本当に……元気でよかった。

 湧き上がる喜びに、思わず顔を覆ってうずくまってしまう。


 毎日、彼の無事を祈っていた。

 第二層に上がってから、第三層の恐ろしさを知ったから、余計に彼の身を案じてしまう。


 Bランク以上の人間しか滞在を許されない、魔獣が跋扈する大地。

 ダンジョンとは桁の違う強さの魔獣に、何人もの冒険者が餌食になっている。

 その分実入りもいいけれど、命あっての物種ということを考えると、長期滞在には向かない土地だった。


「神様――ありがとうございます」


 組み合わせた両手を額に押し当て、感謝を捧げる。


「おい大丈夫かっ!? やっぱり、お前、具合が悪いんじゃねぇのか」


 強い力で肩を引かれ、驚いた拍子に涙がこぼれた。


「回復薬は使ったのか!? 外傷はないようだが、内臓でもやられたのか!?」


 彼の焦りっぷりが凄くて――ああ、変わってない、この人は優しいままだ。


 それに、こうして近くで顔を見ると、思っていたよりもずっと若いことがわかる。てっきりいい年をしていると思ったのに、今のわたしの外見より若いじゃないか。


 ……そうか、わたしの考えたこの姿って、第三層でイメージした彼の姿だったんだ。

 全然違ったけど、いい方に裏切られたからいいか。


「大丈夫、大丈夫ですよ」

 涙を手のひらで擦ってから、立ち上がる。


「ほらこの通り。内臓も、問題はありません。ご心配をお掛けしました」

 安心させるように笑顔を浮かべれば、彼はそれ以上追及してこない。


「無事ならいいんだ」


 あっさり引いてくれてありがたいのに、追及してほしい気持ちもある。

 いや、やっぱり駄目だ。今、バレるわけにはいかない。


「ありがとうございます。ところで、レヴィオスさんはどうされたんですか?」


 意地悪くもつい聞いてしまったわたしに、彼はあっけらかんと答えてくれる。


「実は、後を付けさせてもらっていた」


 薄々そんな気はしていたけれど、こうもあっさり教えてもらえるとは思わなかったので拍子抜けする。

 Aランクの冒険者である彼が、Cランクのわたしに接触する理由……。もめ事を起こしたことも、悪いことをした覚えもないけれど、上位の冒険者が出張ってくるということは、ギルド絡みで何らかの審査が入っているということだ。


「ええと……。なんのために、でしょうか?」


 意を決して尋ねる。


「昇格の審査だな。今回の依頼が終わったら、次は俺と一緒に依頼を受けてもらう」


「昇格ですか。あの、Cに上がったのも半年前で、わたしは採取系の依頼しか受けてませんし、なにかの間違いではないでしょうか?」


 Fランクからはじまって、Eに上がるのに一ヶ月、Dに上がるのに約一年、Cへ上がるのに約一年半掛かっている。

 これでも早い方らしいけれど、Bランクに上がれるような実力があるとは思えない。


 だって、Bランクといえば、第三層へ下りる許可が出るのだ。

 あの、魔獣が跋扈する地へ……いまの、魔法の使えない状態のわたしが通用するとは、とても思えない。

 Cランクの依頼だって、採取ばかりしているから、魔獣を狩る実績なんて全然ないのに。どうして昇格なんて話が出るのだろう。

 大抵の冒険者はCランクで終わるので、Bランクといえば一目置かれる存在だ。

 はっきり言って、恐れ多い。


「審査を掛けるのは、ギルドの判断だ。なに、実力がなければ、上がれないんだから、そう構える必要はねぇよ」


「ああ、そうですよね、実力のない人を上げたりはしないですよね」


 レヴィの言葉に安心して、息を吐く。


「まぁ、そういうことだから。当分の間、一緒に行動することになる。よろしく頼むな」


「は? え? 一緒に!?」


「パナの実の採取だったな。さっさと終わらせて、ギルドにいくぞ」


 意気揚々と歩くレヴィに腕を引かれて、なにがなにやらわからない内に、彼とパーティを組むことになっていた。

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前回連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が、一迅社文庫アイリス様より書籍化されました! よろしくお願いいたします! 文庫なので携帯性に優れておりますよー
中ボス令嬢
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