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寝落ちで無双〜理不尽にクビにされた社畜が、睡眠スキルで最強の探索者になった件〜  作者:


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第4話 死闘のコマンドと切り札

真っ黒な空間。


目の前には、巨大なゴブリンキング。その背後に並ぶ二匹のゴブリンウィザード。

粗いドット絵が、じわり、じわりと揺れている。


やることは、ひとつだ。

寝る。選ぶ。起きる。生き残る。


俺は迷わず『まほう』を選び、『火属性魔法(初級)』を指定する。

ターゲットは、当然キング。


『ユウマ は 火属性魔法(初級) を となえた!』

『ゴブリンキング に ダメージ!』

『しかし ききめ は うすいようだ……』


「……なるほど。効き目が薄いか」


夢の中の俺は、テキストを読んで状況を理解した。

そして――向こうのターンが来ていることも。


『ゴブリンキング の こうげき!』

『ユウマ は こうげきをかわした!』


回避。つまり現実の俺の身体は、もう動いている。



ドローンの配信画面は、かつてない阿鼻叫喚に包まれていた。


ゴブリンキングが振り下ろした丸太のような棍棒が石畳を粉砕し、爆風と粉塵を巻き上げる。

だが、その土煙の中心で――朝倉優馬は、完全に目を閉じたまま立っていた。


紙一重。いや、ミリ単位。

脳天を叩き潰すはずだった一撃を、首をほんのわずか傾けただけで躱している。


『嘘だろ、今の避けたのかよ!?』

『推奨レベル10のボスだぞ! ソロでかすったら即死だ!』



真っ黒な空間。


魔法の効きが薄い。キングは硬い。タフい。時間を食う。


なら、手順を変える。

セオリー通り、まずは後ろの厄介な魔法使いからだ。


ターゲットをウィザードAへ。魔法を三発叩き込む。


『ゴブリンウィザードA を たおした!』


続けて、ウィザードB。同じく三発。


『ゴブリンウィザードB を たおした!』



配信画面では、目を疑う光景が続いていた。


二匹のウィザードが放つ火球。キングの暴風のような棍棒。逃げ場のない波状攻撃。


だが優馬は、踊るようなステップでそれらをすべてすり抜けていく。

そして目を閉じたまま、指先を突き出し――ノーモーションで炎を連射した。


『無詠唱連発キタァァァ!』

『ウィザード2匹落ちたぞ!』

『何者なんだよこの寝落ち野郎!』


同接は跳ね上がり、1000人を突破していた。



夢の中。


取り巻きが消え、画面にはゴブリンキングだけが残った。


ここからは削り合い。俺は『たたかう』と『まほう』を交互に叩き込む。


たたかうを八回。まほうを二回。


それでもキングは倒れない。だが俺は確かな手応えを見つけた。


ウィンドウに表示されているボスの名前。最初は真っ白だった文字が、いつの間にか――オレンジ色に変わっている。


「……よし。半分は切ったな」


昔のRPGにありがちな、親切なUI。助かる。


俺はさらにコマンドを叩き込む。しかし文字色は、オレンジのまま動かない。

やはり推奨レベル10。桁が違う。


そして、消費したSPの感覚が告げる。


――そろそろ残りが半分を切る。


このままでは、いずれSPが尽きる。SPが尽きたら回避も鈍る。最適解の動きが鈍る。

それは、この部屋での死に直結する。


そう思った矢先だった。


『ゴブリンキング は いかりくるっている』

『ゴブリンキング は おおきく いきを すいこんだ!』


初めて見るテキスト。

オレンジ色の文字が、激しく明滅している。大技。全体攻撃。避けきれないタイプ。


俺の直感が、耳元で警鐘を鳴らす。


現在のSP残量――570。

敵のHPは、まだ半分近い。小細工で削り切るには遠い。


俺は、ウィンドウの下に眠っていたあの選択肢を、強く念じた。


『スキル:カウンター 消費SP:500』


――切り札。



全身を真っ赤に染め上げたゴブリンキングが、怒りの咆哮を上げた。

棍棒が致死の風を纏って大きく振り上げられる。


『あの大振り、回避スペースがないぞ! 部屋全体が攻撃範囲だ!』

『終わった……避けきれない!』


絶望が流れる中。


優馬は――逃げなかった。


目を閉じたまま、刃こぼれだらけのショートソードを、ゆっくり上段に構える。


直後。


必殺の棍棒が振り下ろされた。

石畳を粉砕し、部屋全体を地響きと粉塵で圧砕する、圧倒的な暴力。


それが優馬の頭上に直撃する――まさに、その瞬間。


『スキル:カウンター が はつどうした!』


鼓膜を破るような、高い破砕音が響いた。


棍棒が直撃した。誰もがそう思った。

だが土煙の中から飛び出したのは、キングではない。


優馬だった。


棍棒が当たる紙一重の瞬間、最適解の軌道で懐へ滑り込んでいたのだ。

キングは自身の棍棒の風圧と勢いで体勢を崩し、完全に死角を晒す。


その喉元へ。


目を閉じたままの優馬は、迷いなくショートソードを――


掻き切った。


喉から噴き出すのは、黒い靄のような液体。

巨体は棍棒の重みに引かれるように前のめりに崩れ――そのまま霧散した。


もうひとつ、何かが砕ける音。


優馬の手から、ショートソードの柄だけが転がり落ちた。

カウンターの圧力と、ボスの硬い皮膚。それに耐えきれず、刃が根元から折れ、宙を舞って石畳へ突き刺さる。


『ゴブリンキング を たおした!』

『ボスの とうばつ に せいこうしました!』


陽気なファンファーレ。


――パチリ。


現実で目を開ける。


静まり返ったボス部屋。宙を漂う黒い靄。

足元には、バレーボールほどもある巨大な魔石。そして淡く光る、奇妙な宝箱。


転がるのは、柄だけになった初期装備。


「……終わったのか」


寝ぼけ眼で呟き、俺は折れた剣を見下ろした。


「まあ……こんな低品質な剣だ。よくここまでもった方だな」


全SPを叩き込む覚悟の一戦。ここが最初の山場でした。


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