9話 テスト勉強
「ヘルプミー悠ちゃんせんせ〜」
「おお、なに、どうしたんだよ朝っぱらから」
「来週期末テストあるでしょ?」
「うん」
この後に発される言葉は聞かなくてもわかる。毎度テストの時期になると遥香が発していた言葉。それは―――
「「課題が終わってない」」
「……よくわかったね、悠ちゃん」
「おう、何年一緒におると思っとんじゃボケ」
「ちょっと言い方キツくない?」
「大丈夫、こういうのは遥香にしかやらないから。言う相手選んでるから」
「そっか…」
結局予想通りだよ、中学のときから何も変わってないなこいつは。この後俺の家に来て課題やるまでがいつもの流れなんだよな。なんとかしないと。
「はいはい、お二人さん。朝から夫婦漫才を見せられるこっちの気持ちにもなってね」
「だれが夫婦じゃ!」
「えへへ…」
「ほんでお前はいつまで照れとんねん!」
遥香が頬を赤らめながらくねくねして喜び?を表現している。こんなわけのわからん動きでもサマになってるのはマジで凄いよな。流石はアイドル。
「それでなに?お前の課題終わってない報告はもう聞き飽きたんだけど?」
「今日は悠ちゃんの家でお勉強会!ってことで」
「いいわけないだろ、俺の予定も考慮しろ」
「悠ちゃんの性格的にテストが終わるまで何の予定もないと見た!」
「うっ…」
そりゃもう10年近く一緒にいるんだから俺のルーティンくらいバレてるよな。たしかに、テスト明けの配信までは何の予定もない。それはそれとして遠慮させていただきたいけど。
「たしかに予定はないけど、俺去年、それのせいで俺はストーカー被害に遭ってるんですが、それはどうするおつもりで?」
「そ……れは………」
「何も考えてなかったんだろ?」
「うん……」
「俺いっつも早めにやっとけよって言っとるやろ。なんでやらんと?」
「ごめん…」
言い過ぎた。遥香がしょんぼりして俯いている。どうしよう、このままだといつもと同じ結果になってしまう。
「言い過ぎじゃない?」「そうだよ」「少しくらいいいじゃん」「遥香ちゃんが可哀想だよ」
始まった。いつもこうだ。俺が少し言って遥香が落ち込んだら、クラスの女子たちがこぞって遥香の味方をする。可哀想だとか思うなら自分が遥香を手伝ってやればいいのに。なにが「少しくらいいい」だよ。テメェらは高校からしか一緒じゃないだろうが、こっちは小学校から一緒にいて振り回され続けてるんだよ。アイドルの『Halka』しか知らないくせに調子乗んな。遥香のファンに家まで来られたことも自分のSNSのDMが誹謗中傷で埋め尽くされたこともないくせに分かったような口利くなよ。
俺が「嫌だ」と言っても、「遥香ちゃんが可哀想」の一点張りで俺が「いい」と言うまで押し問答が繰り返される。こういう『Halkaのお友達』というステータスが欲しいだけの承認欲求モンスターは無敵だ。ド〇クエのロ〇ラ姫みたいに「はい」と答えるまで無限ループに陥る。
「あーもう!わかったよ!手伝えばいいんだろ手伝えば!」
「ほんと!?」
「この状況で嘘つかねぇよ」
「やった…!」
遥香がおやつを貰った犬みたいに目を輝かせて喜んでいる。心なしか犬耳とブンブン振り回されてる尻尾が見えるような気もする。こういう表情豊かなところが人気の秘訣なんだろうな。付き合いが短かったら可愛さに免じて許していたと思う。周りの人間の同調圧力のおかげで自分は何もしてないくせになに喜んでるんだよこいつ。
「まずは、なにが終わってないんだ?」
「全部!」
「うん、家来る暇ないね」
「えっ…」
「家に来る移動時間すらもったいないから寮でやりな」
なんなのこいつバカなの?明々後日からテスト始まるんだよ?それなのに何一つ課題が終わってない?アイドルと学生で二足の草鞋履いてんだからその辺ちゃんとしとけよ。
「悠ちゃんとお勉強したかった……」
「ビデオ通話繋いで俺も手伝ってやるからさ、それなら問題ないだろ?」
「うん!!!」
「高橋って遥香ちゃんに甘いよね」
「は?」
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「じゃ、俺は勉強してるから何か分からんところあったら言ってな」
「はい!悠ちゃん先生!」
「どうした?」
「課題の範囲がわかりません!」
「そこから?!」
課題が1つも終わってないとはいえ、流石に課題の範囲くらいは知っているものだと思っていた。どうやら俺はこいつを甘く見ていたらしい。
「来週期末テストなのは知ってるよな?」
「悠ちゃん、私のことバカにしてる?」
「うん」
「ひどい!」
「期末で赤点取ったら夏休みに補習することも、もちろん知ってるよな?」
「え、そうなの?」
「ウッソだろおい」
ダメだこいつ。ツッコミが追いつかない。あれ?俺今高2だよな?去年中間、期末に学年末もあって今年も中間終えてるはずなのになんで知らないんだ?あ、そうか、こいつ1回も赤点取ったことないんだ。
「夏休みに補習は仕事的にもヤバいだろ?」
「うん」
「じゃあ、赤点取らないように勉強しないとな。そのためにまずは課題から」
「はい」
「通話でよければ、いくらでも勉強手伝ってやるから、ちゃんとやれよ?」
「わかった、ありがと」
こういう素直なところはいいと思うんだよな。ずっとこうだったらとっくの昔に告ってたと思う。何処でどう間違えたらこんな俺の動向を逐一チェックしたがる束縛激しい系のメンヘラ彼女みたいな娘になっちゃうんだろ。
「悠ちゃん、ここわかんない」
「それはねぇ、教科書のこの式使えばいけるはず。多分」
「あ、できた。すごいね悠ちゃん」
「数学の問題は大抵応用だからな。公式さえ覚えとけば割となんとかなる」
「へ〜」
こうやって遥香に勉強を教えたりしてると昔を思い出すな。あの頃はまだ母さんも生きてて、長期の休みの終わりが近づくと決まって遥香が「宿題が終わってない!」って泣きついてくるんだ。今みたいに人目を気にして家に入れないなんてこともなく、どっちかの家に集まって答え見せたりしたっけ。遥香と一緒にやりたくてわざと宿題しなかったこともあったな。―――あの頃は楽しかった。
今少し遠い存在になってしまったけれど、いつかまたあの頃みたいに笑いあえたら………。
「遥香はさ、彼氏とか欲しいと思う?」
「どうしたの?急に、悠ちゃんらしくもない」
「………さぁな」
自分でも何故こんな質問をしたのか分からない。
ただ、少し前に黒野先輩にされた「遥香と付き合いたいか」という質問を思い出しただけ。それなのに、気づいたらこんならしくもない質問をしてしまっていた。
「彼氏かぁ、悠ちゃんいるからな〜。でも、私のことをアイドルの『Halka』じゃなくて、ただの『皇遥香』として見てくれる人だったら考えてあげてもいいかな」
「……そうか」
俺が遥香とセットじゃなく、俺個人として見てほしいように、遥香もアイドルの『Halka』じゃなく、ただの『皇遥香』として見てほしいのだろう。遥香が俺に執着してる理由が分かった気がする。
「そういう悠ちゃんはどうなの?」
「俺?」
「悠ちゃんは彼女欲しい?」
彼女か。欲しいかどうかは考えたこともなかった。告白されたから付き合ってただけだし、彼女ができても遥香が近くにいるとすぐに別れてたから。それに今は、Vtuber『春色皐月』としての活動もあるからそれに理解を示してくれる黒野先輩の彼氏さんみたいな人じゃないとまず無理だ。
「俺も遥香がいるからな〜。その辺、諸々込みで許してくれる人ならいいんじゃないか?」
「そっか……」
Vtuberの仕事抜きにしても、俺には遥香という“異性の幼馴染”がいる。おそらく、この先遥香が俺から離れることもないだろう。自分より長く自分より近くにいた異性。そんな人間が恋人の近くにいることを疎ましく思わない上に、Vtuberの仕事にも理解を示してくれる人なんてこの世に存在するのだろうかだろうか。
「さて、そろそろ寝ないとお肌に悪いぞ」
「でも課題が……」
「大丈夫だよ、結構進んでる」
「……明日も手伝ってくれる?」
「言っただろ?通話でよければいくらでも手伝ってやるって」
「わかった……おやすみ」
「ああ、おやすみ」
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次の日。
♪〜
「誰だよ…」
俺は電話の着信音で目を覚ました。休日だし、昨日遥香との通話を終えた後も勉強していたのもあってまだ眠たい。だが、気づいた以上は電話にでないとな。
「もしもし……?」
「悠ちゃんおはよ!」
「うん、おはよう」
「今日も手伝ってくれるんでしょ?」
たしかに、いつでも手伝うとは言ったがまさか朝からとは驚きだ。こんな朝っぱらから元気なところをみるに、昨日はあの後すぐに寝たのだろう。
「勘弁してくれよ……」




