目覚めたら異世界
「んご…っ、おっ、おぐ…?」
肩を叩かれた衝撃で、ユキヒトは目を覚ました。口の中に広がる土の味と、いつの間にか切ったのだろう、鉄臭い血の味に不快そうな表情を浮かべながら彼はうつ伏せの状態から顔を上げた。
「○☆♭¥3<々5+*25+÷+*6?」
「……あ?」
目の前に猫耳を生やした女性がいた。女性は心配そうな表情を浮かべながらユキヒトをじっと見つめていた。
は? なんだこの人、コスプレ? つうか誰だよ。
ユキヒトの頭の中は一瞬にして疑問符で埋め尽くされていく。少しでも情報を得ようと周りに目を向けると、目の前の女性と同じような様々な動物の耳を生やした人や、むしろ動物が二足歩行しているような人型獣が往来を闊歩していた。
「〒→6+÷62・2+々? *15+jjnjdlaj+:〒4……」
情報を得ようとして余計にこんがらがった頭に、再び女性の心配そうな声が飛び込んでくる。
「あー……、どんとうぉーりー……。 せんきゅー!」
先ほどから女性が何を言っているかわからなかったため、とりあえず拙い英語で心配無用と伝え、一礼の後にユキヒトは駆け出した。
まずは冷静にならなくてはいけない、どこか静かな場所はないだろうか。
そんなことを考えながら走り回る間も、瞳に映るのは今まで見たことのない生物や、中世の造りをした建物の店頭に並べられた不思議な雑貨や食べ物エトセトラ。
まるで夢のような光景だが、口の中で疼く痛みがそれは違うと教えてくれている。
もうこれは、あれだ。あれしかない。
ようやく見つけた人気のない寂れた空き地で、彼はこの状況を説明できるたった1つの可能性を大声で叫んだ。
「これは……、異世界転移だ!」
「うむ、正解じゃ」
叫んだ瞬間、すぐ隣からそんな声が聞こえた。心臓が止まりそうなほど驚きながらユキヒトが声の方へ顔を向けると、そこには1匹の猫が木箱の上に座っていた。
「くふふ。説明してやろうサガラユキヒトよ。お前がどうしてこの世界に来たのかを、神である妾が直々に、の」