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寝落ちで無双〜理不尽にクビにされた社畜が、睡眠スキルで最強の探索者になった件〜  作者:


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第28話 ブラッド・オーガと、限界突破の最適解


 重厚な石扉を、押し開けた。

 広大な石室だった。


 天井が高い。壁に埋め込まれた魔石の光が、血のように赤い。Cランク帯の青白い光とは違う。赤い光が床に伸びて、石畳に長い影を作っている。


 中央に、それがいた。

 ブラッド・オーガ。


 体高3メートルを超えている。全身が赤黒い皮膚に覆われていて、鎧のような筋肉が皮膚の下でうごめいている。両腕は体幹より太い。手には何も持っていない。拳と体重だけが武器だ。


 ただ立って、低く濁った息を吐くだけで、石室の空気が重くきしんだ。

 格が、違う。


 コメント欄が一瞬静止した。


 『これ……Aランクのボスか?』

 『Bランク上位相当って聞いてたけど見た目がやばすぎる』

 『2人で勝てる相手じゃない』

 『デュオ受験はさすがに無謀だったか……』



 栞と目が合った。


「……頼む。限界まで出してくれ」

「……壊れても知らないわよ」

「……栞を信じてる」


 目を閉じた。

 睡魔が脳髄を殴る。意識が、深い底へ沈んでいった。



 真っ黒な空間。白枠のコマンド画面が浮かんでいる。


 『ブラッド・オーガ が あらわれた!』


 『たたかう 消費SP:10』

 『まほう』

 『どうぐ』

 『スキル』

 『にげる 消費SP:100』


 『ユウマ の こうげき!』



 栞が極大の魔法陣を展開した。

 観測するのは優馬の筋肉の軋みと骨の悲鳴。肉体が自壊する直前、限界ギリギリの支援を乗せる。Aランクの魔力密度を逆用した、これまでにない出力だ。


 『身体能力強化(極大)』


 栞の額に汗が浮いた。瞬きを忘れ、視線を優馬の全身に這わせる。コンマ0.1秒でも遅れれば、肉体が自壊する。


 コメント欄が爆発した。


 『栞さんの魔法陣、いつもの倍以上ある!』

 『あの出力で優馬が自壊しないの!?』

 『栞さんが本気出してる……』



 立ったまま目を閉じた優馬が、オーガへ向かって踏み込んだ。


 強化ミスリルナイフが腹部へ入った瞬間——弾き返された。

 火花が散る。刃が滑る。継ぎ目がない。全身が均一な硬度の塊だ。


 オーガが右腕を振るった。

 巨大な風圧。床が抉れ、砕けた破片が散弾のように飛び散る。


 優馬が紙一枚で躱した。


 コメント欄が焦り始める。


 『攻撃通ってないぞ!』

 『どうやって倒すんだ!?』

 『いつもと違う。詰まってる』


 オーガが今度は左腕を薙いだ。水平の一撃。空気が唸る。壁まで届く軌道。


 優馬が膝を折って潜り抜けた。

 すかさず懐へ踏み込む。脇腹。膝の裏。首元。ミスリルナイフと黒短剣が交互に叩き込まれる。


 全部、弾かれた。


 コメント欄が沈黙する。


 『これ本当に詰んでない?』

 『Aランクのボスは格が違いすぎる』

 『栞さんが限界バフ出しても通らないのか……』


 オーガが吠えた。

 地響きのような咆哮が石室を揺らす。

 そのまま正面から突っ込んでくる。体重2トンの突進。床が割れながら迫ってくる。


 優馬が横へ跳んだ。

 オーガの拳が石畳に激突した。石室全体が揺れた。拳の着弾点に、深い亀裂が走った。


 コメント欄が悲鳴を上げる。


 『今の直撃してたら即死だろ』

 『なのに1ミリも当たってない』

 『回避だけで削れてるわけじゃないのに……どうするんだ』



 『ユウマ の 火属性魔法!』


 炎がオーガの全身を舐めた。

 一箇所だけ、色が違った。首の付け根。そこだけ熱を吸い込んでいる。


 コメント欄が気づいた。


 『今の魔法、攻撃じゃなくてスキャンしてる?』

 『首の付け根だけ反応が違くない?』

 『弱点探してるのか! 寝ながら!!』

 『やっぱりこいつ化け物だわ』



 『ユウマ の 火炎突き!』


 刃に炎が纏わりつき、優馬が首の付け根へ向かって突っ込んだ。

 オーガが腕で防ごうとした。

 遅い。


 炎の刃が弱点へ滑り込んだ。

 皮膚が焦げる音がした。オーガが初めて、うめき声を上げた。


 コメント欄が沸いた。


 『通った!!』

 『火炎突きが弱点に刺さってる!』

 『ダメージ入ってるぞ!!』


 しかし——オーガが怒り狂った。


 両腕を無軌道に振り回す。怒りに任せた乱打。速度が増している。栞のデバフを突き破ってくる力がある。


 『速度低下』


 デバフが飛ぶ。でも怒り補正が乗ったオーガの動きは止まらない。

 優馬が回避を繰り返す。一撃でも食らえば終わりだ。


 コメント欄が叫ぶ。


 『押されてる!』

 『さっきより速いぞ!』

 『栞さんのデバフが追いつかない!』


 火炎突きをもう一度叩き込む。また弱点に入った。オーガがよろめいた。

 でも倒れない。


 コメント欄の緊張が高まる。


 『あと何発いる?』

 『SP大丈夫か? 消耗してるだろ』

 『栞さんも限界に近そう……』



 オーガが両腕を振り上げた。

 全身の筋肉が膨張する。石室の空気が、一瞬だけ静止した。


 最大の大振り。石室そのものを粉砕するような一撃が、頭上から振り下ろされる。


 コメント欄が悲鳴を上げる。


 『やばいやばいやばい』

 『あれ食らったら即死だろ』

 『逃げて!!!』

 『火炎突きで怒らせて大振り誘発したのか!?』

 『最初からこれが狙いだったのか……』


 栞が意図を読んだ。

 防御と回避の支援を切り捨て、速度と貫通力だけを一点に叩き込む。


 『ユウマ の カウンター!』



 振り下ろされる巨腕の死角。

 優馬が極限まで踏み込んだ。


 オーガの体重と振り下ろしの運動エネルギーを逆利用する。強化ミスリルナイフが、首の付け根の弱点へ向けて一直線に突き刺さった。


 火炎突きで焼かれた弱点は、もう耐えられない。


 パァン、と。

 限界を迎えた弱点が、内側から弾けた。


 オーガが硬直した。

 両腕が止まる。振り下ろしの勢いが消える。

 そして地響きを立てて、石畳へ崩れ落ちた。


 次の瞬間、巨体が光の粒子に変わった。


 『ブラッド・オーガ を たおした!』

 『ユウマ の レベル が あがった!』

 『レベルアップボーナス! HP と SP が ぜんかいふく した!』


 コメント欄が沸騰した。


 『カウンターで決めた!!!』

 『Aランクボスをデュオで倒したぞ!!』

 『栞さんのバフが規格外すぎる』

 『寝落ちニキ、完全に人外の領域じゃん』

 『火炎突きで削ってカウンターで仕留めるコンボ鳥肌立った』



 目を開けた。

 静かだ。


 光の粒子が消えた後、床に残ったのは4つだった。


 討伐証明の魔核。ずしりと重い。

 オーガの籠手——黒光りする重厚な装備品だ。鑑定をかける前から、質の高さがわかる。

 それから赤黒い魔石が一つ。大振りで密度が高い。合成素材として相当な価値がある。


 そして。

 淡く発光する、見慣れた形の石。


「……欠片だ」


 5個目。収納に放り込んだ。


 インベントリを確認する。

 道標の石が光っていた。同期率が上がっている。


 何が変わったのかは、まだわからない。

 でも確かに、動いている。


 栞が静かに横に並んだ。


「……終わったわね」

「ああ」



 転送陣でギルド本部へ戻ると、桐島が待っていた。

 腕を組んで、壁に背をもたせかけている。


 俺と栞を、順番に見た。

 長い沈黙。


「合格だ」


 それだけ言った。

 続けて、ほんの少しだけ声のトーンが変わった。


「……俺の見立てが外れた。それだけだ」


 俺は何も言わなかった。

 栞が小さく頷いた。


 桐島が踵を返して、廊下を歩いていく。

 その背中が、少しだけ、さっきより大きく見えた。



 受付へ向かった。

 いつもの窓口。でも今日は違う書類が出てきた。


「Bランク冒険者カードの発行です。おめでとうございます」


 受け取る。

 Cランクのカードより、少し厚い。少し重い。

 表面に刻まれたランク表記が、CからBに変わっている。


 それだけだ。でも確かに、変わっている。

 栞が横から覗き込んだ。


「次はAランクね」

「ああ」


 ロビーの天井が、高い。

 夢の底まで、まだ遠い。


 でも一段、上がった。

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