子リスとどんぐり
森の奥深く、母リスと子リスは仲良く暮らしていました。
近くには、母リスと子リス以外のリス達が沢山いて、母リスが家を空けていても寂しくありません。
リス達が増えていくにつれ、食べ物があまり取れず、生活は貧しくなっていきましたが、子リスは幸せでした。
ある日、母リスは言いました。
「食べ物を探しに遠くまでいってくるね」
どんぐりを一つ、子リスに差し出して、母リスは家を出ていきます。
子リスはどんぐりを食べずに母リスが帰ってくるのを待ちました。
しかし、夏になっても、秋になっても、母リスは帰って来ません。
周りのリス達は言います。
「母リスが帰ってくることはない」
子リスは信じませんでした。
母リスが居なくなってから、ご飯は子リスが探します。
母から貰ったどんぐりはいつしか子リスの宝物になっていました。
冬が近づき、周りのリス達は忙しなく冬眠の準備を始めます。
そんなある日のこと、母リスから貰ったどんぐりが巣穴にありません。
子リスはリス達に尋ねました。
「僕のどんぐりをしらない?」
リス達はみな首を横に振ります。
一匹のリスが言います。
「子リスの家にネズミが入って行くところを見たよ」
子リスはお礼を言って、ネズミを探しました。
探し回って行くにつれ、子リスは家からどんどん遠ざかっていきます。
不思議な事に、遠ざかるにつれてご飯が沢山見つかりました。
これなら冬も越せそうです。
けれど、子リスは支度をせずにどんぐりを探し続けます。
その甲斐あって、移動中のネズミに会いました。
子リスは尋ねます。
「僕のどんぐりをしらない?」
ネズミ達は顔を見合わせます。
やがて、一匹のネズミが前に出てきて言いました。
「君のどんぐりか分からないけど、カチカチのどんぐりならウサギにあげたよ」
長い間、大事にしてきたどんぐりは、間違いなくカチカチのどんぐりです。
子リスはウサギを探す事にしました。
中々、ウサギは見つかりません。
子リスの息が白くなって、はらはらと白い雪が空から降ってきます。
その頃には、餌を見つける事が出来なくなっていました。
子リスの足がどんどん重くなっていきます。
木下で休憩していると、ウサギが子リスの前を横切ります。
子リスはウサギを呼び止めました。
そして聞きます。
「僕のどんぐりを知らない?」
ウサギは言いました。
「美味しくないどんぐりなら持ってるよ」
差し出されたどんぐりは、少し食べられていました。
けれど、母リスから貰ったどんぐりに違いありません。
「やっと見つけた。僕の宝物」
子リスはどんぐりを大事に抱きしめました。
母リスとの思い出が溢れてきます。
二度と、子リスとどんぐりが離れる事はありませんでした。
おしまい。