上
遠い昔、この地球では明日地球が終わるだとか、人類滅亡だとか、そんなことがいつも何処かで囁かれていたらしい。
僕は思う。
その頃に僕が行けるのなら、そんな自己満足な妄想を全て壊してしまえるのに、と。
妄想癖者の生きていた時代は、まだ緑が溢れていて、動物たちとも人はどこかでまだ繋がっていた。
でも、僕の生きる世界はどうだ?
空気は淀んで、足元には誰かの死体が転がる。
いつも自分以外の人間に怯えながら銃刀を抱きかかえて過ごす毎日。
もう誰も陰謀論や滅亡論なんて口に出さない。
ほとんどの人間が『平和』という単語の意味を知らずに、いや、忘れて生きている。
昔は100億人以上いたという人口は、ここ数年で急激に減少、4分の1以下となった。
無縁社会という単語も無く、最早国も存在しない。
個人一人ひとりが国同様、敵対し合っている。
既にこの星は死んだも同然だ。
始まりは、実にくだらないことだった。
人口増加による食糧難。
力のない国家は大きな国家に吸収され、何処に行っても食料は必要最低限というギリギリのバランスを保っていた。
だが、当然、支配する側とされる側には格差が発生してしまった。
支配された国々は、だんだんと反感を募らせある時「正義」という名の下立ちあがった。
2●●●年 明朝 ●●連合軍に対して反乱軍が襲撃
そんなニュースが遠く離れた僕の島にも伝わって来た。
それでも、違う世界の話と考えていて、三日もすれば頭の中にはまったく残っていなかった。
僕以外の人も、そんな小さなことが自分たちに影響を与えるなどとは思っていなかったのだ。
しかし、そのニュースが放送された1週間後、いとも容易く影響を僕らに与え始めた。
いつもどおりの学校の朝。
皆、それぞれで他愛無い話をしたり、ふざけあっていた。
そんな時、普段はいつも笑顔の担任が、いつになく険しい顔つきで教室に入って来た。
黒い軍服のようなものに身を包み、片手に銃刀をかかえて。
教室はどよめいた。
女子の中には、小さく悲鳴を上げた奴もいた。
担任はそんなことには目もくれず、生徒全員に銃剣を一本渡していく。
渡された銃剣は、ずっしりとしていて、どう見ても本物だ。
全員に配り終えると、担任は徐に口を開いた。
一週間前に起きた襲撃により欧米で戦争が勃発し、
現在この日本国にもその動きが近づいているということ。
よって、今日から国民は武装し、我が身は自分で守るようすること。
そんなことを担任は言っていた。
でも、僕には想像が出来なかった。
この平凡な毎日が、ある日突然、昔聞いた戦時中のようになってしまうことがあるなんて。
それに、人を殺すことなんて普通の人間には出来ないだろうと思った。
でも、そんなに世界は優しくなかった。
ある日の夜、一発の銃声が街に響いたのだ。
たくさんの銃声が後に続く。
街が徐々に騒がしくなる。
撃たれたのは、隣町の人間だった。
知らない間に町内が一つの組織となり、組織によっても格差が出来ていたのだ。
隣町は、僕たちの街とは真逆と言っていいほどの貧困ぶりだったらしい。
彼らは、僕たちの街の食料を求めて攻め込んできたのだ。
友人とその場所にいくと、
道は真っ赤にそまり、最早”物”と化した大量の人間があった。
僕たちは、ずっと黙っていた。
帰り道、大人たちが集まって宴会を開いているのを見つけた。
町長が、酒を片手に叫ぶ。
―――この町の未来のために!この町の人々のために!正義となって闘おう!!!―――
宴会の中には、僕らの両親たちも居た。
ふと、友人が掠れる声で
「正義の名を借りた人殺しじゃないか…」
と呟く。
僕は、聞こえなかったふりをした。
最初は、たまにしかなかった襲撃も、日を追うごとに多くなっていく。
いつのまにか、僕たち学生も動員されることになっていた。
ある日襲撃してきたのは、小さな町。
お世辞にも良いとは言えない武器をもって攻め込んでくる。
それを、僕たちの街の大人は見境なく打っていく。
耳に入ってくる銃声の音も悲痛な叫び声も聞きたくなく無くなって、僕はそっとその場を離れた。
町の外れにある小さな広場、僕はそこを目指して歩く。
ふと、気付くとどこからか歌が聞こえてきているのに気づいた。
音を頼りに探すと、それは広場にいた。
白いワンピースを着た少女。
ちいさく聞こえる銃声の音と真逆の存在で、彼女がスカートを揺らしながら歌うその姿は、
天使が舞い降りたのではないか、と思う程美しかった。
ちょっと声をかけてみようか、そんな風に思って出て行こうとするとき、
肩をぐっと掴まれた。
しまった、敵の町の人間がこんなところまできたのだろうか。
もうおしまいだ、そう思ったが、掴んできた男は低い声でこうつぶやいた。
「なにをぼさっとしている。あいつは敵だ。早く撃て、刺し殺せ」
と。
何を言っているのか分からなかった。
彼女にはなんの罪もない。
戦争も望んでいない子なのに。
従わない僕を暫く男は見ていたが、舌打ちをすると広場の中央へと進みだした。
大きな銃剣を片手に。
僕は慌てて男を追いかけ、止めようとした。
目を開けているのに彼女は未だ気付かない。
彼女に向かって何度も叫んだが、それにも気付かない。
彼女は音も無い暗闇に一人歌っていた。
男が銃剣を振りかざす。
やめてくれ…!!!そう思った時、天使の歌声はもう聞こえなかった。
頬に生ぬるい飛沫がかかっていた。
足が震えている。
男は、僕を睨みつけると突き飛ばして、どこかに行ってしまった。
家へ戻る道を放心状態で歩いていると、仲の良かった友人たちの姿が見えた。
中でも仲の良かったAは、顔、Yシャツ、全てが茶色の様な黒い赤に染まっていた。
Aは僕の顔を見て只一言「人を殺してしまったんだ…」と言うと、顔を手で覆った。
いつも明るくて頼りになった彼が、泣くのを僕は初めて見た。
皆、何も言わずに黙っていた。
そんな時、
「大人たちは、もうただの人殺しだ。俺らで組織を作ろう。」
誰かがそう言った。
「僕たちで、これを終わらせよう。」
続いて誰かが言う。
ここに、新たな組織が出来た。
運がいいことに、このころから他町は襲撃を無くしはじめていた。
だが、その一方で、今度は町内で襲撃し合うようになる、という悪夢が始まった。
一人対一人の大人に比べて、集団の僕らは有利だった。
相手を殺さなくても、爆竹などで驚かせれば大抵は押さえられた。
しかし、殺さない人間と、人を殺せるものを持っている人間では大きな差がある。
いつものように、大きな発砲音がした直後、Aがうっと小さく呻いた。
見ると、腹部から赤いものが流れだしている。
弾が貫通していた。
外では大人たちが集まり始めている。
手当をしても逃げ切れるか定かではない。
そんなことを想っていると、Aが置いていけ、と呟いた。
そんなことは出来ない、と言うと、Aは黙って僕の背中を押した。
その時、僕らがこもっていた家の戸が蹴破られる音がした。
どたどたと大勢の足音もする。
Aが荒い息で叫んだ、
「振り向かずに走れ!」
それを合図に僕らは裏口から飛び出した。
僕は、ここに残ろうとしたが、他の友人に無理やりに手を引かれて叶わなかった。
走りながら横目で後ろを見ると、
Aが横になり、何人かの大人たちが部屋に入って来たところだった。
僕は・・・友人を見殺しにした。
それ以降、大人たちは同じように集団を作るようになった。
それでも僕らは誰かに向けて銃を向けられず、
今日もまた一人、また一人と散っていった。
6月に書いて放置していたもの。
たまには真面目に長編を書いてみようと頑張った結果・・・どうしてこうなった!
駄文っぷりをお楽しみいただけたでしょうか(泣)




