終わりの始まり
「矢幡研究員、佐久間研究員、終わったぞ・・・。」
矢幡と佐久間は緊張と興奮を隠せない様子で椅子から立ち上がり、研究室から帰ってきた西山を迎えた。二人がついていたテーブルにはコーヒーがはいった紙コップがあったが、ほとんど口はつけられていないようだった。
「そ、それで、結果は、どうだった?」
「ああ、これだ。みてくれ」
西山は分析の結果を記したレポートを二人に手渡した。二人はその場で、顔を寄せ合って、いつもの何倍もの早さでレポートを読んでいった。
西山は二人が座っていたテーブルに着くと、大きなため息をつき、普段は飲まないブラックコーヒーを一口、また一口とちびちび飲んだ。その眼は、木目調のテーブルの節に焦点が合い続けていた。
「西山研究員、やったじゃないか。」
レポートを読み終わった矢幡が振り返り、西山に言った。
「ついに、ついに、我々はこの証明に成功したんだ。あと、十年はかかると思われていたこの証明を・・・。」
佐久間はゴミ一つついていない銀縁の眼鏡を外すと、彼のがらにもなく、白衣で涙を拭った。
そう我々はこの日本にとって重大な事実を証明した。ある仮説を立て、その仮説に基づき様々な調査を敢行。それだけでは終わらず、医学や物理学、そして、この研究は宇宙にまで飛躍し、その結果、あるところで行きづまりを迎えた。
しかし、重力波の発見が我々の研究の大きなヒントとなり、この研究は、仮説の正しさを証明するという最高の形をもって終わったのだった。
だが、僕にとっては決して最高の終わりなどではなく、我が人生の破綻ともいうべき結末なのである。
「早速、このレポートを論文にまとめよう。」
「ああ、そうだな。矢幡研究員。」
そう言うやいなや、二人は西山の様子に気がついた。顔を見合わせた二人は、そのまま首をかしげた。
「西山研究員。いったいどうしたというのだろうか。僕たちの研究は報われたのだぞ。」
「・・・ああ、そうだな、佐久間研究員、矢幡研究員。我々はついに達成したのだな。」
西山は佐久間の声に気がつくと、なんとかその場を取り繕った。
「“初等教育および中等教育における宿題の、学問的成績の向上における関連性”は証明されたのだ。されてしまったのだよ。矢幡研究員、佐久間研究員。」