第一章 重なり進む者達へ 第一話「安らぎの場、ツリーヒールル」
暇つぶしになれたらと良いなと思います。
第一章 第一話「安らぎの場、ツリーヒールル」
年季の入った木の床からは、男の貧乏ゆすりでホコリが舞い上がる。その部屋に響く足音のリズムはどこか不安を感じさせる。
「…たくっ、コイツ大丈夫なのか…?勢いに任せてここまで運んできたのはいいが、このまま起きなかったらどうするんだよ」
すると断続的に続く足音に鈍い革の踏み締める音が重なる。
「兄さんや、ちと心配し過ぎじゃぞ。この子は気管支に軽めの炎症があっただけじゃ、言うたらただの「風邪」じゃよ!ホッホッホ!」
「なっ…!?ただの風邪だあ!?」
「…やっと兄さんの眉間が緩んだようじゃな」
「べ、別にこんなガキの心配なんかしてねえよ!」
「兄さん、それはもしや…ツンデレではないか…!?」
男は、老いぼれを睨んだ。
「おいジジイ、あんまりふざけてんじゃねえぞ」
「待て待て待つのじゃ!最近の若者は冗談と言うものを
知らんのか!」
「…チッ、全く…。こっちは色々とやることがあるん…ってお前起きてたのかよ!!」
「…へ?ああああ!ここはどこでしょうか!私は誰!ってソナレだ!であなたは」
「おい待て待て待て!落ち着け!」
険悪な雰囲気は、幼き患者により一瞬にして賑やかな雰囲気へと変わった。
「…こんなちんけな病院が…これまでにここまで賑やかになったことがあっただろうかっ…うっ、ワシもう死んでもいい…」
「だぁ!?何お前勝手に死のうとしてんだよ!」
「ここはどこ!?私はソナレ?この人達はだれなの!?
もしかして悪党…きっとそうだわ!早く警備隊に通報しなくちゃ!」
再び、男は彼らを睨み、拳骨を打ち込んだ。老人と少女の頭にはタンコブが。
「…よし、落ち着いたか?はぁ、ぎゃあぎゃあ騒いでんじゃねえぞ、いいかまずは俺達みんな他人だ!名を名乗れ!自己紹介だ自己紹介!」
小さな右腕を勢いよく挙げたのは、栗色の髪に紅紫色の五つの花弁のある簪をしていた女の子。服は、砂で汚れてある、黒を基調とした兵隊服に似た服で、赤と黒の線が交わるチェックのスカートを履いていた。
「皆さん!こんにちわ!私の名前はソナレ!ポツンと一人で笛を吹いてる演奏家!ピアーチェ!」
「よし、最後のピアーチェが何なのか分からなかったが、よろしい!」
「ピアーチェは初めて会う人に「今後ともよろしく」という意味で使います!これは私が勝手に作りました!」
「そうかそうか、はいピアーチェ。んじゃ、次じいさんの番だ」
何故だか、男の発したピアーチェという言葉を聞いたソナレは顔を赤くさせ、クスッと微笑んだ。
四つ太い柱のある椅子に深く腰をかけてる老人は一息置いて口を開いた。
「ワシの名は、ガルジョーネル。ここ《ツリーヒールル》の院長じゃ」
一言だけ、そう言うと顎の長いまとまった白髭を撫で始めた。
「じゃあ、最後は俺か。俺の名前はギアレ!家族と色々あってリタの村から家出してきた」
「ええー!!」
「なんじゃとお!?」
「え?そんな驚く事か?まあいい、と言う事で
ここラスティの大通りを彷徨ってたらこいつの演奏に惹かれていたらソナレが倒れて、担いでここに来て…今に至る!」
「なんか…ごめんなさい…」
「いいよ、謝んなくっても、俺がしたかったから運んだだけだよ」
ピタッと白髭を撫でるのを止めた院長は最期の力を振り絞る様に般若の面の様な顔つきで香花茶の入ったカップに手を伸ばし、一口堪能したところで会話をまとめる。
「つまりじゃ、家出者のギアレと孤高の演奏家ソナレちゃんがここへ来たんじゃな?」
「まあ、そういうことだ。……そうだ!」
突如、高い声を出したギアレはある提案を強請る。
「じいさん!俺達2人を今日からここへ住ませてくれないか!!」
「なんじゃってえええ!??」
それは、御年238歳になる超老人にとって彼の人生の中で断トツで心臓に悪いモノであった。
見ず知らずの他人が唐突に住ませて欲しいと言う衝撃的な提案に思わず手元のカップの持ち手を粉砕したガルジョーネル院長であった。
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