忘れた記憶
「死んだあとの…記憶?」
正直、なんじゃそらって感じだった。死んだのなら思い出も記憶もないだろう。それなのに死んだ後?
あのあと…秀前が死んだあと、あの時代はどうなったのだろうか。
眉間に皺を寄せて、秀秋は悶々と考え込む。そんな秀秋を見てコウは苦笑い混じりに言った。
「俺にもよく分かんないけど、それほど空也の思いが強かったんじゃないかな。ほら…空也って…その、秀前とアレだったし」
「アレ?」
「いや、お前は知らなくていいぞ。空」
「なんでだよっ!!隠しごとなんてずるいぞっ」
わめく空は放っておき、秀秋はふと秀前の夢を思い出した。
そういえば秀前は俺と変わる直前に司魁が本当の犯人だとかなんとか言っていた。どうすればその結論に行き着くのか、それが全然分からない。司魁の生まれ変わりは司で、でも当然司に記憶はないわけで。それを確かめるすべもない。
本当に…本当に司魁が犯人だったとするならば秀前は一体どうする気なんだろう。司魁は空の弟で、秀前ともあんなに仲が良かった。それなのに、恨むことなんてできるのだろうか。
分からない、と一度首を振る。
昔のヤツが何を考えているかなんて現代に生きる俺には分からない。でも、もしも秀前が本気で司に復讐をしようとしているのならば、俺は止めなくてはならない。
「秀秋、おーい、ヒデ?大丈夫か?」
「っ…、あぁ。ちょっと考え事」
「考え事ね…。とりあえずそれは後にして空の話を聞こうぜ。どんな夢だったのか、ちょっと気になる」
「いい提案だが、空に聞いてもあまり理解できないと思うぞ?コイツ馬鹿だから」
「馬鹿ってなんだよ!!夢の話するだけだろっ、楽勝だって!!」
「お前…長年兄弟やってきて俺はお前のする説明をかつて一度たりともちゃんと理解できた覚えはないぞ」
空に言語力は皆無だ。
日本人なのだから英語は必要ないとテスト前に豪語しているわりには、日本語だってまともに出来ていない。空の言う言葉をちゃんと理解できるのは空と秀秋の片割れ、司だけだった。
「じゃ、はなしてみろ」
「なんかフワフワ浮いてて、知らねぇ城にいた」
「ほらな」
「まだ終わってねぇだろ!!」
出だしの時点でわけわかんねぇっつーの…。
「城で、火が燃えてて、けらい?みたいなヤツが殿様…じゃなかったみたいだけど誰かを逃がそうとして、でもそいつがけらいだけ残して、けらいが泣いてた」
「…終りか」
「うん」
「…俺だってお前の片割れだ。なんとなくで理解してやるよ」
「…い、意味が分からない」
「なにをーっ!?ちゃんと話しただろっ」
呆然としているコウに説明をするべく、なんとなくで理解した秀秋は身振り手振りで説明しはじめた。
「つまりは…えーと、空也は霊体になったとして、その体でどこかの城に向かったんだよ。火が燃えてるってことはきっと相手の…つまりはお前の味方の城だ。そこで家来と誰かが逃げようとしていたのに、結局その誰かは城に残り…死んだ。きっと家来だけは助けようとそいつだけ逃がしたんだろ」
「けらいはそいつのこと司魁様って呼んでたぞ」
「そう司魁が…って、司魁っ!?」
「お、おう…」
突然大声を上げた秀秋にビビり、空の体はビクリとはねた。思わぬ名前に秀秋は頭をかかえる。
「あぁ、でもそうか。殿様…ね。コウの上司は司魁だったから当然か」
ということは、司魁は自ら…命を断ったというわけか。負けたから?兄を殺してしまったから?潔く死を受け入れた?
昔は、負ければ、規則に違反すれば自害が当たり前だったということは知識として知っていたにも関わらず、自分の前世に関係のあるものがそれを行っていたかと思うと、ズキリと秀秋は心を痛める。
司魁は、一体どんな思いで死んだのか。
なぜか痛む心に、秀秋の眉は自然と皺をつくる。
「…秀秋、思い込むなよ。なにもお前がわるいわけじゃないんだから」
「そうだぞヒデ!!だいたい実の兄に歯向かうなんてとんでもないヤツだな」
「……司魁はなんで、秀前と空也の敵になったんだろうな」
そうぽつりと漏らした言葉に、答えるものはいなかった。
分からないのだ、それだけがどうしても。遠い昔、一体司魁は何を思って実の兄の敵に回ったのか。
あんなに仲が良かったことを知っている秀秋なら、なおさらのことだった。