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寝落ちで無双〜理不尽にクビにされた社畜が、睡眠スキルで最強の探索者になった件〜  作者:


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第20話 装備一新と、地下庭園の周回

「まずは、一番肝心なメイン武器からだ」


 俺はローテーブルの上に、愛用の軽量ミスリルナイフを置いた。

 市販品とはいえ、300万もした高級品だ。


 ベースにナイフを選択し、この1ヶ月で拾った質のいい素材――オーク・ウォーリアの剛牙をセットする。さらに、さっき合成で作った魔石(小)を追加。


 ウィンドウには???の文字と、ロストの警告が点滅していた。

 俺は迷わず確定を選ぶ。


 強い光が収まると、ミスリル特有の銀の刃に、うっすら波打つような美しい刃紋が浮かび上がっていた。

 鑑定(中級)がはじき出した数値は、元の4倍近い攻撃力。斬れ味の補正まで乗っている。


「よし、いける」


 市販の武器でも問題なく強化できる。


 続けて栞のメイン武器、深淵の骨杖。手持ちの良質な骨素材と魔石を合成にかけると、こちらも綺麗に通った。杖全体が淡い燐光を帯び、魔力の出力が目に見えて跳ね上がっていた。



 火力は整った。

 問題は、その裏側だ。


 俺の防具は探索を始めた頃に買った数千円の安物ジャケットに、くたびれた革手袋、履き潰したスニーカー。栞も似たようなもので、一般的な魔道士のローブに革のブーツ。アクセサリーに至っては2人とも何もつけていない。


「……攻撃力に対して、防御がペラペラすぎるわね」


 栞が呆れたようにため息をついた。


 試しに、俺のジャケットをベースにして鋼鉄の欠片を合成してみる。布地に鉄の繊維が編み込まれ、たしかに防御力は上がった。だが、数値にして微々たるもの。重量だけが増えて、動きが鈍くなる。


「鉄片や牙じゃ、防具の強化には限界があるな。重くなるし、動きにくくなる」

「ええ。本格的な防具を作るなら、ベースになる強靭な獣皮や特殊な布が必要よ」


 それに、と栞が俺と自分の装備欄の空白を指差した。


「アクセサリー枠。ステータスや耐性を底上げする重要装備なのに、2人ともゼロじゃない」

「これも素材から作れないか?」

「ただの石ころや鉄の塊じゃダメ。魔力を帯びた指輪や首飾りの素体が必要なの」


 栞は手元のタブレットを操作し、ギルドのデータベースを開いた。


「池袋ダンジョン群の中で、目当ての素材が落ちる場所を探すわ……ここがいい。Dランク上位エリア、猛獣の地下庭園」

「猛獣?」

「道中の魔物が、防具に最適な丈夫な皮や甲殻を落とす。それに、ここのダンジョンボスが低確率で銀の指輪の素体を落とすの」

「なるほど。ボスを周回してアクセの素体を集めつつ、道中で防具素材も回収する」


 俺たちは次の目標を定め、頷き合った。



 池袋ダンジョン群、猛獣の地下庭園。

 鬱蒼とした木々が天井を覆い隠す、広大な地下森林。空気が重い。濃い緑の匂いの奥に、獣の気配がびっしりと詰まっている。


 ドローンを起動すると、ホログラムにコメントが流れ始めた。


 『地下庭園きた!』

 『ここDランク上位だぞ、大丈夫か?』

 『ニキの新装備お披露目会か!?』


「いくわよ」


 栞の支援魔法が掛かる。全身に熱が満ちた。

 俺は敵の群れへ駆け出し、挑発を発動した。


 四方から飛びかかってくる魔物たちを視界に収め――意識を手放す。



 暗闇の空間に、システムウィンドウが浮かび上がる。


 『マンティコア と 毒針蜂×10 が あらわれた!』


 まず群れを一掃する。コマンドを選ぶ。


 『すり抜け連撃 消費SP:300』


 ポン、と確定音。


 『ユウマ の スキル:すり抜け連撃 が はつどう!』


 眠りに落ちた肉体が、爆発的に駆動を始める。



 客観的に見れば、それは精密機械の暴走に近かった。


 眠ったままの俺の身体が、毒針蜂の群れの間を紙一重で縫う。右手の強化ミスリルナイフが銀の線を描き、左手の強化黒短剣が黒い軌跡を残した。10匹の蜂が両断された。


 止まらない。そのまま加速。マンティコアの獅子頭が牙を剥くより速く、懐へ滑り込む。2本の刃が、首元と脇腹へ同時に叩き込まれた。


 ホログラムが荒れ狂っていた。


 『刃が2本ある!? いつの間に二刀になったんだ!』

 『右と左で違う軌道で蜂を両断したぞ!?』

 『マンティコア秒殺ww Dランク上位だよな?』

 『寝てるのに二刀流の動きが完璧すぎて草』

 『神城のバフの出力も前と段違いだな』


 陽気なファンファーレ。

 ドロップ補正(中級)のおかげで、床には強靭な獣皮や鋼の甲殻が溢れんばかりに転がっていた。



「……相変わらず、寝てる時のほうが無駄がないわね」


 パチリと目を覚ますと、栞が呆れたように素材を回収していた。


 俺たちはそのまま、地下庭園を狂ったような速度で周回し続けた。

 2周目以降はもう慣れたもの。眠って、選んで、起きて、拾う。ファンファーレが何度鳴ったか、途中から数えるのをやめた。


 10周、20周。ひたすら最高効率で狩り続ける。

 コメント欄はいつしか実況から、呆れと畏怖に変わっていた。


 『20周目ww バグだろこいつ』

 『寝落ちニキ、マジで作業用BGMみたいに周回してる』

 『素材の山えぐい……ドロップ運おかしくない?』


 そしてついに、狙いのドロップを確認した。

 銀の指輪(素体)が2つ。魔力石の首飾り(素体)が2つ。


 俺たちぶん、きっちり揃った。



 タワーマンションのリビング。

 テーブルの上に、山のような素材が並んでいる。


 俺たちは手薄だった防御面を補強するため、いっきに合成を進めた。今朝引いた合成成功確率アップ(小)のおかげか、表示される成功率が以前より安定している。


 まずは俺の装備から。


 防刃ジャケットに強靭な獣皮と鋼の甲殻を重ねて合成。光が収まると、元の布製ジャケットは見る影もなく、黒い獣皮と鋼が一体化した軽量のレザーアーマーに生まれ変わっていた。鑑定を通すと、防御力は元の4倍以上。物理耐性の付与までついている。


 手袋とスニーカーもマンティコア素材で作り替える。ガントレットは指先の自由度を殺さず、ブーツは足首のホールドが抜群に良い。数値だけじゃない、動きやすさが段違いだった。


「次は私ね」


 栞のローブも、幻影蜘蛛の糸とマンティコアの霊皮で作り直す。深い藍色の魔導ローブに仕上がり、魔力の伝導効率が格段に上がっている。ブーツも状態異常への耐性が付与された堅牢なものになった。


 そして、アクセサリー。


 俺の指輪には守護石を、首飾りには疾風の羽を合成した。銀の指輪が淡く輝き、嵌めた瞬間に薄い防護膜が全身を覆う感覚がある。首飾りのほうは、身体が一段軽くなる。回避の底上げだ。


 栞のアクセサリーも仕上げていく。指輪にはMP消費を抑える賢者石を、首飾りには霊力の核を合成。どちらも綺麗に成功し、栞の継戦能力を大幅に引き上げてくれる装備になった。


「完璧だわ……全身の装備が、最高ランクに更新された気分ね」


 栞が新調した装備を確認し、満足そうに微笑む。

 防御、機動力、継戦能力。

 全部が以前とは比較にならないレベルで底上げされた。


「ああ。これなら、Cランクの深部でも余裕で戦える」


 新しい防具の感触を確かめながら、俺は次の目標へ意識を向けた。

 Cランクの深部。そこにある、まだ見ぬ高みへ。


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