クラスメート達
「…はぁ?ちょ、ちょっと何言ってんすか?」
メイドの突然の言葉に混乱する海斗は冗談だと思い苦笑する。
しかしメイドは表情を一切変えない。
その様子に海斗はメイドが一切冗談など言っていないのだと悟った。
「…………ッ……!」
恐る恐る自らの首輪に触れ、ゴクリと喉を鳴らす。
胸中を渦巻く恐怖に身を震わせ思わず外したくなるが、それはできないことを理解したが故にその手を下ろした。
「詳しい説明はこの後しますのでそこの2人を起こして私についてきて下さい。」
そう言い残してメイドは部屋を出て行く。
「…クソッ!何なんだよ一体…」
海斗は一人頭を抱え、誰に言うでもなく悪態をついたのだった。
ーーしばらくして起こした二人に首輪の事を説明した。
二人は流石に動揺を見せたが、取り乱す事なく平静を保っていた、驚くべき精神である。
その後三人は用意された服に着替える。
服は3着とも全て同じ物で、黒を基調とした長袖のシャツに白の装飾がなされている。
ちなみに海斗達が着ていた制服は昨夜回収されてしまった為に今は無い。
その為、現状はこうして用意された服を着るほかなかった。
シャツを着た三人は軽く寝癖を直し、廊下に出る。
廊下ではメイドが立っており、メイドは海斗達の姿を確認すると昨夜の夕食と同じ様に海斗達の先頭を歩き出した。
しばらく城内を歩き続けた海斗達は青空の見える広い場所に出た。地面は土になっており、ここはどうやら中庭のようだ。
中庭では海斗達の他にクラスメート達がたむろしており、ピリピリとした雰囲気を見せていた。彼等にも首輪がつけられているからだ。
更にクラスメート達とは少し離れたところで背中に身の丈程の大剣を携えた茶髪の、年齢は四十代程とおぼしき兵士の男が立っている。
その兵士の姿を確認した頃、メイドは海斗達に振り向いた。
「説明は全員が揃ったら始めます。それまではここで待機していて下さい。」
全員というのはクラスメートの事だろう。そこそこの人数はいるがまだ20人ほどしか集まっていない。クラスメートは合計30人なので集まるのはしばらくかかりそうである。
メイドはそのまま海斗達のを一瞥もする事なく横を通り過ぎ、城内に姿を消してしまった。
残された海斗達はクラスメートの元に向かう。
すると海斗達に気づいたクラスメートが近づいてきた。
「翔太ぁ!海斗ぉ!賢次ぃ!割と普通そうで安心したぞ!」
そう言って初めに声をかけてきたのはいかにも体育会系といった風貌の男、杉田 業だった。彼は特に翔太と仲が良い。正反対な性格の2人だが、それ故にか業は翔太を気に入っていた。
「相変わらず業は声でかいね…もう少しボリューム落として話してよ」
「ごめんな!でも元気そうで何よりだ!」
「…お互いにね」
業の言葉に翔太は頬を掻きながら照れ臭そうに返す。
「そこ!2人だけの世界に入るなし!あーしも混ぜろよ〜!」
そんな2人の会話に強引に入り込んだのは髪を金髪に染めたいかにもギャルといった格好の女子、清水 氷花である。
彼女はコミュ力が非常に高く、男女問わず積極的に関わる性格からか複数の男子から好意を寄せられている。
「こんな状況でどういうメンタルしてんのよアンタは…」
そんな氷花に呆れた声がかけられる。
声をかけたのは黒髪ポニーテールの女子、早瀬 藍だった。
「そういう藍だってさっき天野見た時にすっごいテンション上が「わー!わー!」」
「ちょっと氷花!なんでこの場でそういう事言うのよ!?」
「あーしからかうのが好きなんだよね〜」
「あ、アンタねぇ…!」
怒りを堪える様に藍は拳を握る。それを見た氷花はヤベッと呟き、そそくさと逃げていく。
ちなみに今のやりとりから分かる様に、彼女は賢次に好意を抱いていた。最も当の本人は一切それに気付いていないのだが…
「何はともあれ2人とも元気そうで良かったよ」
「えっええ!そうねっ!天野君も元気そうで良かったわ!」
顔を赤らめながら藍は賢次にそう返事し、逃げる様に足早に少し離れた氷花の元に向かってしまった。
残された賢次は困り顔で頭を掻く。
「うーん、やっぱり俺避けられてるのかな?」
「んな訳ねぇだろぉが、自慢かっつーの!」
「ええっ!?俺は自慢なんかしてないよ?」
舐めたことを言う賢次に海斗はキレ気味に言うも、タチの悪いことに賢次は完全に無自覚であった。
そこに業と会話を終えた翔太が戻ってくる。
「落ち着きなよ海斗、今だってただでさえ悪人面なんだしこれ以上は顔面崩壊しちゃうよ?」
「お前は俺を落ち着かせたいのか怒らせたいのかどっちなんだよ…」
一周回って呆れ果てものも言えなくなった海斗は脱力する。
突然、そんな海斗の肩が誰かに叩かれた。
海斗は振り向き相手の顔を確認すると、そこには眼鏡をかけた真面目そうなクラスメートの真壁 守が居た。
「真壁?どうしたんだよ?何か用か?」
海斗がそう聞くと、彼は眼鏡をキラリと光らせる。
その瞳は鋭く、強い意志が感じられた。
「…と」
「と?」
「と、トイレの場所を…知らないだろうか…?」
よく見れば若干彼は内股になっている。どうやら本気で限界が近いようだった。
「悪りぃ知らねぇんだ…あそこにいる兵士に聞いてみたらどうだ?」
「か、簡単に言ってくれるね…でもあの人怖いじゃ無いか…ッ!」
「じゃあもう自分で探すしかねぇんじゃねぇの?」
「…くっ、仕方が無い。もし始まりそうなら僕はトイレを探しに行ったと伝えておいてほしい」
「あ、あぁ分かった…」
海斗の返事を聞くと真壁は内股で、一人場内に戻って行ってしまった。
(結局探しに行くのかよ)
海斗は口には出さず心の中でそう呟いた。
その数分後、戻ってきた真壁が最後となる形でクラスの全員、全30名が揃った。
遅くなりました更新です、ちょっと長い文を作ると期間が開きすぎちゃうので次から短くしていこうと思います。