The another story of Osamu Kito, if…
今回はぬこ02で登場したキトウのアナザーストーリーです。
■アナザーストーリーとは?
本編とは違った選択がされた場合の短編です。
■読まないといけない?
読まなくても本編のストーリー上は問題ありませんが、別キャラクター視点での解釈(種明かし)や本編の今後の展開を予見する情報が含まれる場合があります。
現実世界では他人にはおかしいと思える行動も、その裏にはなんらかの理由が存在しています(正しいとか、合法とかは別として)。
ウケ狙いでインパクト重視の馬鹿で狂ったキャラクターを登場させるのは簡単ですが、そんなキャラにもそうせざるを得なくなった理由があるのでは?
そんなことを想いながら綴りました。
「そこの君!」
俺は人混みの中から見るからに騙され易――人の良さそうな男を見つけて声を掛けた。
もう日が暮れ、本日の報告の時間が迫ってきている。なのに未だ0人、気持ちばかりが焦ってしまう。
声を掛けた男は立ち止まり、こちらを見た。
お、やっと、話聞いてくれる人がいた。
これが最後のチャンスかもしれない。相手を安心させるために”全開のスマイル”を心掛けて対応せねば。まずはハンドシェイクだ!
「いやー、ありがとうありがとう!」
握手しようとすると、男は手を背後に隠した。
あらら・・・・・・ま、そうだよね。でも、俺、全然気にしない。さっきなんて110番するとか脅されたし。それに比べたら全然余裕って感じよ。
さてと、ここからが肝心だ。まずは名刺を見せて身元の証明と。
「えーと、俺はこういうもので、宗教とかネットワークビジネスとかの勧誘じゃないから」
街頭でのアンケートの際は、警察書から道路使用許可証をもらっていることも重要だからね。必要ならそれも提示しなくては。
「ちゃんと道路使用許可証も取っているし。そっちも見る?」
名刺をちゃんと見てくれているし、これはかなり期待できそうだぞ。
「あの・・・」
男は小声で訊いてきた。
「ムクムクって・・・・・・」
おー、そこ訊いちゃう?訊いちゃうか~!
「やっぱり!気になるよね。しょうがないなぁ。名刺にもある通り、俺の苗字ってキトウって言うんだけど、そのせいで学生の頃は結構ネタにされてね。その時の渾名がムクムクってわけ。なんで、キトウがムクムクになったって思うでしょ?そ・れ・は、キトウ、ボッキトウ、ボッキング、ムキムキング、で、最後に落ち着いたのがムクムク。もう、最初とは一文字も被っていないっていうね。でも、なんかこう、妙にしっくりくるというか――」
男は急に歩き出した。話すことに興奮してしまって、気付かなかったが男の目から完全に光が消えていた。
「え、ちょ、待てよ!」
俺は男の肩を掴んで待ってもらおうと手を伸ばしたがスルリと躱され、男は人混みの中へ吸い込まれていった。もう、どこにいるか俺には分からない・・・・・・
やっちまった・・・最後のチャンスを俺はくだらない話で逃してしまった・・・・・・
――あれから、残り時間を頑張ってみたが、誰一人立ち止まってくれる人はいなかった。
何がいけなかったのだろうか?今回も無理して笑顔と低姿勢で頑張ったというのに・・・・・・
「今日の成果を報告しなさい」
「はい、きょ、今日は3名です」
俺は嘘を付いた。
「それは本当ですか?」
「はい・・・・・・」
嘘を突き通すしかない。
「嘘ですね」
「!?」
「貴方は祭木駅前の繁華街に防犯カメラが設置されていることはご存じですか?」
意識したことはなかった・・・・・・
「防犯カメラなのにセキュリティが笊でしてね。映像をこっちにも回しているんです」
まさか、俺の行動はずっと監視されていたというのか?
「ま、まさかその映像でずっと監視していたんですか?」
「まさか。私は面倒なことは嫌いなのです。それはルネに任せています」
「ルネ・・・ですか・・・・・・」
猫みたいな名前だな・・・それとも外国人か?
「貴方の今日の本当の成果は、213人にアプローチ、4名が立ち止まり、0名からアンケートを取った、ですね?」
俺、213人にも声かけていたのか・・・あれ、立ち止まったのは5人のような・・・・・・どちらにしても、アンケート0人の結果は変わらないし・・・・・・
「異論があるなら聞きましょう」
「すいません。次こそは、次こそは必ず!」
「許しません」
そ、そんな・・・
「私が何に失望しているか分かりますか、キトウ君」
昨日も、一昨日も0人、こんな無能、そりゃ失望するわな。
「アンケートを全然取れていないこと・・・・・・ですかね?」
「違います。貴方は今までだって散々な結果だったではないですか」
「うぅ」
いや、確かにそうなんだが。
「私が失望しているのは貴方が嘘を付いたことです」
取りあえず、もう一回謝っておくか。
「す、すいません。もう嘘は付きません」
「許しません。この嘘は貴方の保身のためだけのものでした。そして、その誤った情報は私にとって益どころか、害になるところでした。貴方は今回のことで監視されていることを知りました。だから、次からは嘘は付かないでしょう――この件に関しては、です」
俺はどうすればいいんだ・・・・・・
「今日までの報酬は払いましょう。でも、契約はこれで終わりです」
「そ、そんな!」
「契約書には、それまでの報酬を支払う前提で、依頼主である私が"文面による通知"により、いつでも契約を打ち切れる条件になっています。契約書の第12条第1項です。この文面とは送信者と受信者が特定できる電子メールでも可とも記載されています」
そう言われると契約書の後半にそんな内容があったような気がする。
「ルナ」
俺のズボンのポケットが小さく振動する。スマホが入っているポケットだ。
「今、その契約終了通知を貴方にメールしました」
「はぁ」
「支払いは今まで通り月末締め、翌月末払いです。もう、貴方とは会うことはないでしょう。それでは、さようなら」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
並行してインドネタを書いていますので、良かったら読んで頂けると嬉しいです。
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