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小姓 1

  




 うちはとんでもなく貧乏だった。三年前に船乗りだった父さんが事故で腕と足を一本ずつなくして帰ってきてから、母さんが働いて家族を養わなきゃいけないというのに、子供は僕の下に三人もいる。僕が学校帰りに港湾事務所の使いっぱしりや食堂の皿洗いで稼ぐ金額はたかが知れていて、明日の食事はどうにかなっても十日後に食べるものがあるかどうかはわからないような暮らしだった。


 だから、上級学校への入学許可証は、僕や僕の家族にとって、不幸の手紙も同然だった。


 だって、やっと学校が終わって僕も一日働ける年になったというのに、学校に行けば働く時間がなくなる。そのうえ、奨学生は学費を払う必要がないとはいえ、細々としたお金もかかるし、勉強が難しくなるから、今までみたいに課題を学校で終わらせて、放課後ずっと働くというわけにもいかなくなる。

 しかも、奨学生枠での入学許可証は強制も同然で、拒否することは許されなかった。

 

 ほかの都市でどうだかは知らないが、少なくともこの自治都市ラーヴェでは、農産物の収穫が無く、交易からでる利益で自治権を買っているこの都市では、優秀な人材を育てる上級学校への、一般入学ならともかく奨学生の入学は義務だ。

 断れば、この都市で暮らしにくくなる。


 入学試験さえ受けなければ関係ないと思っていたのに、まさか、普段の成績も考慮されるとは思わなかった。

 



 ともかく、それで母さんも僕も顔を青くしているところに、幼なじみのベルクの父親、鍛冶師の親方が、城で小姓を募集している、という知らせを持ってきてくれた。

 やっと僕が働ける年になったからと、あちこちいい働き口がないか調べてくれていたらしい。


「小姓といっても小間使いみたいなもんらしくて、それでもお城のお小姓といえば名誉だろ? 今まではせっせと旦那様方がご子息を送っていたらしいんだが、仕事がきついとかでご子息方は続かなかったんだと。なに、いくら仕事がきついとはいっても港で荷下ろしするよりよっぽど楽だろう。キナは頭も良いし、いい機会だと思ったんだがなぁ」


 親方は残念そうに呟いた。



 邪魔したな、と親方が帰った後、父さんは城の小姓に応募してみればいい、と言った。


「大勢希望者が来るだろうから受かることは無いだろうが、お城でなにか働き口を見つけられるかもしれない。お城で働くことが決まったとなれば、いくら旦那様方だろうと無理に上級学校へ行かせようとはしないだろう。曲がりなりにも領主様に雇われるんだからな。たかがおまえ一人のために波風立てるわけもない。でもなぁキナ、おまえはそれでいいのか?」


 父さんはロバのようにやさしい目で僕を見た。





 勉強を、続けられるのなら続けたいに決まっている。外国語や高等数学、天文学。上級学校で学べることは広範で、本人の希望や適性でいくらでも深い知識を得ることができる。僕は、まだまだ学びたかった。


 でもそれは、母にもっともっと苦労をしろと強いることだ。弟妹に我慢をさせ続けるということだから。



「お城に行ってみるよ」



 まさか、あるだけの置物とかわらないだの王に疎まれて飛ばされてきた王族の汚点だのと芳しくない噂だらけの殿下が、

「まあ子供は学ぶべきだろう。せっかく機会が舞い込んできたというのにもったいない」

とおっしゃってくださって、上級学校に通いながら働けるようになるとは、思わなかった。

 


 殿下は僕の願いを叶えてくれた恩人だ。

 だから。





「キナ! キナ、魔女だ! 魔女が出たもう俺は終わりだ呪い殺される!」


 と叫びながら城の裏手から転びそうになりながら走ってこようと。


「待ちなさいよアンタ! 人魚だって言ってるでしょうが! だいたいそんな簡単に呪いなんて掛けるかっ、魔女なめんな!」


 その後ろからきれいな女性が追いかけてこようと。

 

 

「キナキナキナ! 魔女を地下牢」

「畏まりましたカエデ様!」


 僕はこの方の為にできることをなんでもする。さしあたってはこの、身元不詳の怪しい女性を地下牢に放り込む。







 ところで、この城に地下牢なんてあるんですか? 



  

   

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