行き倒れ
「さて……、これからどうするか」
ユキヒトは1人雑踏の中を歩いていた。
あれから、一旦お金は猫に全部預け、好きな時に召喚できるようにしてもらうことができた。
「くふふ、お前は今まで出会った中で一番面白い転移者じゃよ。また会おうの」
そんな言葉とともに、ついに猫は次元の切れ目へと飛び込んでいった。とうとうこの世界で一人ぼっちになったユキヒトは、これからどうしようかと考えながら歩みを続ける。
とはいえ、することといったら1つだろう。
金はある、時間もある、そして職と家がない。ついでで言えばぬるい酒と食材が入ったレジ袋はある。
そんな状態ですることと言えば、そう旅だ。
この広大な世界で旅をしよう。
そう決めたユキヒトはある店を探し始めた。
それは服屋である。スーツに身を包むユキヒトの姿はよっぽど珍しかったのか、誰かとすれ違うたびに奇異の視線を向けられていた。さすがにジロジロと見られるのは居心地が悪いため、何よりも優先して服屋を探すことにしたのだ。
数分歩き、ユキヒトはお目当の服屋を見つけた。そこで都合よく行商隊が好んで着る服が売られていたあめ、それを迷わず購入し身を包む。暗い灰色のズボンと茶色の上着、それにベージュのローブは地味だが動きやすく、行商隊に好まれるのも頷けた。
主人に服代とチップを払い店を出ると、もうユキヒトに視線を向けてくる人は誰もいなかった。ようやくこの世界に溶け込むことができたことに喜びながら、次はどの店で旅立ちの準備をしようかと考える。
食料や寝袋とかも必要になるだろう。それに魔物は出ないと言っても野生動物は出るだろうから武器とかも必要じゃないだろうか。それに誰か一緒に旅をする人がいてもいいかもしれない……。
と、その時だった。
ニヤニヤと笑みを浮かべながら旅に思いを馳せているユキヒトの背中にドスッと衝撃が襲った。
慌てて振り向くとそこには、少女が虚ろな目をしながらしがみついていた。
「おな……おなかが……すい、空いたのです……」
その言葉とともに少女は気を失うと、パタリと地面へと倒れた。
「……まあ、見殺しにはできんわな」
今日は心臓に悪いことが何度も起こりすぎじゃないかと考えながら、ユキヒトは少女の身体を抱え、食事ができるところを探し始めた。