第一章 第二話「家出と勇気」
家出したことないです。
第一章 第二話「家出と勇気」
「お城から雇用の話も出ているんでしょ、こんな機会なんて、二度と来ないかもしれないわよ!」
「だから……何度も言ってるだろ!俺は、世界中を旅して、この世界に生きてる意味を探すんだって!城で茫然と働くだけの人生なんてつまらなくて堪らないんだよ!」
ある日の正午過ぎ、小さな村の住宅地から口喧嘩が聞こえて来る。それを居間の方で傍聴している。まだ一口程しか嗜んでいない茶の入ったマグカップを置き、溜息を溢す。この家の大黒柱、ギアレの父コラッジョは満を辞して、仲裁の言葉を放つ。
「ギアレも母さんもその辺にしないか、ご近所さんに迷惑がかかる」
その言葉に二人は、とても息を切らしたまま父の方に睨みを利かす。そのまま間髪入れずにコラッジョは、ギアレに説教を始めた。
「ギアレ……、お前はもう少し現実を見なさい。うちは裕福ではないし、私ら親の収入も不安定な状況が続いている。城の方の給与はとても良いと聞く。大抵は、こんな小さな村から出世する者はいない。この村の皆は、親子共々、近隣の皆を助け合い、手を取り合い今日まで存続してきたのだ。そしてーー」
念仏のように続く説教の中で、ギアレは一喝する様に、おい、と唸る。ギアレはそのまま、反論を続けた。
「現実を見る?小さな村からは出世できない?そんなの誰が決めたんだよ。そうやってこの村に杞憂したまま、何事も無く時が経つのを待つだけだから村が発展しない、村のみんなが好きな事を持てない、生涯の可能性さえも生まれないんじゃないのか!俺は、そんなの嫌だ。俺は、こんな腐った風潮を変える!」
彼の言葉と共に発する激昂した余韻は、消えない。この反論を機に、彼は決断をした。
「俺は……この村を出る」
その言葉は、生暖かい春の隙間風に乗り、風向きの方向へ、口を開け唖然とする両親の方へ過ぎ去っていった。母は、息子の言葉に対し、咄嗟に掌を前に伸ばす。しかし、声は出ない。父は、ただ俯くのみ、表情は分からない。
「……ごめん。そして、今まで育ててくれて感謝してる。気が向いたら……文通、送るよ。じゃあ……」
そう簡易的な別れの言葉を告げると、ギアレは自室の方へ向かって、小一時間経った後に家を出た。
「あの子、貴方によく似てるわね。貴方昔は、自分の考えを突っ切って、周りを圧倒していたし、何考えてるか分からなかったのよね。なんか可笑しくて、懐かしくて涙が出ちゃう」
我が子の巣立ちに、母が昔話をする。父はただ一言、そうだな、と呟いた。
その日の晩は、父、母、二男の三人で食卓を囲んだ。長男ギアレの自室には、置き手紙が落ちていた。
『俺、探してみるよ。この世界には何があるのか。旅をしてみて良かった事とか、辛かった事とか、面白かった事とか帰って色々話をしたい……だから、いつ帰って来るのか分からないけど、母さんの手料理で迎えてくれないかな?ちょっと照れくさいけどこれが最後のワガママってことで……さっきは、言えなかったけどーー』
『行ってきます』
その文を読み終えた母は、壁に飾られたギアレの写真のホコリを指で撫でて、一言だけ月明かりの刺す窓に向かってこう言った。
「いってらっしゃい」
うるっと来ましたでしょうか。感動したとか、感想聞かせてください。待ってます。今後もよろしくお願いします。