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1つだけの力

 ユキヒトは15年間とある企業で働いてきた。そこは所謂ブラック企業というもので、拘束時間が長く、休日も少ない、給与も少なめとまさに踏んだり蹴ったりの職場ではあったが、そんな人生もいいだろうと彼は真面目に仕事に取り組んだ。おかげで恋愛には縁遠かったものの、職場ではそこそこの地位を築き上げ、それなりに幸せな日々を送っていた。

 そんなユキヒトの趣味を2つ持っていた。それはネットサーフィンと料理である。

 もっと休みがあればアウトドアな趣味に没頭できたのだろうが、いかんせん月に休みが3日取れればいい方の生活を送っていたので、自ずとインドアな趣味を持たざるを得なかったのだ。

 しかし、この2つの趣味、特にネットサーフィンはユキヒトの性格に上手くはまった。昔から何かを調べるのが好きだった彼は、空いた時間で様々なことを調べた。その日耳にした言葉や将来やってみたいことについてなど、手当たり次第に彼は知識を集めていった。最近ではとある小説投稿サイトにはまり、それを通勤時間に読むことが日課になった。そのおかげで彼は異世界に転移したことに、すぐピンとくることができたのだ。

 そんな大変ではあるもささやかな幸せを享受しながら生きていた彼の元に、その日は訪れた。

 久しぶりに取れた休日の前夜、この日も遅くまで仕事をしていたユキヒトは、気怠い身体を引きずりながら24時間営業のスーパーを出た。

 せっかくの休日なのだから飲み食いしながらネットサーフィンをしよう、と大量の酒と食材を買い込んだ彼は、腕に伝わるレジ袋の重みに、ニヤリと笑みを浮かべた。

 これから宴が始まる。

 心の中で歓喜の声を上げながら、彼はふと空を見上げた。そこには煌々と大きな満月が煌めいていた。まるで月までも俺の休日を祝ってくれているみたいだ、と上機嫌になったユキヒトは視線を前に戻すと一刻も早く家に帰ろうとスキップをし始めた。


 その時だった。


 突然、壁が勢いよく目の前に立ちはだかった。黒く硬い壁に思い切り顔を打ち付けると、口の中でじんわりと血の味が生まれた。


 一体誰だこんなところに壁を造ったやつは!


 先ほどまでの陽気な気分が吹っ飛び、ユキヒトは苛立ちとともに壁を押しのけようと手を伸ばそうとした……、が、そこで違和感に気付いた。

 違う、これは壁なんかじゃない。これは、地面だ。

 壁がいきなり立ちはだかったんじゃなくて、俺が倒れたんだ。

 ようやく自分の身に起きたことに気が付いたユキヒトは身体を起こそうと試みた。しかし、どれだけ身体に力を入れようとも、指先1本動かすことができない。

 なんだ、一体何が起きているんだ。

 自分の身に起こったことに何1つ理解できないままでいると、一瞬頭の中に白いノイズが走った。そして、それが2、3回続いた後、ユキヒトの意識は黒に包まれた。



「そして妾が過労死したお前をこの世界に転移させたというわけじゃ」


 猫は木箱の上でくるくると尻尾を回しながら話を終えた。その仕草の可愛さに心を奪われながらも、ユキヒトは質問する。


「いや、俺が異世界に転移するまでの流れはわかった。で? その理由はなんだ?」


 いつの間にか猫の隣に座っていたユキヒトは、指先で猫の額を撫でながら問いかける。それを気持ちよさそうに受けてゴロゴロ鳴きながら猫は話を続けた。

「まあ、理由は特にないのう。たまに気が向いたら転移やら転生をさせるのが妾の趣味なのじゃ」

「そうかい、ずいぶん適当な神様だな」

「くふふ。神とは適当なものなのじゃよ」


 猫はスタリと木箱から降りると、ユキヒトと正面から向き合った。


「さてサガラユキヒトよ。妾は適当じゃが寛大な神様じゃ。お前がこの世界で生きていくことを望むなら、たった1つだけ特別な力を授けよう」



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