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永久の想い  作者: 兎羽
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つながらない記憶

「秀前、覚悟ォ〜っ!!」


春の午後――…。


桜の花びらが舞い散る桜の木の下、秀前は仰向けに青空を見ながら寝そべっていた。

そこへ、忍び足で近付いた幼い少年は、秀前の足元に立つと、叫び、なんの躊躇いもなく、真剣をふりおろした。

体の小さい少年には似つかわないその真剣は、少年と同じくらいの刀身でよろめきながらも、秀前に的を絞り刃が牙をむく。


ザン、と地にはえていた芝生が空を舞い踊った。


刃が秀前に当たる、と思った途端、少年は秀前を見失っていた。


確かに目の前にいたハズなのに…。


「クソッ!!どこに……っっ!!」


突如、空気が変わった。


先ほどまでの、春の香りをただ寄せていた穏やかな空気が、一瞬で氷ついた。

と共に、少年は背中に嫌な汗をかいていた。


首筋にあたる、ヒヤリとした生々しい感触。


後ろに誰かいる。とは分かっても、少年の中にある本能が振り向いてはいけない、と危険信号を送っていた。


その原因は。



――凄まじい程の殺気。



「っっ……――」


首筋にあたる感触が、少しずつ強くなっていく。

少年からは血の気がひいた。


「……あれ?司魁?」


我にかえった秀前の、なんとも穏やかな声に、司魁と呼ばれた少年も、自我を取り戻した。


いつの間にか、殺気は消えていた。


氷ついた空気が幻だったかのように、春の香りが優雅に漂っていた。

首筋にあたる感触も、なくなっていた。

見れば、それであろう小刀が秀前の懐におさめられていた。


「お前だったのか〜。寝ているときは敵に敏感だから、触っちゃダメだぞ?」


そういうのは、先にいってくれよっ!!………生きてて良かった…。


ケロリ、と何事もなかったかのように言い放つ秀前に、司魁は負けじと言い返した。


「ていうかさ〜、もう少し手加減とかしたらどうなの?子供相手に大人げないよ」


秀前に目を向ければ、先程寝転んでいたせいか、アチコチに桜の花びらがついていた。

司魁は呆れてため息をつく。


「いや、してるにはしてるんだぞ?これ以上、手を抜くと俺が死ぬからな」


冗談なのか、本気なのか…。

おどけたように笑う秀前からは見抜けなかった。


「ふ〜ん………」


司魁はニヤリ、と笑った。


「え゛…」


秀前は嫌な予感を察知し、司魁から一歩一歩と遠ざかる。


「あれ?なんで逃げるの?」


その意地の悪そうな笑みが、アイツと重なって見える。アイツがこの表情をした時は、絶対に何かを企んでいる時に見せる表情だった。

「な、何を…」


企んでいる?と、用心深くまた一歩と下がる。

その時、司魁の口端がつりあがった。


「しゅ〜ちゃんっ!!!!」


「のわぁっ!!!」


背中に鈍い衝撃。


体にかかる、いつもより重たい重量感。


耳の鼓膜がやぶれてしまいそうなほど大きな声が、秀前の名前を可愛らしく呼んだ。


「く、空也…」


聞き慣れた声に、ハハ、と苦笑いを漏らす秀前。

今にも心臓が胸を突き破って出てきそうな勢いで、やかましく音を早めている。


それも徐々におさまり、背中にしがみついているであろう空也に振り返った。


「っ!?」


首を後ろに回した瞬間、また胸の鼓動が早くなった。

鼻と鼻がくっついてしまいそうなほど、近くにある空也の顔。

目が合ったかと思うと、空也はニッ、と無邪気な笑顔を見せた。


「…っ」


その瞬間、秀前は顔が爆発しそうな程、熱く感じいた。

いや、実際に熱いのだろう。

思わず腰を抜かして、力なくして地に尻をついた。


「お〜!!やったな、兄上♪」


「やったな、司魁♪」


なにが楽しいのか、目の前で笑いあっている兄弟を見て、秀前はため息をついた。


秀前の視線に気が付いた二人は、ほぼ同時に秀前を見て、そして再び顔を見合わせて、秀前に2本指をつきだした。


「「先駆けの秀前、破れたり!!」」


見事声が重なった

兄弟は、顔も中々そっくりで、双子に見えなくもないほどだ。


秀前は倒れたまま、肩を叩きあう兄弟を見上げた。



…アホか。



そう思わずにはいられなかった。









「――――ちゃ…」


ん?

ねむ〜…。


「ヒデちゃん」


誰かに呼ばれて、うっすらと目を開けた。

白い天井とまぶしいくらいの光が視界いっぱいに広がる。

そして横には、学校内でも美人保健医と称される先生がいた。


「早く起きないと、チューしちゃうよ〜?」


「……生徒襲うと、クビがとびますよ」


「あら、起きたの…」


つまんな〜い、と口を尖らせて、残念そうな表情になった。


「起きろ…って言ったの誰ですか」


長いウェーブのかかった髪を、かきあげるようにして、目線を流してくる。

その様子を、無感動に眺めていると、先生は眉をよせて首をかしげた。


「おっかしいな〜?ドキッ、ってしなかった?」


「あんたは馬鹿ですか!!」


秀秋はそう言うと、保健室から脱出した。


学校につくなり、保健室に誰もいないことを確認して、ベッドにもぐりこんでいたのだ。

どれくらい寝たのかは分からないが、とりあえず長いことは分かった。


窓の外を見てみると、部活動生が校庭で励んでいたからだ。


「司魁…かぁ」


懐かしい夢を見たもんだ。

あれは秀前の記憶ではなく、俺の記憶だ。

以前に一度、まったく同じヤツを見たことがあったからだ。


確かに秀前の夢は毎日見ていた。

俺自身が成長していくに伴って、夢の中の秀前も成長していく。


今朝の夢を最期に、もう見ることはないだろうと思っていた。


秀前は死んだ。


つまり、成長も止まり、俺は夢を見なくなる。


司魁もすでに…。


「…あれ?」


秀秋は首をひねった。


そういえば、司魁はあまり夢にでてきてないな。

同じ屋敷に住んでいたハズなのに…。

最後に見たのは…いつだっけ?


「司魁って、死んだのか?」


つながらない記憶が、秀秋の頭をぐるぐると巡っていた。


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