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移民計画の準備を進めて4週間が経ち、マイアが都市レアルに移民達の説得を終え、移民の準備ができたと報告しに来た。俺は、市門までマイアを迎えに行き都市内部を案内する。
「ルーフィン様、都市レアルが、これ程強固な城壁に囲まれているとは思いもしませんでした」
「城壁は、まだまだ改築中で完全ではないけどな!だが都市レアルは、城壁内部に主要な農地も住居も有る!安全な都市だ」
都市レアルは丘の上に作られた都市で、その立地に甘え城壁は脆弱な物であったが、土魔法の落とし穴と 石壁の魔法を駆使して高くて頑丈な城壁を建設中である。
全兵士に土魔法を修得させたのは、簡易な 落とし穴(穴掘り)魔法と 石壁を使わせ都市の土木工事をさせる為であった。注目すべき点は、側塔の高さと広さで、この側塔にバリスタや、投石器、連弩が設置される予定で高い高低差を利用しての長距離攻撃が可能となる見込みである。現在、並行して都市周辺に堀を作る作業が行われている真っ最中だ。
マイアを神殿まで案内し、今後について話を進めることになった。移民する人数は、総勢約900人。内訳は、戦闘できる者は500人。非戦闘員は400人となると説明を受ける。仮設住宅は1500人の受け入れが出来る規模で建築しており、8割は完成している状態だ。食糧についても、あと一ヶ月でジャガイモの収穫期に入るので備蓄分の小麦を出せば問題ない。
俺は、マイアの瞳を見ながら、告げる。
「マイア殿、貴女には、執政長官の補佐官と兼務で近衛兵隊長になって欲しい」
クリフトが執政長官として政治のトップであり、俺の直属の兵となるのが近衛兵である。マイアには、政治的な力も軍事的な力も与えたと移民達に伝え、安心して都市レアルに馴染んでもらうことを優先したいとマイアに補足した。
「承知致しました。貴方様の剣と成り、神レアルに忠誠を誓います」
マイアとクリフトで移民についての調整が行われ、各集落の長を筆頭にして戸籍を発行し市民権を与えることになった。各集落の長には、移民名簿を作ってもらい、入場する際に確認することも伝えてもらう。多民族が集まることにより、風土や風習が異なることも理解して、都市レアルの基本的なルールを守ることを約束させてから市民権を発行することにし、重い罪を犯した場合は、死罪または、永久的に市民権の剥奪と強制労働などの刑罰も有ることを記した、条約書をマイアに渡す。
今日はマイアを歓迎して晩餐会を開くと伝えたが、マイアは、少しでも早く、ここに皆を連れて来たいと言い、条約書を各集落に配り説明してから、此方に移民すると言い、帰路についた。
俺は、市門までマイアを見送り、マイアに俺が製作した長剣を渡した。
鋼のブロードソード
攻撃力 272ー306
耐久力 1160
鋼鉄製鍛造品
形状 両刃
刃渡り 80cm
ルーフィン製作品
マイアは、受け取ったブロードソードを見て、この剣が、業物であることに気づく。
「これは…こんなに高価な剣は頂けません!」
俺は、にこやかに笑いマイアに告げる。
「俺の剣になるんだろ?その為には、優れた武器も必要になるはずだ。それも俺の自作だから、素材分の対価しかかかってないぞ!」
マイアは、これを自作?と驚きながら、深々と頭を下げ都市レアルを後にした。
マイアが去った後、先程から痛い視線を受けっ放しになっているルーフィンです。何故こうなったかといえば、俺が悪いんです。ハイ。
「アリアさん。。アリアさんにも俺の作る武器を進呈したいのだけど何が良いかな〜。」
目を真っ赤にしたアリアは、ふぐうと唸りながら、俺を見て震えている。アリアは、俺に対し剣と成り、盾に成ると言っていた。常に側に付き、俺を補佐する立場に居るアリアは、俺が製作した剣をマイアに渡し、俺の剣になるんだろう?の発言に涙腺が決壊してしまった。ハイ。全て俺が悪いんです。
このままでは、クリフトに二人共、御指導を受けることになってしまう。俺は、アリアの手を掴み、鍛冶の作業場に向かった。
アリアを伴い作業場に入り、俺は、アリアの頬を摘まむ。
「るーふぃんはま、なにほなはるのでふ」(ルーフィン様、何をなさるのです)
「アリア!お前に短剣を作ろうと思ってる。手の大きさを確認させてくれ」
アリアに複数の短剣を持たせ、手に馴染む握りを選ばせる。形状を確認し、俺は製作に取り掛かった。今回アリアには、二本の獲物を作り渡そうと考えた。近接で相手の斬撃を受け流すことが出来る様に肉厚なグラディウスと、鎧の隙間を狙った刺突や狩での剥ぎ取り用として活用できるダーク、俺は全身全霊をかけて武器の製作に挑む。
アリアが俺の鬼気迫る製作を見て申し訳なさそうにしていた。
「アリア!最高の物を、お前に渡すから待っていてくれ」
アリアは、泣きそうになりながらコクリと頷き俺の作業を見守り、作業場には、鉄を叩く音だけが響き渡っていた。
風車の動力を使った大槌や研磨は画期的で作業効率が飛躍的に上がり、徹夜で作業した甲斐もあり、明け方には、二本とも完成させることができた。
鋼のグラディウス
攻撃力 112ー152
耐久力 1580
鋼鉄製鍛造品
形状 両刃
刃渡り 45cm
ルーフィン製作
アリア専用で製作し、握りも刃渡りもアリアに合わせて作った逸品
鋼のダーク
攻撃力 102ー132
耐久力 1080
鋼鉄製鍛造品
形状 両刃
刃渡り 30cm
ルーフィン製作
アリア専用で製作したグラディウスと対となる刺突用のナイフ
俺は完成したグラディウスとダークをアリアに渡す。
「鞘は後で、きちんとした物を用意するから、取り敢えず見て欲しい。アリア専用で作った剣だ!」
アリアは、二本の剣を手にし感動して泣きじゃくっている。
「俺の剣と成り盾と成る者より、先にマイアに剣を渡してすまなかった。言い訳になるが、この剣は、アリア専用で作った物だ!この剣を使って俺の補佐を今後とも頼む」
アリアは、瞳を大きく開き、グラディウスを天に掲げて宣誓する。
「身命に誓い、いかなる時もルーフィン様の剣と成り盾と成ります!」
二人は、その後、神殿に戻り泥の様に眠り、不審に思ったクリフトに話が漏れ結果的にクリフトから御指導を受けることになったのは言うまでもない。