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薬草採取

 さて、わたしの方も、依頼を受けてこよう。

 ビレッドのいうところの、草むしりだ。


「依頼ナンバー十二と三十五ですね。効率がよくていらっしゃる」

 受付の男性が、わたしの依頼を受理してくれながら、感心してくれた。

「ついでといってはなんですが、常設依頼の上級回復薬に使う薬草もお願いできますか?」

「承知しました」

「では、お気を付けて、いってらっしゃいませ」


 丁寧な見送りをされて、カウンターを離れる。

 さすがはベテラン職員さんだ、襟元に光る三つ星の階級章は伊達じゃないな、抜け目なく仕事を追加してくれる。


 できるだけ多く採ってきたいので、収穫袋をもうひとつ追加しておこうかな。

 ギルドを出てすぐ裏にある、道具屋に足を向けた。


 魔力を体を作るのに全振りしているので、魔法を使えないのはツライところだ。異次元の収納も使えないし、その他の魔法も一切使えない。

 でもまぁ、体力と筋力が化け物級なので、荷物が多かろうが苦でもないんだけどね。

 内緒だけれど、多少剣で切りつけられたところで、わたしの皮膚を切ることはできない。そのくらい強靱な肉体として、作り上げた。

 そうじゃないと、怖くて冒険者なんかやっていれない。


 女の体のまま魔法をばかすか使うという選択肢もあったけれど、わたしの魔法の使い方は、こちらの世界の常識とは異なるのですぐに却下した。異分子になるのは、怖いから。


「いらっしゃい」


 道具屋の年季の入ったドアを開けると、明るい声が迎えてくれる。

 昨年、老店主から代替わりした新しい店主だ。

 愛想もよくて、商品の品揃えも以前よりよくなっているし、店内もよく掃除されていて気持ちが良い。

 前のおばあちゃん店主は、なんていうか……とりあえずやってます感が強かったからな。

 代替わりしてくれて、冒険者一同喜んでいる。


「薬草を入れる、収穫袋をひとつお願いします」

「了解。大きさはいつもの?」

 カウンターのうしろの棚を探りながら、確認される。

「はい」

 返事をすれば、頷いた彼が大きな麻袋を一枚出してくる。内側に鮮度維持の魔法が掛かっている収穫袋の、特大サイズだ。

 この道具屋の鮮度維持の魔法は精度がいいからお高めだけど、それだけの価値はある。

 銀貨三枚を支払う。


「毎度あり。お気を付けて」

「ありがとうございます。いってきます」

 見送ってくれる店主に手を上げて、道具屋を出た。



 今日行くのは、町の西にある『迷いの森』だ。

 魔力に満ちたその森は、方向感覚を惑わす性質をもっていて、迂闊に入り込むと中々出られないという難儀な森だ。

 だけど、ちゃんと対策をして入れば、そこまで怖い場所ではない。


 まずは森に入る前に、破邪の木の成分を抽出し、練ってお香にしたものに火を付けてケースに入れ、腰に下げる。

 ゆっくりと燃えるこの魔獣避けはわたしが作ったもので、市販のものよりも効果が高い。

 第二層に出るような魔獣ならば、滅多なことがない限り、近づいてこない。


 二日で色が消える特殊なインクで、木の一定の高さにアキの『A』を目印として書きながら森を進んでいく。

 二日で消えるというのは、この森の木々はゆっくりと移動しており、数日経ってしまえば、目印が無駄になってしまうからだ。

 意味の無い目印ほど、危険なものはない。

 だから消えるインクで目印を付け、森の様相が変わった頃には消えるようにしておくのが、この森でのマナーだ。


 奥に行けば行くほど魔力が強くなる、というのも、この先が第三層に繋がっているからだ。


 とはいえ、迷いの森から第三層に下りる猛者はほぼいない。

 帰る道がなくなるような場所を踏破するという危険を冒すような馬鹿な冒険者はおらず、第三層に行くならダンジョンを使うのがセオリーだ。

 あっちには、宝箱も出現するしね……。


 宝箱――あのとき、宝箱型魔獣に懲りて、思い切り無視して放置してきた宝箱だけど、実は本当に宝が入っている宝箱もあるのだと知ったのは、冒険者になってからだった。

 それも、はじめて開ける宝箱には、すっごいお宝が出る確率が高いとか……っ!

 知らずに、全部スルーしてしまったよ、く や し い。


 迷いの森に宝箱は出現しない。

 その代わりに、植生が第三層に近く、良質な薬草がふんだんに採取できる。


 今回必要な薬草は浅い場所にはないので、一定間隔で印を付けるのを忘れないようにしながら、森の奥を目指す。


 欲しい薬草は群生しているので、見つけてしまえば必要な量はすぐに確保できるはず。


「シグレ草とバンネの蔓、それから上級回復薬用のパナの実。同じ生息域だから、ひとつ見つければ――ああ、あったあった」


 シグレ草を発見して、いそいそと近づく。


 『調べる』魔法も、この体だと使えないけれど。散々採ってきたものなので、似ている草とも間違えるなんて初歩的なミスはしない。

 シダ植物のような葉の根元を麻縄で縛り、よく磨いだナイフで茎から切り取る。

 粘り気のある透明な汁をナイフでこそげ取ってから、収穫袋に入れてゆく。

 それを袋がいっぱいになるまで続ける。


 シグレ草が終われば、先に進んでバンネの細い蔓を見つけ、くるくると巻いて依頼にあったように五メートルのものを三本確保した。


「さて、あとはパナの実か」


 バンネの蔓よりも浅い場所にある木だから、戻りながら探そう。


 効果の切れてきた魔獣避けお香を追加してから、大きな袋を担ぎ直し、蔓を輪にしたものを肩に掛けて注意深く歩く。


 とりあえずメインの依頼品は確保したので、道すがら自分用に在庫切れの薬草も採取して別の袋に入れていく。



 額に汗して歩いていると、「わー」という人間の声が聞こえてきた。

 正しくは「わぁ↑ぁ↓ぁ↑ぁ↓」という、ドップラーではなく上下に揺れている感じで。


 こんな森の中でなぜ、あんなアトラクションチックな声が?


 マニアックな薬草の採取依頼をこなすために森の奥に入る自分のような物好きが、他にも居るのだろうか。……居るにしても、一体なにが起きているんだろう。



 でも――なにか気になる声だ。心に引っかかる。



 注意深く周囲に気を張りながら、声のするほうへと急いだ。

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前回連載していた『中ボス令嬢は、退場後の人生を謳歌する(予定)。』が、一迅社文庫アイリス様より書籍化されました! よろしくお願いいたします! 文庫なので携帯性に優れておりますよー
中ボス令嬢
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