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友人の結婚式

作者: ムルモーマ
掲載日:2026/08/09

 友人の結婚式に出た。

 令和8年8月8日という、日付として記念になりそうな、真夏の真っ盛りに開かれた結婚式だった。

 大学時代に同じアパートの自分の隣に住んでいた友人だった。

 課題を一緒にやったり、車を買っていたから時々車に乗せて貰って遠出したり、ポケモンGOリリース時に深夜に連れ回されて最後にスマホを落として画面を割っていたり、酒は弱いけど好きで陶器市に行って買っていた酒瓶を車から出る時に手を滑らせて割ったり、アパートはゴミ屋敷になっていて一度両親が深夜に掃除しているところを見かけた事があったりと、そういう思い出がある友人だった。

 大学卒業後は、一度だけ一緒に仙台の方へと旅行に行った。その時その友人は会社を過労で休職していて、転職するか悩んでいた。

 その後もその大学の友人のグループのlineでは多少やりとりはありつつも、近況は全く知らなかった。


 結婚を知ったのは、自分が婚活をして疲れた事を共有した事だった。そしてその友人に軽く近況はどうなのか聞いてみたら、入籍していた事を言われた。

 どうにも自分と似たような心境——ずっと一人で生き続けるのは精神衛生的に厳しいと判断した事——に一足先になったらしく、そして活動をしてゴールインしたらしい。

 そしてその後暫くして、個別lineで結婚式への招待が届いた。そこでお相手の情報が少しばかり入った。友人より結構若い方だった。

 快諾した。その時点では、同じグループで繋がっている他の友人に同じような招待を送っているかは分からなかったから、その話題をグループで出す事は憚られて出来なかった。

 従兄弟の結婚式に出た事は二度あるものの、そういう血の繋がりのないただの友人の結婚式に出るのは初めてだった。


 結婚式の1週間前に祝いの品を買いに行く事にした。

 ご祝議も包むけれど、それとは別に何か物を包んでおこうという気持ちになっていた。

 真っ当に社会生活を送っている人間しか居てはいけないような圧力さえある、整然とした街に行ってぶらぶらとデパートの中を物色をしていると、陶器が目に入った。

 従兄弟には陶器を贈った。その時はアパートの近くで地方の名産品の陶器市のような事をやっていて、ちょうど良さそうだったから。でも、デパートの中のきちんとしたブランドの陶器は贈答用としても、なんというか余りにも主張が強過ぎた。色自体は派手ではないものの、日常に馴染まないような色合いをしているそれは、使う度に自分の事を思い出してしまうような主張の強さがあった。

 結局そこでは選ばず、また近くでそういう贈答用専門の店があったので、そういう主張の強さを避けようとしたら、タオルとカタログギフトに決まった。合わせて1万円を少し漏れるくらいになった。

 その後はご祝議の袋と筆ペンを買ってミッションは終わった。


 結婚式の当日、早起きしてスーツに着替えて、どれだけ探しても見つからなかった定期入れがそのスーツのポケットから出てきて(そのスーツのポケットの中も探したと思うけれど……)、直前でスーツの色合いがこれで良いか少し悩んで、出た。

 外は相変わらず暑かったが、令和にしか体感しないような酷暑ではない事だけは幸いだった。

 また、東京に住んでいる自分とは異なり、地方都市に住み、働いている友人の元へ行くには特急で2時間程揺られる必要があった。朝に軽くカフェでサンドイッチの栄養補給をして東京駅にまで行って、特急は予約していなかったので券を買おうとすると、指定席が満席だったのに気付かされた。

 特急まで1時間ほど待つ中、カフェでのサンドイッチ一つの栄養補給では足りない事に気付いて、カツサンドを買ったり、構内に本屋があったように記憶していたものの見つからずに諦めたり、携帯用の充電ケーブルも以前失くしていたのでそれも買い直して、後はぼけっと突っ立ってスマホで時間を潰した。

 特急に乗って、東京内の移動の間にさっと空席に座ってカツサンドを急いで食べた。冷たいけどしっとりしていて、カラシが辛味までは主張してこない、脂っこさだけを捨て去っている美味しいカツサンドだった。

 次の駅で全席が埋まった。入り口前の場所で立って過ごす事になった。

 そもそも何でこんな地方都市への電車が土曜の朝に満席になっているのか不思議だったが、今日からお盆休みだった事を思い出した。実家に帰る予定もしていなかったし、有休も使う予定がなかったので忘れていた。

 ずっと立っていると、中学の吹奏楽部時代を思い出した。パーカッションを担当していて、何時間もの合奏練習で大半はずっと突っ立っているだけという事が時々あった。

 1時間程揺られて、自分の目的地ではない地方都市に着くと、そこで半数くらいは降りたので、そこからは座れた。

 早起きしたからか、途中からは寝ていた。


 降りると、大学以後会っていなかったそのlineとかでしか繋がっていなかったような友人達と再会した。

 従兄弟の結婚式では親族ばかりで友人枠が数人しか居なかった事もあって、友人枠としてはもしかして自分くらいしか誘ってなかったのかと思っていたが、送迎用のバスも準備されているくらいに20人くらいは同じ電車に、同じ目的で乗っていたようだった。

 交通費も含めて、この結婚式に参加する為に自分は5万円くらい飛ばしていたのだが、大学の友人の中には、スーツもこの為に新調したとかで、10万円くらい飛ばしていた人もいた。それでも参加すると決めていたから、まあそれだけで、卒業以来直には会っていなかったと言っても、それぞれ大学での関係性は良かったと言って良いと思う。

 教会に着いて、友人の高校や職場の人やらまで集まっている中で見知っている人とだけ喋る、少しばかりの歓談の時間はすぐに終わって、早速結婚式が始まった。

 それぞれの親族から友人がかなり集まってて、総勢50人以上。キリスト式だった。

 真っ白なスーツを着込んだ友人。かなり長いトレーン(正式名称は知らなかった)のあるウェディングドレスに身を包んだ新婦。それぞれが登場して、最後の仕上げをそれぞれの母親がした。

 そのトレーンをお付きの人が何度も整えたりする中、儀礼的な事柄が色々と進んでいく。新婦側の姪っぽい人が結婚指輪を持ってきてそれぞれに嵌めて。いきなり立ち上がって歌ってくださいと言われて、渡されていた紙に音程すらも載っていない讃美歌を歌わされたり。

 誓いのキスを衆人環視の中でする事となり、二人は恥ずかしながらもキスをしていた。

 そして、最後に神父からお祝いの言葉をさっと贈られて退場していった。

 それと一緒に退場していくそれぞれの両親の、友人の母親が涙を拭っているのがとても印象的だった。

 どこからどこまでも儀礼的で、全員が緊張していて、何というか、今というタイミングでの本人達の為の結婚式だとは正直思えなかった。どちらかと言えば、未来の当人達が振り返った時の精神的な土台とする為の結婚式、という印象だった。


 その後、東京よりは相当にマシだけれど、全員がきちんとジャケットまでを着ての炎天下の中、外で写真撮影を行い、ブーケトスなどは投げられる事なく本日入籍していた人に贈られて、披露宴に移った。

 贈り物はご祝議を渡す時に一緒に、受付をしていた親族っぽい人に渡した。

 事前に色々式場と一緒に準備したであろう恥ずかしいビデオが流され、新郎新婦が入場し。カンペがないからかフィラー塗れな挨拶を友人がした後に、会社の上司のスピーチが入り。そこからその友人に挨拶。とは言え、他にも沢山人は居るから、あっさり目におめでとう、と。

 その後は大学の同級生と主に喋る。

 何だかんだ、自分は今前職の同期と付き合う事となっていて、まあ成就するにせよしないにせよそれで婚活としては最後にするつもりなのだけれど、自分は一人でも平気な方ではあるものの、婚活すらしていない友人らとは違って、全く平気ではない人間でもあると言われて、お前は結婚した方が良いと言われたり(友人からのメッセージも一人一人に贈られていたけれど、自分には、お前は精神面危ないから頑張れよ的な事を書かれていた)。

 後は、lineで繋がってはいるものの卒業後に一度もメッセージを送った事のない友人にメッセージを久々に送ったり。

 単純に近況の話をしたり。友人の両親がこちらの方に挨拶をしてきて応えたり。

 結婚式らしいご飯を食べたり、酒を飲んだり。その後はマグロ入刀とケーキ入刀があり、捌かれたマグロと、ハリボテではないウェディングケーキが振る舞われ、締めの方になると再び中々に恥ずかしいビデオを流されて、友人の父親が固いスピーチをしてお開きとなる。

 言ってしまえば、全体的には平成的な、平均的でそして理想的な結婚式だった。

 何だかんだ心から祝福出来た気がするし、参加して良かったなー、と自分としても強く思えて、まあこの二人はきっとこれから大丈夫だろうとも思えた。


 引き出物にお菓子やらハンカチやら、それから会場の箸もきちんとしたもので持って帰る事を想定されていたのでそれも持って帰路に着く。

 日本酒にビールにウイスキーに焼酎にと、あったら飲んでしまう性質であるのもあって、結構酔っ払いながら駅までバスで送られる。独身が多く、自然とそういう話になって、酔っ払っていた自分はそこで婚活をした上で、今ちょっと付き合っている人が居るというスタンスで、まあ、適当な事をぼちぼち喋った。

 帰りの電車を大学の友人と待つ。良い結婚式だったと口々に言い合い、いろんなところで写真を撮っていた友人によってアルバムがlineに登録された。多分、結婚式の当人からもウェディングアルバムがその内何かしら届くとは思う。


 特急は全席指定席になっているのもあって、中がスカスカでも乗車と共にそこでお別れになる。

 帰りの電車の中でだらりと寝て。

 東京に着いて、本屋で直近発売された漫画を買ったりしながら帰って。

 この頃、運動していてもスイミングがメインで、それ以外の時は大体座っているのもあって、行きの電車で1時間突っ立ってただけでちょっと足がキツくなっているのに気付いた。

 少しだけ早めに寝た。


 ……一応、今、自分は付き合っている人が居る。前述の通り、婚活で会った人ではなく、前職の同期と。

 会うのは月に2度程度で、lineでのやり取りも殆どしていないけれど、一応付き合っている形にはなっている。

 夏が過ぎたら、色々相性を確かめてみましょうという形で、アクティビティとかもしてみる事を約束している。

 その結果どうなるのか分からないし、今の心境としてはどのような結果に落ち着くとしてもそれに従って婚活は終わりにしようというところは、結婚式を経た後も変わっていない。

 詰まるところ……自分はやはり、今日結婚した友人よりかは、一人で居る事に慣れてしまっている。婚活する程度には、一人で居続ける事に危機感や恐怖を抱いているが、それでも。

 婚活で仮付き合いになった相手でも、lineでのやり取り……一対一での、文言を投げてしまったら投げ返す事を強要してしまう、投げられたら投げ返す事を強要される、その強要の意図を如何様にも孕んでいる意思疎通には、期待感などよりも苦痛の方が遥かに大きかった。lineというアプリの機能上の話にもなるが、24時間いつでも送れて、既読した事も分かられてしまう、その常に頭の片隅にリソースが割かれてしまう部分も苦痛に後押ししていたと思う。

 婚活では相手から断られ、自分からも断った事もあったりして、全てが仮付き合いの段階で終わってしまったが、そこまで辿り着いてから……やっとの第一歩を踏み越えてから、けれどまだ麓にも程にある、山頂は自分が想像していたより遥か遠くにあり、ゼロという関係性からその山を登り切るという事は自分には最早出来そうにないと感じてしまった。

 それは、今付き合っている相手にも伝えてあり、その上で付き合っている。

 ……そこまで考えて、改めて、自分は本質的に独りよがりな部分があり、そこは変えられないのだとも自覚した。

 付き合っている相手の事よりも、自分の問題ばかりに目が行っている。相手の事を慮る事は、出来てもそれは意識的にしてやっと。学習して身につけたものに過ぎず、意識しなかったらすぐに汚い素がぽろりと出る。

 本質的に独りよがりな癖して、一人で居る事に完全に慣れ切る事も出来ず、足掻いてみれば、結局改めてその自分の本質が自分に突きつけられる。

 自分は結婚したとして、そこから先の全ての責務を果たし切れるのか。

 自分は結婚しなかったとして、そこから先の孤独に耐えられるのか。

 どちらを選んだとして、自分はそれぞれどれだけ後悔するのか。どれだけ満足するのか。

 自分の中の天秤は、婚活をしてみた事によって、最早どちらにも傾いていない。どちらを選んだとて、この自分の中途半端な本質によって、どちらにも地獄は存在している。

 だからこそ、今はなるようになれというスタンスで居る。お相手と、自分が無理なく出来る範囲で色々付き合ってみて、その上で結果を受け入れる。

 友人の幸せそうな、理想的な結婚式を見ても、そこは変わらなかった。


 自分、自分、自分、自分。けれど、孤独はやっぱり少し厳しい。

 30年以上、過去に変えようと努力した事も多少あれど、変える事も出来なかったその本質。

 何にせよこれから死ぬまで付き合っていく事になるその本質を、騙し騙しでも隠しながら生きていく決心をするのか、正面から受け入れて抱えて生きていく決心をするのか、それを決めるタイミングは多分……そう遠くはない。

極端な例にはなるけど、一人では飯屋にも入れないような、そういう人の方が最終的には幸福になれるんじゃないかねえ、みたいな事をこの頃思っております。

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