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永久の想い  作者: 兎羽
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偽物と本物

ピンポーン...

かれこれ、5回目のインターホンがなる。しかし、人が出てくる気配は全くない。


「あれ〜?いないのかなぁ…」


仕方がない、と司はポケットをあさくり、秀秋にこっそりと造ってあった合鍵を取り出した。鍵をあけて、部屋に入る。

その一連の行動に、遠慮などというものは一切存在してなかった。


寝室を覗いてみるものの、ベッドはも抜けのからで、体温の余韻すら感じない…ということは、いくらか前に起きて出かけたのだろうと、司は推測する。


「ちぇ、寝顔の一つでも撮って一儲けしたかったのにな〜」


首に常備していたデジタルカメラを鞄の中にいれて、ベッドの横に配置してある勉強机へと目をおとした。

長年と使っている木製のその机には、幼い頃に3人でした文字とも絵とも分からないような落書きが未だに残っている。

いい加減に消せばいいのに…と思いながらも、なつかしそうに司はそれを指でなぞった。

その頃の情景が頭に浮かび、思わず笑みが溢れる。


――ふと、壁側の机の端の落書きが目についた。



「く…?くう、や…かな?これ。あと、しゅラぜん?…あぁ、しゅうぜん…かな?」


妙に歪んだその文字は、落書きの中でも、唯一読めるものだった。


「くうやとしゅうぜん?」




「ヒデアキっ!!!」


バン!!と勢いよく開け放たれたドアから入ってきたのは、息を切らせた空だった。その大きな声は、一人部屋の小さな部屋にはよく響く。


空は、あまりの暇さに耐えきれなくなり、秀秋の部屋に遊びにきていた。

しかし、部屋には秀秋の姿は見当たらず、なぜか頭を抱えるように蹲っている司がいた。


「え…ちょ、司っ!!?」


慌てて空は司にかけより、司をベッドへと寝かせた。ベッドに沈んだ司は、その顔を歪ませて頭をおさえている。


「ぁ…空?ヒデちゃん、ね…出かけたみたい…」


「そんなことはいいって!!どうしたんだ?」


司の額に自分の額を合わせて、熱をみる。しかし熱はないらしく、大した体温は感じられなかった。


「ちょっ、とね…。頭痛と目眩が…。でも、もう平気だから」


そう言って起き上がろうとする司を、空は強制的に司を再び寝かせた。


「いいって!!寝てろよ!!」


空はそう言って司に毛布を乱暴に被せた。ボフン、と肩まで毛布をかけられた司はしぶしぶと空に従う。



「ん?なんだ、これ」


薬と水を持ってきた空は、木製の机をなぞる。

そこには歪んだ文字が書かれていた。


「きったねぇ字だなぁ、読めない…」


「あはは、そうだね。本当に…汚い字だなぁ…」


瞳を瞑ったまま、司は呟いた。


「………司?」


「ねぇ、空…」


呟いた司に、そらは少しだけ違和感を感じた。

しかし、それはすぐに司によって消される。


「それね…空也と秀前って読むんだぁ」


「くうや?しゅうぜん」


聞いたことない名前だなぁ…と空は首を捻った。

そんな風変わりな名前の知り合いはいないと踏んでいたせいか、たいして考え込むこともない。


そんな空を見て、司は天井に向かって手を伸ばした。そして、誰にも聞き取れないような小さな声で呟いた。


『ソラのなかには、兄上はいないんだね……』



その声はすぐに、窓からの迷い風にかき消されたのだった…。













「じゃ、ちょっくら飲み物買ってくるわ」


秀秋たちは、とあるゲームセンターへ来ていた。

遊びと言っても、これといったプランを立てていたわけでもなく、適当に面白そうなのを見つけたらそれをやるというのが3人の流儀だった。

そして今回も、その流儀に従い、面白そうなのを求めて街を歩いていると一樹がゲームセンターを見つけたのだ。そしてそれが4人の興味をさそったのだった。


2人で協力してプレイするものもあれば、対戦ゲームや個人でやるやつもある。4人は飽きることも知らず、ゲームセンター内を走り回っていた。

そして、トモヤvs一樹でホッケーゲームをしていた2人は意外にも熱中してしまい、ゲームが終わる頃には息を切らせて汗をたらしていた。

あまりの暑さに二人は飲み物を買いにいってしまい………秀秋は今に至る。



「……………」


「……………」


二人っきりという嫌な展開に、秀秋はコウから少し離れてイスに座っていた。しかし、その態度が気に入らないのかコウは不機嫌そうに顔を歪めていた。


そしてわざとらしく離れている秀秋に徐々に距離をつめていった。


「お前さぁ…」


距離をつめてくにつれて離れていく秀秋にコウは溜め息をつく。


「その露骨さ…どうにかなんないわけ?」


あぁ、やっぱり…と秀秋は思った。


コウはトモヤと一樹の前では猫を被っていたのだ。無邪気で素直な可愛らしい少年を演じていたヤツとは思えないほど、秀秋の前では性格が一転していた。


「はぁ…どーにもなりませんね……」


とりあえず言葉にできたのは、それだけだった。その言葉にコウは苦々しく舌うちをする。

そんなコウを横目に、秀秋は気になったことを述べてみた。


「何で…俺が秀前だと?」


その質問に、コウは目を丸くしていた。


「はぁ?お前、まんま秀前の顔じゃんか!!」


「あぁ、質問が悪かった。じゃなくて、何で記憶持ってんの?お前も夢…とか見たわけ?」


それを聞いたコウはワケが分からないとでも言うように、首を傾げた。


「夢?なんだそれ。記憶あるか…ってそりゃ、俺がコウだから」


それこそ秀秋には理解することができなかった。顔をしかめていると、コウは何かを察したようにニヤリと笑った。


「お前…もしかして偽物?」


「にせ…もの…?」


「お前の知ってるのってまさか、夢で秀前とかが出てきたりしたからか?」


「え?あ、あぁ…」


「なぁんだ〜…」


真実を述べられ、秀秋は曖昧に頷く。するとコウは何か落胆したような、そんな声を出した。


「なんだよ、偽物か…。つまんねぇ」


ニ セ モ ノ ……


「俺が偽物だったら、お前はなんだよ」


俺が偽物?

じゃぁ…本物ってなんだよ…。


秀秋は泣きそうになっていた。偽物だと言われて、それは自分自身の存在を否定されたような感覚に陥っていた。


「俺?俺は本物だよ」


トン、と自分の親指でコウは自信を指した。


「…本物って…なんだよ」


感情を抑え込む。そうしなければ、コウに手を出してしまうような恐れがあった。

握り締めた拳を震わせて、秀秋はじっとコウの言葉をまった。


「俺は初めから記憶がある。俺はコウ自身であって、自分自身の生まれ変わりなんだ」


秀秋は不安に押された。

コウの言葉は容赦なく、秀秋の心に突き刺さっていく。


「アンタは秀前の記憶を自分のものだと勘違いしているだけ。実際は過去を知ってるだけの他人」



――つまり、偽物なんだよ…。

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