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第7話 学院対抗魔術競技会1

 いよいよ始まった、学院対抗魔術競技会。

翔太君の活躍は?


 アリストとキンベラ、両国の威信をかけた学院対抗の魔術競技会が翌日に迫った。


 競技会の開催地はアリスト国内で、大きな湖に面したルンダスという町だ。

 ボクが住んでいるアリスト王城から見ると、北西の位置になる。

 白い家並みのとても綺麗な町で、ボクは以前から来てみたかったんだ。


 アリストが今の王国になる前は、ここに王宮があったそうだ。

 日本で言えば、京都のような街かもしれないね。


 ボクとルイは、大会の前日、早めに現地に入り、町をぶらついたり、珍しいお菓子を食べたりした。

 ルイはとても楽しそうだった。


 ボクたちアーケナン魔術学院が使う宿舎は、昔の迎賓館とかで、もの凄く立派な建物だった。

 ただ、とても古い建物だから、石の壁や床には、あちこちにひび割れや欠けたところがあった。

 建物の石は、日本の大理石に似ていて、触るとつるつるしていた。


 夕方になると、大きな部屋に集まって、出場選手や会場運営の生徒みんなで食事をした。

 各学年の先生も一人ずつ参加していて、一回生の教師陣からは、マチルダ先生が来ていた。

 城下町で食べられるものもあったが、見たことがない料理も多かった。

 中国の餃子っぽい料理やシューマイっぽい料理もあって面白かった。

 味は、ボクには塩辛すぎた。


 食事の後は、過去にあった対抗戦の話を先輩がしてくれる。

 下級生たちは、みんな真剣に話を聞いていた。


「そのとき、俺たちの先輩ヴィナスさんが、巨大な水玉を作って敵のディフェンスごとゴールをぶち抜いたって話しだぜ」

「凄いっ!」

「派手だなあ!」


 どうやら、過去に大活躍した選手がいたらしい。

 ルイがボクの袖を引っぱる。


「きっと、ショータ様なら、もっと凄いことができますよ」


 彼女は、そう耳元で囁いた。

 ボクはあまり派手なのは好きではないから、できたとしてもしないだろう。


 先輩たちの話が一通り終わると、ボクらは男女別に広いお風呂に入り早めに寝た。


 ◇


 試合当日は、絶好の魔術日和だった。つまり、晴れていて風も無い。


「では、選手入場です」


 魔道具で拡大された案内役の声が場内に響きわたる。

 ボクたちは、三列になって競技場の中に入った。


「まずは、東側入り口から、アーケナン魔術学院の入場です」


 観客席から歓声と拍手が振りそそぐ。


 競技場は横に長く、サッカー場にそっくりだった。


「次に、西側入り口から、タルス魔術学院の入場です」


 チラリと横目で見ると、ボクたちの左側を青いローブを着た人たちが行進していた。

 北側の客席前で、行進が停まる。


「では、各学院代表からの一言」


 お立ち台に、青いローブを着た色の白い男性が登った。

 顔だちは整っているけれど、口の端が片方、キュッと上がっている

 顔の半分で笑っているんだろうか、それとも最初からあんな顔なのかな。


「諸君、今日は私の応援に来てくれてありがとう。

 存分に楽しんでいってくれたまえ」


 ええと、「私」じゃなくて、「私たち」だと思うけど。

 ボクは、その人に何か違和感を感じていた。


 後ろに立っているルイが小さな声で話しかけてくる。


「ショータ様、あれが例の元皇太子です」


 へえ、国王を辞めた後は、魔術学院の学生をやってたのか。

 でも、話に聞いたような人だと、魔術を教えると危険なんじゃないかな。


 元皇太子が台から降りると、ルイのお兄さん、スヴェンさんがそこに立った。


「私たちは魔術学院生徒として、恥ずかしくない競技を行います」


 彼がよく通る声でそう言うと、観客席の皆が拍手した。


「それでは、続きましてアリスト国女王陛下からお一言があります」


 それまでと違い、案内役の生徒の声が緊張しているのが分かった。

 ボクたちから見て正面の観客席五、六列目からきらきら光るローブを着た女王様が立ちあがった。

 それは、弟のボクから見てもすごく威厳がある姿だった。


「アーケナン魔術学院、タルス魔術学院の諸君、全力を尽くし、日頃の研鑽けんさんを思う存分に見せて欲しい。

 両学院の健闘に期待する」


 お姉ちゃんがそう言うと、会場が一瞬シーンとした後、すごい歓声と拍手が沸きおこった。

 座るときに隣の太ったおじさんと握手したということは、あれがキンベラの国王かもしれない。


 うちの学院の生徒たちもみんな拍手している。

 ただ、隣に並んでいるタリス魔術学院の人たちは、なぜか暗い顔をして俯いていた。


「では、選手は、各控室で待機してください」


 進行役の声で、ボクたちは競技場から外に出た。


 ◇


 競技は、基礎能力を競う学年別対抗戦と、判断力やチームワークを競う学院戦に分かれている。

 先にある学年別戦は、一回生から順に行うので、控室でゆっくりする間もなく、ボクは競技場に向かった。


 一回生の三人が競技場入り口に着くと、案内役の学生が場内中央あたりまで誘導してくれた。


 競技場の地面は、白っぽい土でできているんだけど、そこに緑の線が引いてあった。

よく見ると、線は緑の布を帯状にしたもののようだ。


 ボクたち三人は、緑の線に沿って五メートルくらい離れ、等間隔に並んだ。

 その隣に、タルス魔術学園の一年生三人が、やはり同じように並ぶ。

 六人が、緑の線に沿って一列にならんだことになる。


 ボクたちの右手に当たる観客席から、応援の声が聞こえる。


「ショータ君、がんばってー!」


 あれは、ジーナだね。隣に立ったドロシーが、「全員を応援しなさいよ、全員を!」って怒ってる。


「ショータくーん、勝ったらキスしてあげる~」


 ララーナさんの応援に、ボクは顔が熱くなった。


「「「がんばれー!」」」


 一回生男子クラスメートの声も聞こえる。


 審判らしい、白いローブを着た四十才くらいのおじさんが、競技の説明に入った。

 この魔術競技会の個人戦に関しては、当日その場にならないと内容を教えてもらえない。これには、魔術の応用力をチェックするという目的があるそうだ。

 今回の競技は次のようなものだった。


 選手は、緑線の手前から、水魔術の玉で的を狙う。

 的には二種類あって、赤がアーケナン魔術学院、青がタルス魔術学院の得点になる。


 ただし、一つの玉で落とせるのは、一つの的だけで、毎回新しい水玉を作らなければならない。

 そして、水魔術に限って、防御に使っても構わない。つまり、ボクたちは、タルス側が、青い的を落とすのを邪魔することができる。

 相手選手への直接の攻撃はできない。



 ボクたちから、十五メートルくらい離れたところに、二十枚ほどのカードがふわふわ浮かんだ。

 きっと、競技サポート役の先生たちが、風魔術で浮かせているのだろう。大きさは、ちょうど葉書くらいだ。

 赤いカードがボクたちの前、青いカードが対戦相手の前に浮いている。

 防御するときは、相手より遠い的を守らないといけないから、工夫が要るだろう。


 管楽器の音が、競技開始の合図だった。

 ドロシーともう一人のチームメートが呪文の詠唱を終えると、自分たちの前にある赤い標的を狙って水玉を撃ちだしている。


 ボクは少し考えて、ディフェンスを受けもつことにした。

 青いマナを集めて水魔術を発動する。

 目の前に直径一メートルくらいの水玉が浮かぶ。それをコントロールして、細長い板状にした。


 青いカードが並んでいるところにそれを移動させる。

 当然、相手の水玉は、ボクが作った水の「盾」にぶつかるだけで、カードまで届かない。

 その間にも、ドロシーたちが、一つずつ赤い標的を撃ちおとしていった。


 赤いカードが全部地面に落ちると、また管楽器が鳴らされた。


「競技終了!」


 魔道具を通して、拡大された声が場内に響く。

 青のカードは九枚が空中に残っていた。


 横を見ると、まっ青になったタルス学院の生徒が、四つん這いになって震えている。

 これは、魔力を過剰につかったときに見られる症状だ。


 ボクはすぐに、三人に治癒魔術を施した。

 魔力の枯渇が治るわけではないけれど、症状は軽くなるからね。

 三人は、ほどなく担架で運びだされた。


 ドロシーともう一人のチームメートは、飛びあがって喜んでいる。

 観客の方を見ると、なぜかそちらは、シーンとなっている。

 その中から、元気のいい声が聞こえてきた。


「ショータ、すごーい!」

「すごーい!」


 声がした方を見ると、ナルちゃんとメルちゃんが観客席から立ちあがって、こちらに手を振っている。

 二人は、銀髪のとても美しい少女で、シローさんの娘だ。


 二人の横には、ボクもよく知っている綺麗な女性が三人並んで座っていて、その横には白猫を肩に乗せたシローさんがいた。

 やっぱり、来てくれてたんだね。ボクと目があうと、にっこり笑って頷いてくれた。


 それを目にしたボクは、心の底から、喜びが沸きあがってきたんだ。


 『(*'▽') 翔太君、ぱねー』

 ホントだね、点ちゃん。(点ちゃんは、本編で登場する魔法キャラクターです)

 翔太君は大活躍でした。

 次は、いよいよ団体戦です。

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