重なる幸せ
空をたくさんの星が彩っている。とても綺麗な夜だ。
あの流れる星を手に取ることができたら素敵だろう。
私がまだ学生の頃、当時付き合っていた彼氏とこうして星空を眺めに行ったのを思い出した。満点の星を見て、綺麗だねえとそれ以上の言葉が出てこなかったのはとても良い思い出だ。ついでに、そこで素敵なキスをしたことも。
当時付き合っていた彼氏の結婚がつい先日決まった。とても幸せだろうなと心から思った。
君は優しすぎるんだよ。そんなことをいつの日か言われたことがある。彼とは自然消滅してしまって、なんとなく友達付き合いをしていたときのことだ。
私は、そんなものかな、なんて思ったものだ。
昔から、祖母に人に優しく自分に厳しく、なんて言われていたものだから常に彼の意見を尊重していた。それが、彼にとっては逆に重すぎたのかもしれないとつい最近気づいた。それでも、今でも友達でいてくれて、結婚式にも招待してくれたことは、私にとってすごく嬉しいことだ。
私は星を眺めるのをやめると、部屋に戻ってパソコンを開いた。趣味で続けていた小説が、今度書籍化することに決まった。書籍化しませんか、というメールが届いたとき私はあまり実感がわかなかったのを覚えている。
私の文章を世に出していいのだろうか、とずいぶん悩んだが、挑戦してみようと承諾の返事を送った。
『そろそろ、自分のことを考えてもいいんじゃないの?』
そんなセリフをパソコンで打ち込んだとき、はっとなった。原稿を直しているときに、なんとなくこんなセリフを入れたらいいんじゃないかと追加したときのことだった。
それがまるで自分に向けて言われているようで、妙に心に残る。
「…………」
そのセリフが物語にスパイスを加える大事な物だとは思ったが、私は消した。
物語にとって、たった一つの言葉で局面が変わることはよくある。ほかの作者さんのことはよくわからないが、少なくとも私にとって言葉という物はとても大切なことだ。
それでも、この言葉は私には重すぎる。
『逃げてるの?』
さっきから、なんでこんなに私を追い詰めるのだろう。小説を読み進んでいくうちに、書いた当時はなんとも思わなかった言葉が私を追い詰める。
この言葉も消してしまおう。そう思って、バックスペースキーを押そうとした時だった。
『――結婚式には来てくれよ』
そんなメールが彼から届いた。たった一言。その一言でバックスペースを押す力が消えてしまった。
「なんなのよ」
この感情が果たして何なのか、私にはわからなかった。そして、『そろそろ、自分のことを考えてもいいんじゃないの?』という先ほどのセリフをまた付け足す。
小説のタイトルは「重なる幸せ」。この小説のように、幸せを重ねていって、私も幸せになっても、いいのかもしれない。最後にはそう思えた。
小説の発売が急に楽しみになった。




