忘拒の奏者ーミュオソティス・アルペストリス
感想待ってます。
ープロローグー
俺が、こいつなんかを相手にした理由は…特にない。
じゃあ、何故こいつと共に旅を始めたのかって?
それは俺と同じ音が聞こえた…から。
何言ってるんだお前と言われても構わない。
でも、人と接する日々の中でふと感じないか?
初めて交わす十人十色の声と声、重ね合わせたその瞬間。
絶妙な波長、それが相まって骨の髄に返ってくる感覚。
そんなに難しいことは言ってない。
簡単に省略しろだ?…まあ、いい。つまり、
「俺とこいつは嘘みたいに気が合うんだよ」
『〜♩ピヒョッ!??』
「へっ!い、いきなり何言ってるんですか!?」
「おっと、声に出てたか…へへっ」
「気が合うなんて言われたら私…なんだか照れますね…」
「何照れてんだよ!ほら!今の演奏再開してくれよ!」
「もう!えへへ、ギアレってば!」
と、中々に楽しそうな雰囲気だろ?そうだよ、
楽しいんだよこいつと居ると。
…初めて会った時なんかより全然違う。
あの、腐れ廃れた街で…独り。
ドヨドヨと淀んだ空気が砂混じり、人皆顔は消し暗い。
土砂のように流れる人混みを俺は行く先も定まらぬまま、
只々彷徨ってた。
すると、ふと耳に風が入り込む。
色の着いた風の中に橙色の香りの様な音を添えて…。
「これは…?何の音だ?」
眼をカッと見開き、まるで、犬が土に何かを察知し掘り起こす様に、音源を探す、探す、探す。居た、あれだ。
足元は先程よりも力強く目的地へと進み始める。流れる人の波を払い除けて。石壁の家が並ぶ中、狭い窪みがあった。
そしてそこでは、楽器の音色が響いていた。
『〜♩〜〜♩』
「何故」
この音をこの場で聴いた俺の感想の中身は疑問だった。何故、この様な美しい音色の風を人々は「何故」無視を貫きながら、聞く耳を持たないのか。
「コホッ、ゴホッ」
音色は、痰の絡んだ渇いた破裂音に変わった。
その主は、右手の握り拳を口に当てたまま俺の顔を
上目遣いで見つめてきた。
「なっ…女の子…!?」
「…!?あ、あの何か…コホッ…御用が…コホッ」
「え?…ああ!えと、なんて言うのか、お前の演奏すげえ良いなって……ん?どうした?」
「バタッ」
その小さい頭は半円を描く様に右回転で沈んでいった。
「おい!お前、大丈夫か!いやこの状況は大丈夫じゃねぇぞ!おい、お前!おい!なあ!待てって!留まれよ!」
何度も、何度も助けを求める。だが、
流れるゴミ…の様に当たり前のように通り過ぎる人々、
それらがこちらを振り向くことはなかった。
「くそっ!このクズ共め!…ってまずはこいつをなんとかしねぇとっ…よいしょ!このまま医診屋へ担いで行くぞぉ!おらあああ!」
自分に喝を注入した男は、一人の少女を担ぎ澱んだ街の中を砂嵐の様に姿を消した。
今後もよろしくお願いします。