雨が降る日に現れる謎の女の子。その正体は
冷たい風が肌に当たり、冬の始まりを告げていた。
渋谷のセンター街を1人歩いていた森山 俊は、仄暗い空を見上げて深くため息をついた。
家に帰り、冷めきったスープを飲みながら、外で降っている雨を見ていると、ふとある人のことを思い出した。
脳裏にこびりついた記憶を振り払うように、俊はベットに入り寝息をたて暗い夜の中に沈んでいった。
1. りんご飴
愉快な音とぼんやりとした提灯の光がいかにも祭りの雰囲気を醸し出している。
高校一年生になった俊は、町内で開かれている祭りの手伝いに駆り出され焼きそばをひっくり返していた。
「ひとつ下さい」
と、細く綺麗な声が聞こえ顔を上げると
白い綺麗な顔をした女の子が薄いピンクの花びらをつけた着物を着て立っていた。
「手伝い頑張ってるんだね」
いきなりの事で俊は顔を真っ赤にしたが、鉄板が熱いせいだと誤魔化した。
彼女は焼きそばをひとつ買い、去り際に
「手伝い終わったらさ、、、白大神社のとこ来て」
と言い残し、人混みの中に消えていった。
頭の整理がつかずボーとしていた俊は、おじさんに怒鳴られ、我に返りまた手伝いを続けた。
一通り仕事が終わり、俊は白大神社へ急いだ。
神社へ行くと入口の近くにりんご飴をふたつ持ったあの女の子がいた。近づくと、
「来てくれたんだ!」
と嬉しそうな声を上げこちらへ駆けてきた。
誰だか分からなかったが、不思議と親近感が湧いていることに俊は気づいた。
彼女はこちらへ来るなり、
「ん」
と片手のりんご飴を渡してきた。
「あ、ありがと…」
受け取る際、彼女の手に指が触れてしまった。
彼女の手は酷く冷たかった。びっくりはしたが、行動には表さなかった。
「あ、あの、君、名前は?」
「モモコだよ。俊くん」
細い声で彼女が答える。
「モモコさんか、えっていうかなんで俺のこと知ってるの?」
びっくりして聞き返すと、彼女は悲しそうな表情を浮かべ
「覚えてないのか、」
と小さく寂しそうに呟いた。
少しの沈黙のあと、彼女はニコッと笑い、
「またね、俊くん」
と言い残し向こうの方へ駆けていなくなってしまった。
するとパラパラと雨が降ってきて、俊は家路についた。
どうしても彼女のことは思い出せなかった。