現実はそう都合よくはいかなくて
「…と…!…いと…!海斗!」
暗い暗い意識の海の中、海斗は誰かに揺り起こされる。
(誰だ…?男の声…父さん?いや違うな…?)
ぼんやりと纏まらない思考で誰の声だかを考えるも、どうにも深い眠りだったのか意識がハッキリとしないようで海斗は誰の声だか分からなかった。
しばらくぼーっとしていたが、その間ずっと身体を揺すられ続け、海斗は自分の意識が覚醒していくのを感じた。
(あーこの声は賢次か…、授業中に居眠りでもしちまったかな俺…?)
少しずつ少しずつ浮上する意識、その中で一体なぜ賢次が自分を起こそうとするのか当たりをつけた、しかし同時に海斗の中にとある疑問が浮かぶ。
(あれ?でも何の授業だったっけな…?っていうか授業、受けてたっけ…?)
記憶に無い、大きな違和感を覚えた海斗は朝からの記憶を辿ってみることにした。
(確か…俺は朝目が覚めて、学校遅刻しそうになって…そうだ、何とか間に合ったんだ。そんで賢次と翔太と話して、トイレに行こうとしたら…ッ!)
そこまで思い出した瞬間、海斗は直前までの記憶が一気に蘇った。
「うわあああああぁぁぁぁ!!」
横たわっていた上半身を跳ね上げ叫ぶ。平凡な日常に突如として起きた未知の現象、それはただの高校生である海斗にとってパニックを起こさずにはいられない出来事であった。
しかし同時に、起き上がった事で海斗の目に飛び込んできた光景が、パニックになった思考に空白を生み、叫び声がピタリと止まる。
そこはまるで西洋のお城のようだった。
石レンガの壁、赤いカーペットに施された金の装飾、恐ろしく豪華な扉、そして何より、自分に向けられた何本もの剣。その剣を持つ兵士らしき人物たちは一様に剣呑な目で海斗を見下ろしていた。
「ひっ…!」
未知の恐怖が終われば今度は死の恐怖、突然の出来事が続き何も考えられない。
だがしかし、生存本能故か無意識に海斗は辺りを見渡した。そして真横に正座している見知った顔を見て冷静さを取り戻し、歓喜した。
「賢次!」
そもそも海斗はパニックで忘れていたのだが、先程まで自分の身体を揺すっていたのは賢次なのだ。ならば近くにいるのはおかしな話では無い。
そして海斗の近くに居たのは賢次だけでは無かった。
「ねぇ僕も居るんだけど…?気付いてる?」
「ッ!…翔太、良かった!二人とも無事だったのか!」
「あぁ、海斗。俺達だけじゃ無い、クラスの皆もそこに居るよ」
賢次に言われ見渡せば、自分を取り囲む兵士達の後ろにクラスの皆が居た。皆の周りにも兵士がいるが取り敢えず危害を加えられてはいないようだった。
皆の無事を確認して、海斗の意識に安堵の感情が生まれる。
「ここは国王陛下の御前だ、お喋りはそこまでにしてもらおう」
しかし安堵できたのはそこまで。
兵士に咎められ、海斗は自分が兵士に剣を突きつけられている事を思い出した。
何故剣を向けられているのか?そもそもここは何処なのか?疑問が尽きないが、それでもここで声を上げて質問する程海斗は馬鹿では無い。大人しく両手を上に挙げて降伏の姿勢を見せる。
しばらくその体勢でいると、兵士達は突きつけていた剣を下ろし自分達の持ち場に、門の前に戻っていった。どうやら彼らは門番のようだ。
彼らが門の前に戻ったすぐ後、背後から良く通る声が聞こえてきた。
「お友達は全員お目覚めかな?」
振り向けばそこには金色の髪が良く目立つ、頭に王冠を被った男が見るも豪華な椅子に座っていた。年齢は五十代といったところだろうか。
その周りを十数名はいるであろう兵士達が並んでいる。十中八九彼が国王陛下なのだろう。
応えたのは賢次だった。
「はい、待っていただきありがとうございます」
「良い、では話を戻すとしよう。
貴様等は突然床が黒く染まり、その床に呑み込まれ気付けばここに居た、そこまでは良いか?」
「はい」
どうやら海斗が気絶している間に賢次がある程度説明してくれていたようだった。
国王は頷くと質問を続ける。
「では問おう、この国の名前を知っているか?」
「いえ、まず此処が何処であるかも分かりません」
「ふむ、ならば次だ。1日はいくつで区切られておるか答えよ。」
「えっと、24時間で区切られてます。」
「…ふむ、では次で最後にしよう。この場の誰か一人でも魔法を使えるか?」
「ま、魔法…?いえ、使えません」
「成る程……理解した」
海斗は今の質問からこの世界に魔法がある事を知った。興奮で思わず声を上げそうになるも先程剣を突きつけられたのを思い出し抑える。それでも口元がニヤついていたのだが…
対して国王は何を理解したのか大きく一つ頷き、質問を終える。
そして衝撃の真実を海斗達に伝えたのだった。
「貴様らは此処とは異なる世界、異世界からやって来た存在のようだ。恐らくであるが世界の穴に落ちてしまったのだろう。貴様らが帰るすべは私も知らぬ、しかし哀れな貴様らを歓迎しようぞ」
「……………………は?」
未だ高校生の彼等には余りにも残酷なその言葉に、海斗はそう言う事しか、出来なかった。
二話目です、どうだったでしょうか?
書くほどに自分が何を書いているのか分からなくなる今日この頃、誤字などがあれば報告下さると幸いです。
投稿は不定期なので書きあがり次第投稿します。次もぜひ読んでくださいね。