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寝落ちで無双〜理不尽にクビにされた社畜が、睡眠スキルで最強の探索者になった件〜  作者:


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第23話 身代わりの首飾りと、ボス部屋のイレギュラー

 タワーマンションのリビング。

 テーブルの上に、あの歪な魔石が一つだけ置かれている。


 天城凛。Sランク冒険者。平均同接60万人のカリスマ配信者。

 あの人が別れ際にぽんと寄越した、鈍く光る魔石。受け取った瞬間のずしりとした重さが、まだ掌に残っている。


「鑑定、かけるわよ」


 栞が首飾りの霊力で手元を淡く照らしながら、魔石に指先をかざした。

 半透明のウィンドウが浮かぶ。

 そこに表示された名前を見て、2人とも黙った。


 『命の魔石』。深層のボスがごく稀に落とす、超高純度の魔石。ギルドのデータベースによれば、市場に出回ること自体がほぼない。出たとしても、競売で億単位の値がつく代物。


 それを、あの人は雑談のついでみたいに渡してきた。


「……Sランクって、こういうものなのか」

「こういうものなのよ。次元が違うの」


 栞の声にも、さすがに呆れが混じっている。


 俺はソファの背にもたれて、天井を見上げた。あの人の背中を思い出す。圧倒的で、底が見えなくて、でもどこか気さくで。

 追いつけるのかはわからない。


 でも、もらったものは使い倒す。ブラック企業で学んだ数少ないまともな教訓だ。与えられた資源を腐らせるな。



 合成画面を開いて、俺は少し考えた。

 命の魔石。何に使うか。


 真っ先に浮かんだのは自分の武器だった。強化ミスリルナイフにこれを合成すれば、とんでもない火力が出るだろう。Cランク帯の敵なんて1撃で蒸発する。

 でも、俺には『睡眠』がある。寝てる間の自動操縦は被弾率がほぼゼロだし、火力も足りている。


 問題は栞のほうだ。


 後衛の支援魔法使い。俺が前で暴れている間に、栞は1歩引いた位置からバフとデバフを飛ばし続けてくれる。だがその分、不意の攻撃への対処が薄い。装備は強化したとはいえ、Cランク帯の深部で飛んでくる1撃を完全にしのげる保証はない。


 社畜時代、俺は後輩の失敗を黙ってかぶり続けた。あれは守ったんじゃない。ただ疲れすぎて、抵抗する気力がなかっただけだ。


 今は違う。

 守ると決めたなら、ちゃんと守れる手段を用意する。


「栞。首飾り、外してくれ」

「は? 急に何?」

「合成する」


 栞が首にかけていた霊力の首飾りをゆっくり外す。細い銀の鎖の先に、薄く青みがかった石がぶら下がっている。魔力回復の底上げ用に、地下庭園で素材を集めて作った1品だ。


 俺はそれと命の魔石をテーブルに並べ、合成画面を呼び出した。

 ベース素材に霊力の首飾り。追加素材に命の魔石。


 成功率を確認する。52%。高くはないが、致命的に低くもない。

 確定を押す。


 白い光がテーブルの上を覆った。数秒。光が引いていく。

 首飾りの形が、変わっていた。


 鎖は細いままだが、強度が明らかに上がっている。石の色は透き通った深い蒼に変わり、その奥でかすかに脈動するような光が揺れていた。まるで心臓みたいに、とん、とん、と。


 鑑定をかける。


 『身代わりの霊力首飾り』。魔力回復の効果はそのまま残った上に、もう一つ、とんでもない付与効果がついていた。装着者が致命傷を受けた際、1度だけ身代わりとなってダメージを無効化する。発動後、首飾りは砕け散る。


 1回きりの、絶対防御。


「……これを、私に?」


 栞が首飾りを見つめたまま、少し間を置いて言った。


「俺は寝てれば勝手に避ける。栞のほうが危ない」

「理屈はわかるけど……あなた、自分の武器に使おうとは思わなかったの?」

「思った。でも必要度で考えたら、こっちだ」


 栞がふっと視線をそらした。白銀の髪が揺れて、表情が隠れる。

 数秒の沈黙。

 それから、いつもの刺すような声が戻ってきた。


「……ま、合理的な判断ね。あなたが寝てる間に私が死んだら、バフもヒールも飛ばせなくなるものね。つまりこれは私への好意じゃなくて、チーム運用の最適化。そうでしょう?」

「そう思ってくれていい」

「素直に『心配してる』って言えないあたり、本当に面倒な性格してるわよね」


 栞は毒を吐きながら首飾りを受け取り、鎖を首にかけた。蒼い石が鎖骨の上で、とん、と1度だけ脈打つように光る。

 身につけた瞬間、栞の指先がほんの一瞬だけ石に触れて、そっと包み込むように押さえた。


 それだけで十分だった。


「さて」


 栞が顔を上げる。いつもの鋭い目だ。


「行きましょう。Cランク帯、池袋ダンジョン深部。ぼやぼやしてたら日が暮れるわ」

「ああ」


 俺は立ち上がり、強化レザーアーマーの襟元を正した。



 池袋ダンジョンCランク帯。

 毒の沼が点在し、凶悪な魔物が徘徊する危険な階層。


 すれ違うベテランのCランクパーティたちは、皆一様に疲労困憊で、傷を負いながら慎重に進んでいる。

 だが、俺たちの歩みは止まらない。


 前方から、3メートルはある巨大な毒蜘蛛の群れが現れた。

 俺は立ったまま、フッと目を閉じて深い眠りに落ちる。

 途端に肉体が自動操縦に切り替わり、脳が弾き出した最適解の動きで敵陣へ突っ込む。


 『防御力低下』『速度低下』


 背後から栞の凶悪なデバフ魔法が飛び、蜘蛛たちの動きが泥のように鈍る。


 そこへ、俺の神速の二刀が容赦なく叩き込まれた。銀と黒、交互に1閃、2閃。

 緑色の体液を撒き散らしながら、Cランクの魔物たちが次々と沈んでいく。


 俺の睡眠オート戦闘と、栞のデバフ。

 このコンビネーションの前では、Cランクの魔物でさえただの的でしかなかった。かすり傷一つ負うことなく、俺たちは圧倒的な速度で階層を蹂躙していく。


 そして数時間後。

 俺たちはついに、Cランク帯の最深部、ボス部屋の前に到達した。


 重厚な石造りの扉。

 だが、開く前から違和感があった。


「……殺気がある」

「感じてる」


 栞が低い声で答える。2人の足が、自然と止まった。


 扉の向こうから漂うのは、ボスの気配じゃない。もっと別の何かだ。圧迫感がある。でも熱くも冷たくもない。不思議な重さ。


 石扉が軋み、中を見た瞬間、俺と栞は同時に息を飲んだ。


 ボスが、いない。


 かわりに床には、魔核の残骸が散乱していた。石畳が焼け焦げ、爆発の痕が幾重にも刻まれている。Cランクのボスが残すはずの討伐痕。でもそれをやったのは探索者じゃない。


 部屋の中央に、青年が立っていた。


 俺と同じか、少し下くらいの年齢に見える。深い紺と金の刺繍が入った民族衣装のような上着。腰に奇妙な短刀。両耳には銀色のイヤリング。


 どう見ても、この世界の探索者じゃない。


「……お前が倒したのか、ここのボスを」


 俺が口を開いた瞬間、青年の目が一段、細まった。


「貴様が……追手か」


 声が低い。感情の色が見えない。


「独裁者の犬が、この世界まで出張るとは」

「は? 俺が?」


 意味がわからない。独裁者って誰だ。犬って俺のことか。


 栞がすっと俺の隣に並ぶ。声は静かだが、目は青年を射ている。


「誰、あなた。ここCランクのボス部屋よ。一般人が入れる場所じゃないわ」

「一般人か」


 青年が鼻で笑った。


「この世界の常識など、俺には関係ない。夢の眠りを使う者がいると聞いた。独裁者に従う手駒が、現実世界に潜り込んでいると」


 俺を指す目に、迷いがない。


「問答無用だ。ここで終わらせる」


 青年が短刀を抜いた。

 刃が揺れた瞬間、脳幹に直接、警報が届いた。


 本物だ。Cランクのボスを1人で始末した実力がある。動きの質が、今まで戦ってきた探索者とも魔物とも違う。


 俺は栞に視線を送る。栞が小さく頷く。


「睡眠」


 俺は目を閉じた。

 意識が、暗い方へ滑り落ちていく。

 立ったまま。



 真っ黒な空間。

 白枠のコマンド画面が浮かんでいる。いつもの夢の戦場だ。


 『たたかう 消費SP:10』

 『まほう』

 『どうぐ なし』

 『スキル』

 『にげる 消費SP:100』


 迷わず『たたかう』を選ぶ。


 直後、コマンド画面が揺れた。ノイズが走る。白い枠がぐにゃりと歪む。


 『――介入を検知』


 見知らぬ文字列が流れた。敵がコマンド画面に割り込んできている。

 割り込みが来る前に、確定を押した。


 『ユウマ の こうげき!』


 画面が光る。でも続きが来ない。ファンファーレが、鳴らない。

 かわりに、コマンド画面の向こう側から、声でも映像でもない何かが届いた。

 意図だけが、伝わってくる。


 ――お前も、眠りの申し子か。



 現実。

 ドローンの映像には、優馬しか映っていない。青年の姿は、どこにも映らない。

 カメラには映らない。機械は夢を見ないから。


 栞の目には確かに映っているのに、ドローンの画角には空白だけが広がっている。


 コメント欄が、ざわつき始めた。


 『急に立ったまま寝たww』

 『いつもの寝落ちニキだ』

 『え何と戦ってるの?? ドローン故障??』

 『虚空に向かってシャドーボクシングし始めたぞ!?』


 栞はコメントを横目に見ながら、息を1度、静かに吐いた。


「……映らない、か」


 口の中で呟く。夢の世界の住人は、魔力を持った生きた眼にしか見えない。機械のセンサーには存在しない。

 ということは、視聴者には今、優馬が何もない空間で眠りながら神速のステップを踏んでいるようにしか見えない。


 分析は後でいい。今やることがある。


 栞は補助魔法の詠唱を組んだ。最速で。


 優馬の身体が動く。

 瞼を閉じたまま、最小限のステップで青年の刃を躱す。反撃の強化ミスリルナイフが空気を裂く。


 青年が後退した。驚きが、顔に出ている。


 栞の補助魔法が優馬の全身を薄く包んだ。青白い光が、静かに広がる。

 同時に、青年へ向けて凶悪なデバフを放つ。


 青年の動きが、一瞬で泥のように重くなった。

 光を見ている。視線が揺れている。


 デバフで最適解の計算に肉体が追いつかなくなった青年の隙を突き、優馬の刃がその首筋でピタリと止まった。



 目を開けた。

 青年が、首筋に強化ミスリルナイフを突きつけられたまま、動けずにいた。息が上がっている。


「……なぜ、倒れない」


 青年が低く言った。


「俺が夢の防壁を張ったのに、コマンドが通った」

「お前も、コマンドが使えるのか」


 俺が聞き返すと、青年の目が微かに動いた。


「夢の申し子しか、そのスキルは持たない」

「だったら……話が違くないか」


 俺はナイフを下ろし、鞘に収めた。


「……俺、そっちの言う独裁者の手下じゃないんだけど。理不尽に会社を解雇されて、たくさん眠ったら気がついたらスキルが手に入ってた、ただの元社畜なんだ」


 沈黙。

 青年の眉根が、わずかに寄った。


「……元、社畜?」

「知らないよな……ブラック企業。過労。残業代ゼロ」

「意味がわからない」

「……だよな」


 俺は腕を組んだ。


「でも、俺が独裁者の仲間じゃないのは……まあ、そうだ。追いかける理由もない」


 栞が横から口を挟んだ。


「誤認ということ? つまりあなた、ずいぶん失礼なことをしてくれたのだけど」


 青年の視線が栞へ向く。


「……お前は、何だ」

「バディよ。この寝落ちニキの」


 栞が淡々と答える。


「それより、説明してくれないかしら。独裁者って誰。夢の世界って具体的に何。あなたはなぜここにいて、なぜこの人を追手だと思ったのか」


 矢継ぎ早に問い詰める。感情を殺した声で。

 青年が黙る。


 俺は床に散らばった魔核の欠片を踏まないよう避けながら、ゆっくりと距離を詰めた。

 緊張が、少しずつ薄れていく。戦う気配から、迷う気配へ。


「……救世主、というのは」


 青年が、ぽつりと言った。


「我々の伝承では、現実世界より来たりし、同じ眠りの技を持つ者、と記されている。夢の欠片を20個集め、扉を開く者」


 背筋に、冷たいものが走った。

 夢の欠片。20個。


「……それ、俺が持ってる」


 青年の目が、見開いた。


「今まで倒したボスが落としたやつ。4個。ステータス画面には『夢の欠片』って表示されてる」


 沈黙が、長く続いた。

 青年の短刀が、ゆっくりと鞘に収まった。


「……確認させてほしい」


 声が、最初よりほんの少しだけ低温じゃなくなっている。


「……俺は優馬。朝倉優馬」

「……カルーン」


 青年が短く言った。


「俺の名は、カルーンという」


 1拍置いて、カルーンが神妙な顔で俺を見た。


「……一つ確認したい。寝落ちニキ」


 俺は止まった。


「……なんでその呼び方を知ってる」

「バディがそう呼んでいた。伝承の救世主に与えられた称号かと思っていたが」


 栞が口元を手で覆った。肩が、小さく震えている。


「……視聴者につけられた名前だ。称号じゃない」

「視聴者……」


 カルーンが真顔で繰り返す。意味はわかっていないらしい。

 でも確かに、その目から剣呑さが少し、抜けた。


「……優馬でいい。さっき言った通り」

「そうか。優馬」


 ボス部屋の冷気が、少しだけ和らいだ気がした。

 まだ警戒は解けていない。どちらの側からも。

 でも、話は始まった。



「あと16個」


 俺は数字を頭の中で転がした。


 カルーンの話を、俺と栞は黙って聞いた。

 夢の世界。独裁者。伝承の救世主。欠片を20個集めて扉を開く。


 それだけ聞けば今は十分だ。細かい話は、もう少し落ち着いてからでいい。

 カルーンは特に動じなかった。この青年、動揺というものをあまり知らないらしい。


 栞が腕を組んで言った。


「あなたはどうするの。この世界に居場所はあるの?」

「ダンジョンの深部で眠れれば問題ない。夢の気配が濃い場所の方が、身体が安定する」

「半年それでやってきたの」

「食事も問題なかった」

「……そういう問題じゃないのよ」


 栞の声のトーンが変わった。呆れと、何か別のものが混ざっている。

 俺はため息をついた。

 放置するのは無理だ。この流れで放置できるほど、俺は割り切れていない。


「うちに来るか」


 カルーンが目を細めた。


「うちというのは」

「タワマンだ。高層階で眺めはいい。夢の気配がどれくらいかは知らんが、ダンジョンよりはまし……たぶん」

「……なぜそんなことをする」

「……誤認だったんだし、別に根に持ってない。それでいい」


 しばらくの間があって。


「……礼を言う」

「いらない。一つだけ条件がある。外を歩く時は、俺の少し後ろを歩いてくれ。人にぶつかると厄介なことになる」


 カルーンが頷いた。



 地上に出ると、夕方の風が吹いていた。

 池袋の雑踏。人波。夕暮れの光が路面に伸びていた。


 カルーンは約束通り、俺の少し後ろを歩いている。すれ違う人間はカルーンをしっかり認識しているらしく、自然に避けながら通り過ぎていく。


 通行人の目には3人映っている。ドローンの画角にだけ、カルーンの姿がない。

 栞が隣で小さく言った。


「カルーンのこと、どう説明するつもり?」

「……どう説明するんだろうな、それ。とりあえず、しなくていい気がする」

「……それでいいの?」

「……まあ、どうにかなると思う」

「どっちでもよくないと思うけど」



 タワマンのエントランスに入ると、カルーンが一瞬、立ち止まった。

 天井が高い。自動ドアが静かに開いている。


「……夢の世界にもこういう建物はある。ただ、これほど清潔ではない」

「管理費が高い建物はだいたいこんなものだ」


 エレベーターで上の階へ。

 栞がカードキーをかざしてドアを開けると、夜景が窓いっぱいに広がっていた。


 カルーンが窓の前で固まった。


「……」

「どうした」

「星が見える」

「夢の世界では見えないのか」

「独裁者が力を増してから、夢の世界の空は曇り続けている」


 俺はそれ以上、何も言わなかった。


 栞がバッグをソファに放って、キッチンへ向かった。引き出しを開ける音。鍋を出す音。


「ラーメンでいいんでしょ。作るけど、邪魔にならないところに座っててね」


 カルーンが窓から離れて、ソファの端に腰を下ろした。窓の外に目を向けたまま、背筋だけ真っすぐだ。


 俺は冷蔵庫を開けた。

 夢の欠片、あと16個。Sランク最深部に眠る鍵。伝承の救世主という肩書き。


 順番にやるしかない。

 今夜のところは、飯を食って、眠る。それだけでいい。


 キッチンから湯気の音がした。


「ほら、できたわよ。ジャンクの極みだけど、温まるわ」


 栞がローテーブルに、湯気を立てる3つの丼を置いた。

 カルーンがソファから身を乗り出し、警戒するような目で丼の中のちぢれ麺と茶色いスープを見下ろす。


「……これは、何だ。毒味は済んでいるのか」

「ラーメンだ。食ってみろ」


 俺が先に割り箸を割り、麺をすする。カルーンは見様見真似でぎこちなく箸を持ち、恐る恐る麺を口に運んだ。


 その瞬間、カルーンの動きがピタリと止まった。

 両目が見開かれ、瞳孔がわずかに揺れている。


「……どうした、口に合わな——」


 俺が言いかける前に、カルーンは猛烈な勢いで麺をすすり始めた。


 ズズズッ、という行儀の悪い音がリビングに響く。熱さなど気にする様子もなく、あっと言う間に麺を平らげると、両手で丼を持ち上げ、塩分の強いジャンクなスープを一滴残らず飲み干した。


「……」


 ぷはぁ、と深く息を吐き出し、カルーンは空になった丼をそっとテーブルに置く。

 その目は、なぜかほんの少しだけ潤んでいるように見えた。


「……美味い。こんな温かくて、暴力的な味の食べ物が、この世界にはあるのか……」


 ひどく真面目な顔で、とんでもないことを言う。

 俺と栞は顔を見合わせ、思わず吹き出しそうになるのを同時に堪えた。


「……おかわり、あるわよ」


 栞が肩を震わせながら言うと、カルーンは無言で、だが力強く頷いた。


 伝承だの、独裁者だの、やるべきことは山積みだ。

 だが、今夜のところはこれでいい。


 少しだけ賑やかになったリビングで、俺は自分の丼を引き寄せた。

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