予感の朝
「アルト~!起きなさぁい!もう朝だよ!」
ベッドに横になって寝ていたら体を揺すられる振動と自分を起こそうと呼ぶ女の子の声が耳に入る。
それと体に人一人分の重みも感じる。特に腹部に。
また自分に跨る様にしているのかと思いつつ、目を開けて行く。
そして目の先いる少女―瀬々羅優菜に挨拶をした。
「おはよ、優菜…何でいつも僕の上に乗って起こすのかな?」
「それは……アルトがさっさと起きないのが悪いんだからね!…(言えないわ!アルトの寝ている顔を近くで見たいからとか、アルトに触れたいからなんて言えないわよ!恥ずかしい!)」
ええ?と思う。あと何だか優菜が小さな声でブツブツ言っていたけど聞き取れなかった。
「とりあえず起きたいから僕の上から退いてくれる?」
「……」
何だか名残惜しそう?な感じを醸し出しながら「よっ」と退いてくれた。
身体を起こすと「うーっ!」と腕を上げながら背を伸ばす。
身体自体は問題はないと思う。しかし頭の方はまだしゃきっとしていない感じだった。原因は”夢”のせいだろう。
「大丈夫?またあの変な夢を見たの?」
優菜が此方の顔を覗き込みながら心配そうに聞いてきた。
優菜にはここ最近見る不可思議な夢の事を教えてある。
と言うよりこの夢を見始めた初日に気付かれたんだけど。
『私に嘘は聞かないよ?特にアルトに関してはね!』と。なんで僕限定?とか思い少し怖いなぁと思ったのは内緒だ。
なので正直に今の状態を伝えた。
寝不足感はあるけど体の調子は問題ない。と。
「う~ん…ちょっと顔色が悪い気がするけど」
「大丈夫だよ。ちょっと体を動かせば本調子になるから。優菜は心配性だね」
「アルトが自分に無頓着なの!もう!」
「ははっ…それじゃ僕制服に着替えるから」
寝起きなので今の自分の服装は寝間着だ。優菜は既に学園の制服に着替え終わっているようだ。なので自分も着替えないといけないというわけだ。
「あ、うん。部屋の外で待ってるから無理せず急いでね!」
そう言うと優菜は出て行った。
無理せず急いでってどんな?と思い苦笑しつつ部屋の外で待つ優菜の為に制服に着替え始めた。
+
僕の名前はシン・アルト。アルトが名前でそう呼ばれている。どうやら僕のこのアルトって名前は、今僕が生活をしているこの【日本】では少ないらしい。いわゆるキラキラネームぽい?。
髪は黒でツンツンとした硬めのショート。ただこの自分の髪の色にはなんでだろうか違和感を感じる。本当は違う色だったような気がしてならない。もちろん髪を染めたりなんてしてないし、染めた形跡もないみたいだ。
それは左右の瞳も同じく違和感がある。
僕の瞳の色は髪と同じで黒。覗くと何だか落ちてしまいそうな深い底の無い様だと言われることがある。
【日本】では黒色の髪と瞳が一般的らしい。仲には茶髪の人もいるが大多数は黒だ。
身長はここ2年で成長し今では180㎝に成長した。
今年で高校3年の17歳……だと思う。
『と思う』なのは自分でも本当か判らないからだ。
僕は記憶喪失らしい。
2年前以降の昔の記憶が綺麗さっぱり覚えていなかった。
憶えていたのは微かに聞き残っていた『アルト』と言う名前だけだった。
それも本当が判断し辛い。ただ『アルト』と呼ばれると懐かしさを覚えるので間違いはないと思う。
+
寝間着の上着を脱ぐとハンガーに掛けてある制服に手を伸ばす。ここ2年で5㎝以上成長した関係で新しく新調した制服だ。
白のYシャツを纏い制服を着こむ。ズボンも履き替える。
今日は確か半日授業だったはずと必要な科目の教科書やノートを鞄に入れようと思ったのだが、既に用意されていた。恐らく優菜がしてくれたのだろう。
周囲から隙が無いなとか言われるのだが、偶に”うっかり”をしてしまうことがあるのだ。
用意してくれた優菜に感謝すると、
『アルト~まだ~!』
外から優菜の催促の声が掛かった。
「おっと…今できた!直ぐ行くよ!」
と優菜に返し鞄をしっかりと持つ。ここで忘れるうっかりはできない。
部屋の扉を開ける。
「おそいぞー、ちゃんと鞄持った?」
「ああ持ってるよこの通り。用意してくれてありがとうな」
「アルトってば時々ぬけることがあるからね。さあ行きましょ。私もまだ朝食摂ってないの。早く行きましょ!」
「ああ」
優菜と一緒に1階に降り食堂に入る。
アルトと優菜は同じ学園の寮で生活している。
食堂に入ると寮母をしている女性と会う。
朝の挨拶を軽くし合う。
「なんだか顔色が少し悪そうだけど大丈夫?」
と心配されたが寝起きだからと答えた。よく見てるなと感心した。
用意されていた朝食と優菜と一緒に摂る。
食べ終わった後学園まで優菜と共に歩き始めた。
この時何だか予感のようなものを感じた。
今日、アルトがこの【地球の日本】に記憶を無くてやってきたその日に何かが動き始めるような、そんな予感を感じた。
(あの変な夢なせいかな?)と思うのだった。