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寝落ちで無双〜理不尽にクビにされた社畜が、睡眠スキルで最強の探索者になった件〜  作者:


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第19話 グループ攻撃と、1ヶ月の躍進

重い鉄扉を押し開けた先は、地下スタジアムみたいな広大なドーム空間だった。


 最奥の玉座に、ボロボロの王冠を被り、大剣に寄りかかる巨大な骸骨が座っている。


「なんだ。ボス1体だけか」


 俺が呟くと、栞も不思議そうに目を細めた。


「みたいね。登竜門の主にしては、ちょっと拍子抜けというか」


 油断が顔を出した、その瞬間だった。


 カタカタ、カタカタカタ。


 不気味な音が床を這う。

 石畳の隙間から、白い骨が湧き出してくる。


 10体。30体。50体。

 気づけば、100体近いスケルトンが盾になるように陣形を組んでいた。


 ホログラムのコメントが、即座にパニックへ染まる。


 『うわっ、ハズレボスだ!』

 『お供100体とかふざけんな!』

 『囲まれたら終わりだ、早く逃げろ!』


「……冗談でしょ。大軍団じゃない」


 栞が顔をしかめる。

 だが、その目に恐怖はない。


「一掃できる?」

「ああ。さっきのスキルがぴったりだ」


 俺の答えに、栞が深淵の骨杖を天に掲げた。


「いくわよ、優馬!」


 禍々しい魔力の波紋が広がり、限界突破の支援魔法が叩き込まれる。

 熱い。全身の細胞が歓喜している。


 大軍勢が錆びた武器を構えて迫ってくるのを見据え、俺は目を閉じた。

 深い睡魔が脳髄を殴り、意識が真っ暗な底へ落ちる。



 真っ暗な空間。

 システムウィンドウが浮かび上がる。


 『スケルトン・ロード×1 と スケルトン×100 が あらわれた!』


 俺は内心で笑った。

 100体いようが関係ない。


 システム上、あれはスケルトンという『グループ』だ。


 俺はスキルを選択する。


 『すり抜け連撃 消費SP:300』


 ポン、と軽い電子音。

 コマンドが確定した。


 『ユウマ の スキル:すり抜け連撃 が はつどう!』



 深く眠りに落ちたはずの肉体が、爆発的な速度で地を蹴る。

 100体の骸骨の隙間を縫う、見えない通過ライン。


 短剣術(初級)の恩恵が乗った動きは、淀みない軌道を描いた。

 軽量ミスリルナイフが空気を切り裂く。


 群れに飛び込み、頸椎の隙間へ極薄の刃が滑り込んでいく。

 抵抗はない。乾いた骨が砕ける音だけが、小気味よく鳴り響く。


 止まらない。

 スケルトンたちが錆びた剣を振り下ろす頃には、もうその場から姿を消している。


 群れを駆け抜け、最後尾にいたスケルトン・ロードの目の前で、刃の旋風がピタリと止まった。

 配下を失い、戸惑うように動きを止める骸骨王。


 だが自動化された戦闘本能は止まらない。

 無防備に取り残された王の首へ、流れるように踏み込み、ミスリルナイフが突き立てられる。


 あっけないほど簡単に、頭蓋骨が宙を舞った。

 巨大な身体が崩れ落ち、ひときわ眩しい光の粒子へ変わる。


 そして――


 ズバァァッ!


 遅れて、床一面で骨が砕け散る爆音が響いた。



 そこで俺はパチリと目を覚ました。

 戦闘時間は数秒。


 振り返ると、100体のスケルトンとロードが同時に魔石へ変わっていくところだった。


「……嘘でしょ。あれだけの数を、本当に数秒で」


 栞が呆然と呟く。

 ホログラムは、理解が追いつかないコメントで埋め尽くされた。


 『え?』

 『100体の群れが、線をなぞるみたいに全滅したぞ……』

 『意味がわからん。残像が見えた』

 『ボス、ぼっちになって首飛ばされたww』


 俺は軽く刃を確認し、鞘に収めた。

 光が収まった床に、ひときわ輝くものが2つ落ちている。


 1つは、ロードの被っていた王冠。

 もう1つは、淡く発光する水晶みたいな石。


「夢の欠片……3つ目だ」


 俺はそれらを拾い上げ、収納へ放り込んだ。



 それから1ヶ月。


 俺たちは池袋ダンジョン群のDランク帯を、驚異的なペースで攻略していった。

 制覇したダンジョンは10個。


 やることは変わらない。眠って、選んで、起きて、拾う。ファンファーレが何度鳴ったか、途中から数えるのをやめた。


 危険察知と罠感知が先に敵を拾い、面倒な区画は気配を絶って駆け抜ける。最短ルートでボス部屋へ直行。無傷で。ほぼ休憩なしで。


 Dランク帯の魔物では、足止めすらできなかった。

 経験値と素材は雪だるま式に膨れ上がり、レベルと資金も異常な速度で伸びていく。


 当然、ギルドがこの速度を放っておくはずもない。

 俺と栞は、あっさりCランクへ昇格した。



「お疲れ様。Cランク昇格、おめでとう」


 タワーマンションの広いリビング。

 シャワーを浴び終えた栞が、濡れた髪をタオルで拭きながらソファに腰を下ろす。


 俺は冷蔵庫からよく冷えた缶ビールを2本取り出し、1本を彼女へ渡した。


「そっちもな。乾杯」

「ん、冷えてて美味しい」


 栞はひと口飲んで満足そうに息を吐いた。


「それにしても、ドロップ補正のおかげで素材がすごい量になったわね。ギルドで換金するのも大変だわ」

「ああ。だから、ちょうどいい機会だと思ってな」


 俺は自分の分のビールをローテーブルに置く。

 この1ヶ月の攻略で、夢の欠片はさらに1つ増えていた。


 合計で4個。


 今朝の睡眠ボーナスで欠片のおみくじが引けて、そこでとんでもない新スキルを引き当てた。

 ――もちろん、睡眠システムのことは栞に話さない。


 俺は何食わぬ顔で切り出す。


「実は最近、合成っていう新しいスキルを覚えたんだ。余った素材で試していいか?」

「合成? いいわよ」


 俺は収納から、腐るほどドロップした魔石(極小)を2つ、テーブルに出した。


 意識を集中させ、スキルを発動する。


 半透明のウィンドウが浮かび上がり、素材を選ぶと合成結果が先に表示された。魔石(小)。結果を確認して確定を選ぶ。

 淡い光が2つの魔石を包み、次の瞬間、1つの魔石(小)へ変化した。


「……嘘。素材のランクが上がったわよ?」


 栞が目を丸くして身を乗り出す。


「装備品でも試す」


 俺は予備のナイフを取り出す。

 ベースにして、装甲猟犬の鋼鉄の欠片、オークの鋭い牙、触媒として魔石(小)を選択する。


 ウィンドウの合成結果は、名称もステータスも???。まだ作ったことがないからだろう。さらに赤字の警告が出ている。


 『※装備品合成に失敗した場合、ベース以外の素材と魔石はロストします』


「失敗すると、素材と魔石は消えるみたいだな」

「えっ、もったいない……」

「余り物だから痛くない」


 俺は迷わず確定を選んだ。


 強い光。収まる。

 テーブルの上に残ったのは、元のナイフの面影を残しつつも、黒光りする強靭な刃を持った新しい短剣だった。


 刃が黒く輝いている。中級に上がったばかりの鑑定が、即座に数値を弾き出した。攻撃力は元の4倍以上。おまけに装甲を貫く付与まで乗っている。


 予備のなまくらが、中堅冒険者のメイン武器級に跳ね上がった。


「これ、生産職の最上位スキルじゃない!」


 栞が信じられないものを見るように叫んだ。


「失敗のリスクはあるけど、素材さえあれば強い装備が作り放題ってことね」

「ああ。防具やアクセサリーも作れるはずだ」


 俺は短剣の刃を確かめながら頷く。


 今の俺たちには、300万のミスリルナイフと深淵の骨杖がある。

 だが防具やアクセサリーは手薄で、ずっと後回しだった。


「でも手持ち素材は、牙とか鉄片とか武器向けばかりだ。防具に使える丈夫な皮や、アクセサリー用の鉱石が足りない」

「なるほどね……なら、いきなりCランクの深部に突っ込むのは保留にしましょうか」


 栞が楽しそうに口角を上げる。


「ああ。まずは装備を全身一新する。素材集めのために周回だ」


 俺は缶ビールに口をつけた。



 何気なく、ステータスボードを開く。

 数字が並ぶ。レベル18。HP450。SP3200。


 1ヶ月前のレベル16から、着実に積み上げてきた結果だ。


 スキル欄をスクロールして、一つのところで指が止まる。


 『二刀流』


 3週間前の睡眠ボーナスで引き当てた。手元の予備のナイフと組み合わせてみたが、剣が頼りなくて結局ほとんど活かせなかった。ずっと持て余してきたスキルだ。


 テーブルの上に、さっき作った黒短剣が置いてある。黒い刃が、リビングの灯りを静かに反射している。


 ――これで、やっと使い道ができる。


 俺はボードを閉じた。

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