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永久の想い  作者: 兎羽
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目覚め

目が覚めると頬が濡れていた。背中は寝汗のせいか、微かに重く感じる。

ハッ、として無理矢理に夢から引きずり出されたような妙な感覚。冷たい何かが背筋を這うような感じが気持悪い。


毎日のように見ているあの夢はやっぱり自分の前世なんだろうか、と思うこともあるが、そんな非科学的なことを納得してしまうほど、俺はロマンチストではない。

しかし、夢で見る背景や景色を見たことがあると思うのは確かなことだった。


現世の俺の名前が秀秋。

そして前世での名前が秀前?


「ハッ、出来すぎだろ…」


そんなことを思いながら、秀秋はベッドから起き上がると、気持悪く背中に張り付いていたシャツを脱ぎ捨てた。

自室を出て、寝癖を適当に手櫛でなおしながら洗面所へと向かった。


秀秋の朝は規則的だ。


シャワーを浴びて、まだ眠気の覚めない頭を叩き起こす。そして制服に着替えてリビングへと向かった。

一人暮らしなので、朝食も全て自己管理だ。

キッチンに立ち、ブラックではないコーヒーを片手に適当に朝食をつくっていく。

朝食を食べ終われば、テレビを見ながら身支度をすましてソファでくつろぐ。

朝には余裕があるので、朝のニュースが終わるとともに、秀秋は席を立った。

そして、彼の不規則的な生活はここから始まる。


全ての施錠を確認し、家を出る。

ガチャリ、と鈍い金属音のような音とともに、頭に響くような声が秀秋の耳を筒抜けた。


「ヒデにい!!!!!!」


まさに、近所迷惑なんてミジンコほどにも考えていないような音量だ。

キーン、とまだ名残を残す耳を塞ぎながら秀秋は辺りを見渡した。

しかし、声主と思われる人物は見当たらなくしばらく探していると、視界の右端の方にピョンピョンと揺れている黒い物体を確認した。少しだけ視線をずらしてみると、秀秋の口からは

「やっぱり…」という呟きがもれた。


「空也…じゃねぇ。空…」


そこにいたのは、まだ直しきれていない黒髪をピョンピョンと立たせている小柄な少年だった。

嫌そうな表情で空という少年を見ていると、少し頬を膨らませて

「なんだよー」と不満そうな声が少年の口から発せられた。


「朝からこんなに可愛い弟様の顔が見られるなんて、ヒデは幸せものなんだぞ〜?」


…こういう意地の悪そうな笑い方は空也にそっくり…というより、空也そのものだ。

整った小さい顔が、緩むようにほころぶ。

たしか秀前はこの笑みを見ただけで幸せそうに微笑んでいたっけ?

しかし、過去は過去。今は今。未来は未来!!ということで、俺は幸せな気分になるどころか、朝っぱらから空の幸せそうな笑みを見て不機嫌になった。


ゴツッ!!


「って〜〜〜〜…!!何すんだよ!!」


涙目になりながら、訴えかけてくる空に対して秀前は開き直ったかのように、言い返した。


「うるさい!!お前があまりにも空也の可愛さに劣るから」


「はぁ?ワケわかんねぇ。空也って誰だよ…」


ブツブツと文句を言いながら、空は秀秋の前を歩いた。


(かわいくねー…)


秀前も気の毒だ。

来世で運命(?)的に空也(の生まれ変わり)と出会えたというのに、その空也は男で(元も男だが)さらに兄弟なのだ(つまり手出したら犯罪)。

せめて女の子だったら可愛かっただろうに…(空也女顔だから)。

とりあえず秀前が一番ついていなかったのは、転生したのが俺だってことだな。残念ながら俺は秀前みたいに純粋でもなければ、ホモでもないし、こんな可愛くない弟に手を出す気もさらさらない。


「何だよ…」


視線に気付いた空が、まだ根に持っているのか不機嫌気味に振り返った。その仕草は確かに男でも可愛いと思ってしまうような可愛さだ。


「ジロジロ見んなよなー」


「馬鹿が。自惚れんな」


…やっぱムカつく。




こんなたわいもない互いの悪口を言い合っているが、なんだかんだと仲が良い。そうでもなければ、兄弟仲良く登校なんて有り得ないはずだった。

こんな憎らしいほど可愛くなくても、やはり弟なのだ。


「ヒデちゃん!!空!!」


「「?」」


突如、後ろから名前を呼ばれて、ほぼ二人同時に振り返った。

そこには息をきらせながら走ってくる制服姿の少女がいた。


「もうっ、置いてくなんて酷いよ〜…」


「司が寝坊するからだろ〜?」


「ぅ…そーだけどー…」


そんな空と司のやりとりを傍観者気取りで見ていたが、途中時計に目をやり、先を促した。


「おはよう、ヒデちゃん」


「はよ…」


真正面きって挨拶されるとなんだか照れてしまうのは俺だけなんだろうか?

照れる、のとは違う気がするが、照れ臭い。

属にいう俺は不良だった。

挨拶されるなんて慣れてないし、ましてや、するなんて、仲の良いアイツラぐらいだ。


「ハッ、残念だったな秀前。俺は今時ラブコメなんて期待してねぇんだよ。ま、運があったら来世で女に生まれ変わって、空也とラブライフを送るんだな。だってどう見たってオマエが受けn!!!?」


…頭に感じる鈍い痛み。

じわりじわりと広がって、俺の怒りメーターを徐々にふやしていく。

くる〜り、と後ろを振り返ると、なにやら鞄を掲げた空がいた。


「そ〜ら〜?」


「あ…いや、なんかね?独り言ブツブツ呟きはじめて、さらに勘だけど、ヤバイ発言しそうないきおいだったから、ね?とりあえず…」


殴っておきました、てか?ニッコリ微笑む空に、怒る気力もなくして、仕方なく再び歩き出した。


ハタからみると、俺たちってどう見えてんだろ?

仲のいい友達?

とりあえず、兄弟には見えてはないだろう。


秀秋、空、司の3人は、古賀の姓をもつ3つ子だった。

しかも、本人は気付いてないが、空はかなりのブラコン&シスコン。


「なぁ、ヒデにぃ。今日さ、母さんたち仕事でいないんだよ」


……だから?


そこで率直に聞き返すほど、俺は馬鹿じゃない。

空が実家の話を持ちかけたということは、必ずと言っていぃほど、俺に火の粉がふりかかる合図みたいなモノだった。

きっと、『だから泊まっていぃ?』的な言葉が続くハズだ。


「だから〜…今日泊まっていぃ?」


「断る!!!」


秀明は、あらかじめ用意していたセリフを容赦なくいい放った。


「なんでだよ〜ケチ!!」


「なんとでも言えばいぃ。母さんたちがいなくても家事ぐらいこなせるくせに甘えやがって。俺がバイトして独り暮らしし始めたのは、自由が欲しかったの!!なのに、お前らがいると、自由も糞もねぇんだよ」


秀秋は、言うだけ言うと、校舎へ消えていった。


その後ろ姿を見つめていたのは、通称【ブラコン】兄弟。

何かを企んでいるような黒い笑みで、そこにたたずんでいた。



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