第31話 拡散と、知らぬ間の伝説
探索者専用掲示板、D-tubeスレ。
スレタイ:【速報】寝落ちニキ、ついに社会現象になる【膝枕弁当】
1001 名無しの探索者
お前ら見たか?
寝落ちニキの膝枕弁当の切り抜き
一般層まで届いてるぞ
1002 名無しの探索者
見た見たwww
「ダンジョンで膝枕して手作り弁当」
どういうコンテンツなんだよ
1003 名無しの探索者
しかも同じ日に例の記事も出て
登録62日でBランク最速ってやばすぎ
どっちが本業なんだ
1004 初心者マニア ◆fAnAtIc.Yu
お前ら、ようやく気づいたか
俺は最初から言ってた
あの2人は別次元だと
1005 名無しの探索者
初心者マニアさん久しぶりww
相変わらずいるのか
1006 名無しの探索者
それより栞さんの手作り弁当
リュックから出てきてほかほかだったの
収納スキル持ちじゃん完全に
1007 名無しの探索者
リュックに手突っ込んで出してるの
毎回やってるよな
絶対収納だろ
1008 初心者マニア ◆fAnAtIc.Yu
>>1007
俺もそう思ってる
でもギルドに申告してないとなると
グレーゾーンだな
1009 名無しの探索者
まあでも武器は許可取ってるし
スキル自体は違法じゃないだろ
使い方の問題
1010 名無しの探索者
それより膝枕の話しようぜ
あのシーン何回見ても面白い
1011 名無しの探索者
栞さん顔真っ赤で足痺れてるのに
膝外さないの完全に好意じゃん
1012 名無しの探索者
「効率のためよ」って顔してるのに
耳まで赤くて草
1013 名無しの探索者
あと弁当の「保温バッグ扱いだな」
「文句ある?」のやり取り最高すぎる
これほんとにただの仕事仲間??
スレの空気が、一つの書き込みで凍りついた。
1050 蒼穹の刃・副長 ◆SkyBlade.02
少し失礼するぞ
寝落ちニキとやらの配信を
クランマスターに見せたら
「面白い」と言っていた
Bランクにしておくのは惜しいとも
1051 名無しの探索者
え?
蒼穹の刃って
Aランククランの??
1052 名無しの探索者
副長が直々に書き込んでるの??
本物か??
1053 初心者マニア ◆fAnAtIc.Yu
蒼穹の刃のクランマスターといえば
Sランクの神崎烈だろ
あの人が注目してるのか
1054 蒼穹の刃・副長 ◆SkyBlade.02
本物だ
クランマスターは
「いずれ会ってみたい」と言っていた
それだけだ 失礼する
1055 名無しの探索者
本物だったwww
Sランク探索者が注目してるじゃん
1056 名無しの探索者
天城凛に続いてまた別のSランクか
寝落ちニキ、上の人間に好かれすぎだろ
1057 初心者マニア ◆fAnAtIc.Yu
だから言っただろ
あいつは本物だと
最初の配信から見てる俺が言うんだから間違いない
◇
その頃、当の本人たちは池袋Bランクエリアにいた。
スマホの通知が連続して震え続けているが、ダンジョン内では確認しない。
やることは変わらない。
眠って、選んで、起きて、拾う。
前方から、鋼鉄の牙を持つ大猪、アイアン・ボアが突進してくる。
「……行くか」
「ええ。支援、乗せるわ」
栞の杖から魔力の波動が広がった。
『身体能力強化(大)』
目を閉じた。睡魔が脳髄を殴り、意識が底へ落ちる。
◇
真っ黒な空間。
白枠のコマンド画面が浮かぶ。
『アイアン・ボア が あらわれた!』
『たたかう 消費SP:10』
『まほう』
『どうぐ なし』
『スキル』
『にげる 消費SP:100』
『ユウマ の 火炎突き!』
◇
アイアン・ボアの突進を紙一重で躱した優馬が、懐へ潜り込んだ。
『防御力低下』『速度低下』
栞のデバフが通り、巨体の動きが鈍る。
緋炎の籠手で強化された刃が、装甲の隙間へ正確に叩き込まれた。
炎が急所を焼き切り、Bランクの巨体が光の粒子に変わった。
コメント欄の流速がいつもより明らかに速い。
『初めて来たけど何これ』
『立ったまま寝て戦ってるの??』
『さっきの膝枕は何だったの?』
『え、弁当どこから出てきたの? リュック空っぽじゃなかった?』
古参リスナーが解説を挟んでくる。
『新規ども、これがデフォだから覚悟しろ』
『戦闘→寝る→膝枕→飯の永久機関だぞ』
『膝枕は攻略上必須の儀式です(真顔)』
『リュックの中身については俺たちも謎だ。触れるな』
◇
目を開けた。
床に落ちた魔石と鋼鉄の牙を、ダミーリュックの奥の収納へ放り込む。
「……なんか今日、コメント欄うるさいな」
「そう? いつも通りじゃない」
「……まあ、そうか」
それ以上は気にせず、奥へ歩き出した。
◇
帰宅後。タワマンのリビング。
コーヒーを淹れていると、ソファの栞がため息をついた。
「ねえ」
「何だ」
「トレンド入りしてるわよ」
画面を覗いた。
SNSのトレンドに「寝落ちニキ」「膝枕弁当」「ダンジョン配信者カップル」が並んでいる。
「……カップルじゃないんだけどな」
「私に言わないでよ」
栞がぷいっと顔を背けた。耳の先が赤い。
「まとめ記事も出てる。登録62日でBランク最速昇格記録だって」
「知ってた」
「それだけじゃないわ。掲示板に蒼穹の刃のクランマスターがあなたに注目してるって書き込みがあったみたい」
「……蒼穹の刃?」
「Sランク探索者の神崎烈が率いるクランよ。天城さんの白百合の剣と双璧って言われてる」
少し考えた。
天城さんに続いて、また別のSランクか。
「……今は別にいいかな」
「そうね。でも——いつかは無視できなくなるかもしれないわ。Sランクの最深部に行くなら、相応の繋がりが必要になる時が来るかもしれない」
何も言わなかった。
ただ頭の片隅に、神崎烈という名前を引っかけておいた。
◇
その夜。
翌日のダンジョン計画を立てながら、インベントリを確認する。
夢の欠片、6個。残り14個。
道標の石が、静かに光っている。
「明日も潜るか」
「当然でしょ」
栞がタブレットを閉じながら、もう明日の分の弁当箱を取り出していた。
トレンド入りしようが、Sランクに注目されようが、やることは変わらない。
毎日8時間寝て、毎日潜って、毎日積み上げる。
それだけだ。




