第一章 第三話「月光と音色」
月の光は、借り物の光
第一章 第三話「月光と音色」
皆がそれぞれの部屋の寝床に就いた後、ギアレは未だ眠れず、窓から差し込む月明かりに顔を顰めていた。
ガルジョーネルの営んでいるこの病院は、ギアレがソナレと出逢った町ーディベンタから南東へ、ニキロメートル離れた所にある。そこはアルベロと呼ばれ、中心にある小さな集落を守るかの様に、巨樹が中央から波紋状に自生している。その地は、先人が開拓するまで人の手が全く加わっていなかったそこは、まるで巨人が棲んでいたかと思わせる様なまでに、奇妙な配置で巨樹が生育していたらしい。先人はそれに惹かれたのだろう。すぐさま開拓者を連れ、一夜にして中央部を更地に変えてしまい、簡易的な住居を建てたのだ。空を見上げようとすれば、たちまち緑の天井が少しの日の光の漏れを許し、辺りを照りながら優しく覆っている。まるで本当に、その地に有る何かを守る様にして。
ここまでが、今日のお昼を食べている時に、ガルジョーネルから聴かされたお話の中身だった。
「何かを守る様に……か」
最後の一文に違和感を感じたのか、もやもやしたまま復唱をする。頭に組んでいる掌の感覚が麻痺し始めて痺れるのを感じているが、まだ耐えれるからそのままの姿勢で月明かりの差し込む方向を、半開きの目で眺める。窓の外には、やはり、どこまで幹が伸びているのか判らない大樹が、視界を殺風景に感じさせる。
すると何処からか、哀愁を感じさせるあの管楽器の音色が舞い込んできた。音の出どころはとっくに分かってはいたが、良い子守唄になると思い、そのまま小一時間目を瞑り、空想に浸っていた。
空は茜色で、遠目には一本の大きな木が生えた丘と、足元からそこへ通ずるけもの道のある景色。あたかも、あの木の下へ行けと言わんばかりに背後からは暖かい追い風が吹いてきた。満を辞して足を運ばせる。すると、遠くに見えていた丘の木陰から、女の子が現れた。遠いからか、こちらからは顔を確認できなかった。ふと、足を止めると焦点を当てていた所以外の景色が豹変した。けもの道だった土の道は、所々がひび割れた石畳の道に。茜色の空は、色を無くし、辺り一面に灰色の霧が薄く掛かっている。路側には、石柱が等間隔に建っている。まるで、何かをする為の祭壇、もしくは、神殿の様だ。神殿と言っても、階段を上ると、すぐに見える幾何学的な模様が施された正方形の床、そして少し進めば鉄格子に囲まれた一本の木と、木陰に座る女の子が居た。その女の子は灰色の布を纏っていて、不可解な形をした何かを紐で括り、ネックレスの様に首から下げていた。
女の子は、ギアレを視認すると病人の様な仕草で、体をふらつかせながら立ち上がって、こう言った。
「あなたは、わたしをおぼえてる?」
誰か、ギアレかソナレちゃんを描いて欲しいなぁ。
感想待ってます