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宮路平助18歳

「典子はこのバイトの事、ちゃんと分かってんのかよ?」

 治は典子、いや典子の姿をした平助に詰め寄った。すると平助は平然と言った。

「ああ。典子ちゃんから「おじいさま、アルバイト頑張って下さい」と励まされたぞ」

「う、嘘だろ?」

 平助の言葉に治は驚きを隠せなかった。

 平助が身に付けているそのファミリーレストランの衣装は、上半身にカラフルなキャミソール、下半身にミニスカートを身に付け、更にその上から白いエプロン風のウェイトレス服を重ね着するというものだ。その衣装は典子の小さな身体にとてもよく似合っていたが、平助が接客業を意識するあまり、典子の顔に普段よりも濃いめのメイクを施していて、その美しい顔をある意味台無しにしていた。いくら平助に自分の身体を好き放題にさせているとはいえ、典子がこれを見れば十中八九嫌がるだろうと治は思ったのだ。

「本当じゃ。その代わり、典子ちゃんはワシの親友の相良さんと今日もゴルフに出かけておる」

 平助の言った通り、平助になった典子は彼の一番の趣味であるゴルフに加え、釣りにギャンブル、そして夜のスナック通いと、男性の娯楽を全て体験しているらしい。

「彼女、随分と腕を上げていて、この間の土曜日なんか80で回ったらしいぞ。ワシもうかうかしてられんわい」

「あああ…」

 事の重大さを忘れて能天気に話す平助の言葉を聞いて、治は思わず頭を抱え込んだ。

 平助はそんな治の肩をその小さくて可憐な手でポンと叩いた。

「ワシも典子ちゃんもお互いの生活を心から楽しんでいるのじゃ。だから、お前は何も心配する事はない」


 その日の夜遅く、治は平助を連れて街を歩いていた。

 平助のアルバイトは22時まで続くもので、夜の街はあまりにも危険が多い。いくら中身が平助とはいえ、今の彼はあくまでも18歳の可憐な女子高生でしかない。それを心配した治が平助のアルバイトが終わるのを待って、彼を典子の両親が住む自宅まで送っているところだった。


 治は不思議な感覚に囚われていた。

 隣を歩く典子は、これまで通りの彼女だが、中身は75歳の老人男性、しかも自分の叔父なのだ。それがまるで恋人のように夜の街を一緒に歩いていて、周りが見れば普通のカップルにしか見えないだろう。

(まさか、隣に居るのがじいちゃんだって、誰も分かんねえだろうな)

 そう考えると治は苦笑するしかなかった。


「それより、治。典子ちゃんから聞いたぞ」

 平助は隣を歩く治に向かって言った。

「何をだよ」

「お前たち、あっちの方はまだなんだな」

「な、ななな…」

 治をそれを聞いて思わず立ち止って平助を見た。彼は明らかに動揺していた。

「わっはっは。治は本当に奥手だのぉ。まったく誰に似たんだか」

「あわわわ、この馬鹿、こんな所でそんな話するんじゃない」

 話をする治の顔が見る間に真っ赤になった。

 平助はそんな治を見て悪戯っぽく笑った。その笑顔は一ヶ月前に見た典子の笑顔と何ら変わりはなかった。

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