【五郎・勝実の部屋】
陸斗に声を掛けた次に向かったのは五郎と勝実の二人部屋だ。
3人の男子の中で一番やんちゃな性格をしており元気が売りの五郎。フルネームは清水五郎と言う。
そして3人の男子の中で一番大人しい性格で、一見女の子に見違えそうな雰囲気と外見を持つ勝実。フルネームは火村勝実と言う。
五郎が小学4年生。勝実は陸斗と同じく小学3年生だ。
つまり五郎が3人の男子の中で最年長と言う事だ。
部屋の前にやってきた……のだが。
部屋の中から声が聞こえる。ただし一人だけ。
「この声は、勝実か?」
「そうね。間違いないわ。あの子がアイツを起こしてる声と思うわ。はぁ、アイツはまだ寝てるのね、もう」
中から聞こえる声は勝実で間違いなさそうだ。
耳を澄ますと中から誰かを起こす声が確かにした。
『…五郎君!もう朝だよ!朝ごはんの時間になるよ!』
『……うるさいな。…今日は日曜日なんだから良いだろ…ムニャムニャ』
五郎の声も微かに聞こえたが寝惚けているらしい。と言うかまだ寝ていたいらしい。
日曜日は休日で学校も休みになる日なのだそうだ。
「どうする優菜?」
「…行きましょうか。寝坊助坊やを起こしてあげないとね」
コンコン―
『あっ!ノックの音。ほら五郎君。朝ごはんだよ。優菜お姉ちゃんが呼びに来たよ!』
『…いいじゃねえかよ。…優菜姉ちゃんがなんだってんだ…ムニャムニャ』
ピシッ!
なんか隣からそんな音が聞こえた気がした。
…今は隣を向いちゃいけない気がした。
本能的にそう感じたアルト。
うふふ、笑う優菜がゆっくりと扉を静かに開けた。
「あっ……ヒッ!?」
開けるとべッドに寝ており掛け布団を鼻元くらいまで上げて被り、必死に起こそうと体を揺すっている勝実に背を向けている五郎の姿だった。
開けた瞬間、勝実は一目此方に視線を合わせた瞬間に扉を開けた優菜に小さく悲鳴を上げていた。
うん。その姿は愛らしいさがある。
勝実は男だけど。
アルトはとりあえず勝実に右手を上げて挨拶した。
声は出さなかった。
今は声を出さない方が良いと、優菜から発するプレッシャーがそう告げているように感じ黙ったのだ。
勝実もそれを理解しているのか「おはよう」とアルトに頭を下げた。
「ムニュムニュ」
その間も五郎は寝ている。
気付かないのだろうか?優菜から発せられるプレッシャーを。
なら中々の豪胆な子だな、と思うアルトだった。
「ふふ…」
優菜から笑みの声が聞こえた。
そして優菜は未だ布団に包まり寝惚けている五郎に近づく。
どうやら五郎は間に合わなかったようだ。
何時の間にかアルトの傍に移動していた勝実が小さな声で、
「…五郎君、ご愁傷さま」
と言い目を閉じて両手を合わせた。何かに祈っているようにも見えた。
アルトも勝実に倣い同じポーズを取りとりあえず祈っておいた。
そして次の瞬間。
「いつまで寝てるのよー!この寝坊助五郎ぉ!!さっさと起きなさぁあいっ!!」
「ぎゃああああ!!?」
優菜によって文字通り叩き起こされた五郎の情けない悲鳴が部屋の中に響いた。
優菜を怒らせると怖いんだと知るアルトだった。