プロローグ 竜の背で
ほのぼのとしたファンタジーを目指します。暴力とかグロテスクな描写はおそらく無いと思います。楽しんで読んでもらえたら幸いです。感想やレビューをしていただけたら作者は狂喜乱舞裸祭りです。
大きな影が険しい陵丘地帯の真上を飛んでいた。
その影は赤茶けた鱗に覆われ、2枚の巨大な翼を広げ、そして丸太のような太い尻尾と大きな鉤爪を従えていた。
翼竜。種族で言えばワイバーンと呼ばれるものが、風を裂くような速度で悠然と空を飛んでいた。
その上に3つの小さな影が乗っていた。
1つの影は翼竜の首に括られた白い手綱を握る男だった。煙管を咥えながら手慣れた手つきで手綱を引っ張ったり時には軽く揺らしている。その動きに合わせ、翼竜は速度を変えたり、進む方角を少しずらす。男は自分の操縦に良く答えてくれる相棒の鱗を褒めるように撫でながら、煙管を手に取った。
「お兄さんに嬢ちゃん、どうですかワイバーンの乗り心地ってやつは」
男はチラリと後ろを振り返りながら、もう2つの影へと話しかける。
2つの影は、中年の男性と少女だった。中年の男性はまるで子どものように目を輝かせながら、興奮した様子で翼竜から身を乗り出し流れるように変わっていく景色を眺めていた。そんな男性とは打って変わって、少女はべたりと翼竜の背にしがみつき、この世の終わりといった表情で涙を浮かべていた。
「さいっこうだ! 運転手、もっと、もっとだ!もっと早く飛んでくれ!」
「ひいぃ……怖いですうぅ……! もっとゆっくり飛んでくださぁい……!」
運転手へ同時に言葉を返した2人の言葉もまた、180度違っていた。
「おいおい、情けないなあヒナナ。お前も竜の血を引いているんだろう?」
「いくら竜人が竜の血を引いていると言っても、それとこれとは話が別ですよ! ていうかなんでユキヒトさんは怖くないんですか!」
「だってこの竜からは、飛行中は何したって落ちないらしいからな。そうだろう? 運転手」
「へえそうですよ。飛行中はこのコが魔法で力場を発生させてくれますからねえ。だから、こんなことしても」
運転手のその言葉とともに手綱を3回上下に振ると、翼竜は速度を維持したまま急上昇を開始した。泣き叫ぶヒナナという少女の悲鳴とユキヒトと言う中年の歓喜の声がおり混ざる中、翼竜は背面から倒れるようにくるりと回転し、元の高度へ戻り再び飛行を続けた。
「と、こんなような宙返りをしても落ちることはねえんですよ」
ケタケタと笑いながら運転手は煙管を口に咥え直す。その後ろでユキヒトはもう一回リクエストの声を上げるが、本気で号泣し始めたヒナナがそれを止めた。
「さて、お2人さん。そろそろ目的地へ着きますぜ」
ようやくヒナナも落ち着いて景色を楽しめるようになった頃、運転手が2人へそう声をかけた。
「お、もうか、早いな」
「スピードが自慢ですからねぇ。ところでお2人さん、どうしてこんな辺鄙なところまでやって来たんです? ここら辺には観光になるものなんてありませんよ?」
「さあなぁ、理由なんて俺たちにも無いさ」
その答えに運転手は首を傾げる。けれども、自信に満ち溢れた男の顔とそれを信頼しているような少女の微笑みに、余計なことを言うのは無粋だと思い特に問いただすことはしなかった。
「まあいいですよ、ウチとしちゃあ金が貰えればどこへだって運びます」
そんな運転手の言葉に賛同するように、ワイバーンは唸り声を上げた。