表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寝落ちで無双〜理不尽にクビにされた社畜が、睡眠スキルで最強の探索者になった件〜  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/13

第7話 オークの洗礼と看破する眼

冒険者ギルドの受付窓口。

俺はリュックを背負い、昨日と同じ窓口へ向かった。


「昨日預けたナイフの受け取りを」

「朝倉様ですね。お待ちしておりました」


窓口にいたのは、昨日の夜勤とは違う――ベテランの女性職員だった。

彼女は奥の保管庫から『高品質なゴブリンナイフ』を取り出し、カウンターに置く。


「メンテナンスは完了しております。それと、昨日の記録ですが……第二階層の『ゴブリンキング』をソロで討伐されたのですね?」

「ええ、まあ」

「討伐記録がギルドカードに刻まれましたので、本日から入り口の『転送システム』がご利用いただけます」

「……転送システム?」


聞き慣れない単語に首を傾げると、彼女はにこやかに説明を続けた。


「ダンジョンは二階層ごとにボスが存在します。ボスを倒してゲートを開放すれば、以降は入り口の転送陣から直接その階層へ飛べるんです。帰りも一瞬ですよ」


(……マジかよ。知ってたら昨日の夜、キング倒した後にわざわざ歩いて戻らなかったのに……!)


初心者の情報不足を呪いつつ、気を取り直す。

つまり今日からは退屈な道中を丸ごとスキップして、一気に第三階層の稼ぎ場へ行けるってことだ。


「ありがとうございます。早速使わせてもらいます」


俺はナイフを腰に差し、ゲートへ向かった。



入り口の青く光る魔法陣。


冒険者証をかざして足を踏み入れると、一瞬の浮遊感。

視界が切り替わった。


「……ここが、第三階層」


第二階層までの湿った土と苔の森とは違う。

古代遺跡みたいな石造りの通路。少し開けた空間。乾いた冷気。


俺は肩のドローンを起動し、配信をオンにする。


ホログラムを開いた瞬間――目を疑った。


『待ってたぞ寝落ちニキ!!!』

『うおおおおお配信始まった!!』

『昨日のキング戦の切り抜き見て来ました!』


同接が、みるみる増える。

数百を超え、なお増え続ける。


(……バズったのか)


状況を説明するより先に、通路に重い足音が響いた。

ズシン、ズシン。


現れたのは、ゴブリンとは比べ物にならない巨体。

分厚い脂肪と筋肉の鎧――オーク。

通路の奥から次々と出てきて、合計五匹。

粗末な斧や棍棒を握り、こちらを睨みつける。


『うわ、いきなりオークの群れだ!』

『おいソロでオーク5体はキツいだろ!』

『ニキ逃げて! 前衛3人でも事故る数だぞ!』


コメント欄が一気にパニックに染まる。


オークたちは地響きを立てて突進してきた。

なのに――俺の心は、恐ろしいほど冷静だった。


「……なるほど。これが第三階層か」


呟くと同時に、目を閉じる。

全身の力を抜き、意識を手放す。

強烈な睡魔が脳を打ち据え――俺は立ったまま、深い眠りへ落ちた。



真っ黒な空間。

いつものレトロなコマンドウィンドウが浮かぶ。


『オーク×5 が あらわれた!』


『たたかう 消費SP:10』

『まほう』

『どうぐ なし』

『スキル:カウンター 消費SP:500』

『にげる 消費SP:100』


目の前のドット絵には、五匹のオーク。

魔法なら一体50。五体で250。

でも今の俺はレベル8。武器は高品質ナイフ。通常攻撃なら――五体倒しても50だ。


答えは決まっている。


俺は迷わず『たたかう』。

ターゲットは『オークA』。


『ユウマ の こうげき!』



ドローンが捉えた映像に、コメント欄が発狂寸前で跳ねる。


『は!? いきなり寝た!?』

『いや寝てる場合じゃないって! オークの斧が!』


巨大な斧が、無防備な俺の頭上へ振り下ろされる。


――が。


完全に脱力した身体が、最小動作でふらりと横へ揺れた。

紙一重。ミリ単位。


ドゴォォンッ!


石畳が砕ける。

その瞬間、俺の腕が跳ね上がった。


ゴブリンナイフが、分厚い脂肪を無視して首の動脈へ深々と突き刺さる。


一匹目が崩れ落ちる。

休む間もなく二匹目、三匹目。

俺の身体は隙間を縫うようにスルスルとすり抜け、膝の関節、顎の下、喉元――急所だけを選んで刃を打ち込んでいく。


『は!? なんだ今の動き!?』

『5連撃!? オーク相手にナイフで!?』

『回避の変態すぎる……軌道が全部見えてる……』


十数秒。

俺がパチリと目を開けた時、そこに残っていたのは――五つの巨大な魔石だけだった。

息ひとつ乱れていない。


俺は魔石を拾い上げ、背負ったリュックへ手を入れる"フリ"をして――

実際にはすべて『収納』へ放り込んだ。

重さは、ゼロ。


その時、視界の端でシステムが明滅する。


『オーク を たおした!』

『レベル が あがった!』

『レベルアップボーナス! HP と SP が ぜんかいふく した!』


俺は小さく息を吐き、遺跡の奥へ続く通路を見据えた。



第三階層から第四階層への道中は、文字通りの"作業"だった。


転送システム。

そして『収納』。

この二つが揃うと、探索の常識が壊れる。


重量ペナルティがない。疲労も溜まらない。荷運びのための撤退もいらない。


遭遇するオークの群れは、すべて『たたかう』で各個撃破。

寝る。選ぶ。起きる。拾う。

それだけで、通路が魔石だらけになっていく。


そして二時間後。

俺は第四階層の最奥――ボス部屋へ通じる巨大な両開きの扉の前に立っていた。


重厚な石と鉄。近づくだけで圧がある。


「……さすがに少し腹が減ったな」


俺は立ち止まり、頭の中で念じる。

ポンッ。


虚空から現れたのは、今朝ファストフード店で買っておいた紙包みのハンバーガーと、よく冷えたペットボトルのコーラ。

包みを開けると、肉とチーズのジャンクな匂いが広がった。


一口かじる。バンズはふかふか。パティは熱々。

コーラを流し込む。炭酸が喉を刺し、気持ちいいほど爽快に抜けていく。


『収納』による完全な状態保存。

深層で、最高のコンディションの飯が食える。

――これだけで、心の余裕が段違いだ。


食事を終え、ステータスを呼び出す。

現在のSPは十分すぎる。

ボス戦には問題ない。


俺は軽くその場でジャンプしてみた。

ふわり、と異常に長い滞空。着地の衝撃は、筋肉がバネみたいに吸収する。


確かな自信が、胸の奥で形になる。


俺は両手を扉に押し当て、力強く押し開いた。



ボス部屋は、巨大なコロッセオみたいな円形の石室だった。


中央に陣取るのは、五体の魔物。


奥に鎮座するのは、身長三メートルに迫る巨体。

全身を分厚い黒鉄のフルアーマーで覆い、巨大な戦槌ウォーハンマーを持つ第四階層ボス――『オークジェネラル』。

両脇を固めるのは、大盾と長剣の『オークナイト』二体。

後衛には、杖を持った『オークマジシャン』二体。


陣形が完成している。

こいつら、知能がある。


『うおおおお出たあああ!!』

『ジェネラルだけじゃない!? 取り巻き4体もいるぞ!』

『陣形組まれてる! マジシャン残すと魔法飛んできて終わるぞ!』

『ニキどうする!? また寝るのか!?』


コメントが滝のように流れる。


俺はナイフを抜き放ち――当然のように、目を閉じた。



真っ黒な空間。


五体のオークが、陣形を組んだドット絵で並んでいる。


『オークジェネラル と オークナイトA〜B と オークマジシャンA〜B が あらわれた!』


『たたかう 消費SP:10』

『まほう』

『どうぐ なし』

『スキル:カウンター 消費SP:500』

『にげる 消費SP:100』


RPGのセオリー通り、まずは厄介な遠距離から潰す。


俺は迷わず『たたかう』。

ターゲットは『オークマジシャンA』。


『ユウマ の こうげき!』


ポン、と軽い電子音。

俺の意識は深い眠りの底へ沈んだまま、肉体は完璧な死闘へ躍り出た。



『寝たああああああ!!』

『この構成相手に寝るとか狂ってんだろww』


ドローンの視界。


後衛のマジシャンが杖を振り上げ、炎弾ファイヤーボールを放つ。

同時に前衛のナイト二体が、大盾を構えたまま左右から突進。

魔法と物理の連携。

逃げ道を潰す、正しい戦術。


――だが。


完全に脱力した俺の身体は、炎弾の軌道を首のわずかな傾きだけで躱し、そのまま低い姿勢で滑るように前へ出た。

ナイトの長剣が空を切る。

俺はその股下をスライディングで潜り抜け、後衛へ肉薄する。


跳ね上がったナイフが、驚愕に目を見開くマジシャン二体の喉笛を、流れるような連撃で正確に掻き切った。


返す刀で反転。

迫るナイト二体の足の腱を断つ。

体勢が崩れた瞬間、鎧の隙間――首の後ろへ刃を突き立てる。


『は!?』

『前衛すり抜けて後衛から狩った!?』

『動きが最適解すぎる……!!』


四体が光の粒子となって消える。

残るは一体。


オークジェネラルが咆哮し、必殺の戦槌を横薙ぎに振り抜いた。

暴風のような鉄塊。


だが俺の身体は、地面スレスレまで上体を反らし、信じられない柔軟性でその下を潜り抜けた。


そのまま右手をスナップするように突き出す。

――ノーモーション、無詠唱。

分厚い装甲に対する"最適解"。

指先から放たれた火属性魔法が、ジェネラルの足元で爆発的な火柱を上げた。


「グォォォォォッ!?」


黒鉄の鎧は熱を弾く。

だが隙間を覆う革は燃える。

露出した装甲の隙間。

俺の身体は火柱の残滓を突っ切るように踏み込み、逆手のナイフを――首元の隙間へ吸い込ませた。


ズバァァァッ!!


動脈を断つ鈍い音。

ジェネラルの巨体が遅れて痙攣し、轟音とともに石畳へ崩れ落ちた。


『マジかよ……』

『回避→後衛処理→無詠唱魔法→首切りコンボ!?』

『しかも全部目ェ閉じたまま!? 意味わからん!!』


熱狂と混乱をよそに、俺はパチリと目を開けた。


ジェネラルの死体が霧散し、特大の魔石がゴロリと転がる。


「……完璧だな」


俺は息ひとつ乱さず、特大魔石を拾い上げ、『収納』へ放り込んだ。



都内、某大型ギルドのロビー。


喧騒から少し離れたカフェスペースで、白銀の髪を持つ少女――神城栞かみしろ しおりが、スマホの画面を食い入るように見つめていた。


画面には、今まさに話題の「寝落ちニキ」。

第四階層のボスと取り巻きを屠った瞬間のリプレイ。


コメント欄は『未来予知』『無敵の回避』と騒ぎ立てている。


だが栞の視線は、まったく別の場所を追っていた。


「……未来予知じゃない」


彼女は信じられないものを見るように、画面の中の優馬の"筋肉の動き"を追う。


「攻撃される直前まで、全身の筋肉が完全に弛緩してる……。そして、コンマ数秒で避けるために必要な筋肉だけを爆発的に動かしてる」


普通、人は恐怖と緊張で硬直する。無駄な力が入る。

だが彼は違う。

まるで――意識を完全に手放し、肉体を何かのシステムに"自動操縦"させているみたいな挙動。


「……あり得ない。人間業じゃない。でも……」


栞の胸の奥で、トクリ、と心臓が大きく跳ねた。

恐怖じゃない。

抑えきれない好奇心だ。


「もし……私がこの人に『支援魔法』をかけたら」


最適解で動く自動操縦の肉体に、強力なバフが乗った時。

どれほど美しく、どれほど凄まじい動きになるのか。


「……朝倉、優馬」


画面の向こうの非常識な探索者。

誰も気づいていない戦闘の本質を見抜いた栞は、未知の戦い方へのワクワクと、彼と組んでみたいという衝動に瞳を輝かせた。


看破する眼。この世界には、見えないものを見る力がある。


ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

感想もお待ちしています。毎日更新中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ