【舞華・里久の部屋】
「うぅ、酷い目に遭ったぜ」
「だから早く起きた方が良いって言ったじゃないか五郎君」
「いや、それにしたってよぉ」
優菜に叩き起こされ不満気な五郎と、そんな五郎に苦笑しつつ宥める勝実。
「まったく。ちゃんと起きないアンタが悪いんしょう。あんまり勝実の手間を取らせないようにしないさいよ。さて、あとは女の子の方だけね。アルト、私、先に行ってるから、ちゃんと着替えた寝坊助君と一緒に来てから、こっちに合流でね」
「…ああ。わかった」
そう言った後、優菜は一足先に五郎達の部屋を出て行った。
(……やはり僕が一緒でなくてよくね?)
と思ったのだが心の奥にしまった。
……優菜を怒らせたくないし。
その後、寝間着から普段着のシャツとズボンに着替えた五郎と、既に準備が出来ている勝実と共に部屋を出た。
出た後、そう言えば遠浅の挨拶をしあった。
「お早うございます。アルトお兄ちゃん」
「おはよっす、アルト兄ちゃん。朝から変なとこを見せちまったっす」
「あはは。おはよう、五郎、勝実。じゃあ俺は優菜を追うし、2人は先に食堂に向かってくれ。たぶん陸斗が先に行ってるはずだ」
「おいっす。了解っす」
「はーい。あっ、五郎君、朝御飯の前に顔を洗わないいけないよ」
「うへぇ、なんか面倒だな」
「ちゃんとしないと後で…」
「わかったって。たくっよ」
仲の良さそうで何よりだ、と1階に向かう2人に対して呟きつつ優菜が待つ女子部屋の方に向かった。
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女子部屋の最初の部屋の前に着くと同時で、ちょうどその扉が開き中から優菜が出てきた。
「あっ来たわね。遅いわよ。舞華も里久ももう起きてるわよ」
「そうなのか」と優菜に言いつつ部屋のネームプレートに目を向けた。
そこには『まいか』『りく』と書かれている。
舞華。確かフルネームは日乃元舞華と言う名前で、この施設の年少組の中では舞華が一番の年長だそうだ。
今年で5年生らしい。
もう一人の子は……よくわからないが本心だと思うアルト。
まだ初日を過ぎただけなのだが、あまり口数の多くなく表情もあまり表に出さないようだ。よく分からないが此方をじ~と見つめてくるのだ。
その視線は観察されているように感じた。
名前はフルネームで木原里久と言う。小学4年生だそうだ。
彼女と初めての挨拶の時、
『私の名前は里久。お兄さん、よろしく』
『…リク?リクトと似てるんだね』
『うん。けど私は里久だから』
『ああ。わかったよ。よろしくね、リク』
『うん。よろしくお兄さん……じ~…』
(なんかじっと見られてる気がする…)
と言うやり取りをした。
「そうか。2人とも起きてるのなら次の部屋に向かう?」
「ううん。どうやら舞華も里久もアルトが来るのを待ってるみたいだから。朝の挨拶をしてあげて」
「そうなのか」、と言うとアルトは部屋の扉に手を掛けようとしたが、部屋に入る前にはノックをして確認する必要があると思い出す。
(うっかりするとこだった…)と思いつつノックをした。
『はい。どちら様?』
扉の中から舞華の声が聞こえてきた。
「僕だ。アルトだ。扉を開けてもいいかい?」
『あらアルトお兄様。どうぞですわ。お入り下さいませ』
中から了承の声。
ではと扉を開けた。
中には既に朝の準備が出来ている舞華と里久がいた。
「おはよう」
「ええ、お早う御座いますわアルトお兄様。まったくお兄様はレディを待たせ過ぎですわ。こうしてお兄様が来られるのをずっと待っていましたのですから」
「…お兄さん。おはよ…。じ~」
「待たせたていたのなら悪かったね舞華」
「いえ。その、私が一方的に待ち望んでいただけという事ですから。お兄様もお気にし過ぎないようにして下さいませ」
舞華は始めはどこか上から目線と言うような感じであったがアルトが謝ると「言い過ぎでしたわ」と頬を若干赤くしつつ謝罪してきた。
言い方はきつめだが、根は良い子なのだ。
じっと舞華を見つめる。
茶色の肩より下くらいの長さの髪。身長は男子勢で一番身長のある五郎より少し上くらいの高さ。
着ている服もどこか気品がある様に見える白いシャツと赤い膝位の長さのスカート。
「…お兄さん…」
「ん?ああごめん、ごめん。里久もお早うな」
「お兄さん、返し遅い。けど許す…」
舞華に話してばかりで少し頬を膨らませていた里久に「ごめん」と謝罪しつつ朝の挨拶すると機嫌を戻してくれたようで「ふふ」とあまり表情は変わらないが笑ってくれた。
肩位の長さの黒髪を両端で括っている所謂ツインテール。
舞華と違い一般的の何かのキャラクターがプリントされたシャツにスカート。
「ふふ、里久さんてばこれくらいで嫉妬されるなんてまだまだ子供でしてよ。うふふ」
「…むっ、そう言う舞華なんて、さっきから『お兄様はまだかしら~どうして来て下さらないのかしら~』とか――」
「あーあー、聞こえませんわ~。……待っていたのは事実ですけども…」
「ふふ、まだまだね」
「仲良きことは嬉しきかな、て感じだな」
仲の良い2人に微笑ましくなるアルト。
そのあともう二三話をした後、
「では、私達は先に行って待っていますわ。さあ行きますわよ里久さん」
「…うん。お兄さん、またあとでね」
と、2人一緒に1階に向かっていった。
「これであと一部屋だな」
「ええ、あとの2人の子ももう起きているみたいだわ」
「そうなのか?」
「うん。先に確認していたから」
「……僕が行く意味あるのだろうか?」
「ふふ、そんなの意味があるに決まってるわよ。子供達がアルトに早く慣れてもらう事、アルトが子供達の事を知って理解して貰うには触れ合いの時間が大切なんだから」
「そうなのか」と思い子供達との関係を考えてくれていた優菜の優しさに感謝しつつ、最後の部屋に向かった。
「……最後の子が、アルトに慣れて受け入れて貰うのには時間がいるんだから」
「ん?何か言った優菜?」
「いいえ、何でもないわ」
優菜が何か小声で何か言っていたが聞き取れなかった。
何でもないという優菜だけどどこか悲痛感がある様に感じた。
それが何か分かるのはこの後だった。
今までの子達は内心はどうかは分からないが明るい子達だった。
だから意識から外れていたのだと思う。
ここ――ふれあいの里と呼ばれる施設がどういう場所であるか。
傷を持つ子供がいる場所であると言う事を。