死のビジョン
「はい、では質問しま〜す」
空は楽しそうな声で言った。
そこは昨日と同じ秀秋の家のリビング。俺たち3人はいつもの定位置に座り、お茶をすすりながら正座。
「昨日は誰とどこに行きましたか?」
「昨日、俺とお前ら二人が部屋にいて、トモとイツキを呼び出してボーリングに行った」
「ふむ…」
空はなるほど、と顔をしかめうなずく。そして次の質問。
「昨日俺に何を言いましたか?」
「チビ、ミジンコ、器が小さい…エトセトラ」
「反省してますか?」
「俺が言ったわけではないのでしてません」
最もな意見だが、そのセリフは空に笑みを浮かばせた。
「デスマッチしたいですか?」
「してます!!!」
手をビシッとあげてハッキリキッパリ断言した秀秋は少し笑えたが、俺はそれを押し殺す。でなきゃ、火の粉がこちらにまで飛んでくることだろう。
「よろしい」
今度は満足げに頷く空。それを見て、秀秋は心底安堵した様子だった。
「んじゃ、全てを語ってもらおうかな」
「かくかくしかじか」
「そんなん通用するのは漫画の中だけだよ!!」
確かに。
それで通じあえたらどれだけ楽なんだろうか。
とりあえず、俺も秀秋に協力して全てを空に説明したのだった。
――――…。
「なるほどねぇ」
話せることは全てを話し、俺と秀秋は溜め息をついた。過去のことを説明すんのって簡単なことではないと実感した。
でも、今の話だけで納得してしまう空はすごいと正直思う。
ていうか、なるほどで納得出来るものなのか?
俺には絶対出来ねぇ…。
「確かに」
「!?」
「信じろと言われて信じられるもんじゃないけど、実際に見ちゃったからねぇ」
心を詠んだように話す空。それを俺と秀秋は静かに見守る。
でも、みんな考えていることは同じだった。
(((面倒くせぇ…)))
「とりあえず…なんで今回に限って記憶があるかが一番気になるな」
秀秋は正座していた足を崩すと、ベッドに座りなおす。そして足を組み、考えこむように腕を組んだ。
これは考え事をするときの秀秋のクセのようなものだ。幼い頃からの夢のせいか、現実世界でもすっかり定着してしまったのだ。
「そうだね…」
コウは小さく呟き、秀秋同様考え込む。しかし、空だけは考えているというよりも、何かを思い出そうと眉間に皺を寄せていた。
しばらくその表情は続き、そして突然何かを思い出したのか、バッと顔を上げる。
「今日、空也ってヤツの命日なんじゃないの?そんで秀前の邪悪なオーラが消えたとか!!」
自信満々、といった感じの空を、秀秋は容赦なく切り捨てた。
「空也の命日ならとっくに過ぎたよ。秀前より先に死んだんだぞ?」
日付としては、秀前も空也も変わらないが、どちらにしろ命日はとっくに過ぎていた。
あの夢を見てから…いったい何日がたっただろうと秀秋は指折りで数えてみる。すると、意外な言葉が空から発せられた。
「それって…俺と司が鍋パーティーした日じゃない?」
「そうだけど……ってなんで知ってんだよ!?」
秀秋は驚いてついつい大きな声で叫んでしまう。コウも驚いたらしく、その視線はじっと空を捕えていた。
「やっぱり…」
空の意味深な言葉に、秀秋は不安そうな表情になる。まさか…空にも記憶があるのか?
それだけは御免だった。
なにが悲しくて実の弟と、過去にいちゃついていた記憶を共有しなければならないのだ。
「俺…その日に夢見たんだよ。なんか、夢のくせに細かいし、変だな〜とは思ってたんだけど…」
「…………」
空也はあのとき……死んで、なかった…?
ふ、と浮かんだその考えを、秀秋は頭を振ってそれを消し去る。
死んでなかったなんて、有り得ない。あの時、確かに空也は死んでいた。
冷たくなっていた。
殺されていた。
それは、背中から深々と突き刺さった槍が物語っていたのだ。
小さい体はとても軽くて、大怪我していた秀前の力でさえ支えきれた。
「死んで…なかっ…た?」
「いや、死んでたよ」
否定したその声は、コウのものだった。
「ねぇ、空。その夢、おかしかったんでしょ?まるで、自分がテレビでも見てるような感覚じゃなかった?」
「…うん、そんな感じ」
「やっぱりね」
コウは何かを知っているんだろうか?
遠回し的なそんなセリフに、俺は首を傾げるばかりだ。
「それはね、空也が生きているときの記憶じゃない」
――死んだ後の、記憶だよ…。
メインを仕上げるためしばらく更新おやすみですm(__)m