螺旋
『棲み分け』を行うクマゼミとミンミンゼミ。
二種の蝉が譲りあえる理由とは……。
私は蝉に訊きました。
「クマゼミ、クマゼミ。お前はなぜ譲りあえる?」
すると、クマゼミは答えました。
「僕は忙しいんだ。そんなことはミンミンゼミに訊きなよ」
私は蝉に訊きました。
「ミンミンゼミ、ミンミンゼミ。お前はなぜ譲りあえる?」
すると、ミンミンゼミは答えました。
「俺は忙しいんだ。悪いが来年地に出てくるクマゼミに訊いてくれ」
一年後、再び私は蝉に訊きました。
「クマゼミ、クマゼミ。お前はなぜ譲りあえる?」
すると、クマゼミは答えました。
「それが虫にモノを訊ねる態度か?」
クマゼミは怒って喋らなくなってしまったので、私は反省してミンミンゼミに頭を下げて訊きました。
「すみません、すみません、ミンミンゼミさん。あなたはなぜ譲りあえるのですか?」
すると、ミンミンゼミは答えました。
「君は謝ってばかりだね」
私は丁寧に訊ねたのですが、今回もミンミンゼミは、クマゼミと譲りあえる理由を教えてくれませんでした。
それから更に一年後、再び私は蝉に訊きました。しかし……。
「クマゼミさん、クマゼミさん。あなたはなぜ譲りあえるのですか?
「僕は忙しいんだ。そんなことはミンミンゼミに訊きなよ」
クマゼミは今年も教えてくれませんでした。
譲りあえる理由を知りたくて、蝉に訊ねるようになってから、二年の月日が流れました。
蝉はいつになったら私に答えを教えてくれるのでしょうか。もう待ち続けるのは疲れました。
「これで良し、と……」
私はとうとう我慢できなくなって、今年の九月に、ミンミンゼミを捕まえました。そして、その蝉を逃げないように、胴体を羽ごと紐で縛り、ようやく譲りあえる理由を知ることができました。
「ミンミンゼミさん、ミンミンゼミさん。あなたはなぜ譲りあえるのですか?」
ミンミンゼミは答えました。
「子よ、子よ、人間の子よ。今自分が何をしているのか解るか?解るのであれば 自ずと答えを導き出すことができるであろう……」